580話 調査してみる⑤
2025-06-09 レポートの報告内容の欠落があったので追記
鍛錬とか魔術の研究とかをして過ごしていると気が付けば十一の刻近くになっていた。既に支度は出来ているので鯨の補給用の物資を置く偽装倉庫へと向かおうと部屋の扉を開くと思わぬ人物が待っていた。
「アルマ。どうしたの?」
常夜灯のほのかな明かりに照らされたアルマは珍しく法の神の祭典用衣装を纏っており露出した肌はやや上気しており呼吸も少し上振っている。
「同行できませんのでこれをと思いまして…………」
そう言って差し出してきたものは首からかけるタイプの護符であった。神殿に行けばひとつ中銀貨1枚で買えるような品物である。ご利益は…………。あるかもしれない。
だが何ともいえぬ何かが宿っている気がする。そもそもアルマが安物の護符を態々こんな出発間際に持ってくるとも考えにくい。
「これ、もしかして今まで用意していたの?」
格好とかで直ぐに察すべきであった。間違いなく高位の聖職者が三刻ほどの儀式を経て作成する【厄除けの護符作成】にて作られたものだ。仮にも【神格降臨】を成功する程の聖女の作ったものである。ご利益は確実だろう。
アルマはと言えば無言でコクコクと頷く。
衝動的に護符を差し出す手ごとガシッと握り感謝を伝える。そしてこう付け加える。
「良かったら首にかけて欲しい」
そう告げると腰を落として待つ。この世界に来て僕の身長も伸び彼女との差は5サルトほどある。流石に屈まないと無理だ。
てっきり後ろに回り込んでかと思いきや正面から腕を伸ばして首にかけてくれる。意識しているのか否かだがほどほどに豊満な胸を押し付けられる。
一応僕も年頃の男なんだが…………と思いつつ自制心を発動させる。
つけ終わり一歩離れた時を見計らって頬と頬を近づけて軽くキスをする。こっちの世界の親しい男女間ではよくある親愛の挨拶である。
「行ってくるね」
平静を装うってそう告げると歩き始める。アルマが固まってるけど流石に時間がない。まとめ役が遅刻とか話にならないのだ。
とりあえず僕はよくやったと褒めたい。健司ならもっとスマートに決めたんだろうけどなぁ…………。
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一の刻。僕らは鯨の腹の中にいる。もっともここは海ではなく亜空間だが。
改
調子に乗ったハーンがフルスペック版の白鯨級改潜航艦を建造したのだ。元々あったモンキーモデル的な一番艦は練習艦としこの弐番艦は武装満載しており完全に戦闘艦である。
船員の多くは師匠のところの茨の園から派遣された少年少女が多いが幾人か元防衛軍のオジサン連中も幾人か乗り込んでいる。
ただその中に僕が知らない人が幾人か混ざっている。艦内ですれ違ったおしさんが挙手敬礼をするのでこちらも返すのだが、違和感を感じて少し考えこむ。
「あ、角度が違うのか」
高屋家に縁のある陸軍のおじさんらは挙手敬礼の際に二の腕は地面に対して水平になるのに対して先ほどのおじさんらは前方に45度にしてやや二の腕を下げている。あれは海軍の中でも潜水艦乗りの挙手敬礼だ。
でも海軍出身者とかって居たっけ?
首を傾げつつどうせ師匠がどっからか拾ってきたんだろうと結論づけた。
僕に宛がわれた貴賓室に戻り師匠からの報告書を確認する事にした。
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最新の世界情勢は東方は混迷を極めているであった。神聖プロレタリア帝国、赤の帝国、東方諸国連合の生き残り国家、竜王国エルマイセン、終末のモノが争っていた。
北方は相変わらず黒い霧が率いる亡者の集団が徘徊しており、西方では巨蟲どもが人里を荒らしている。南方もどの国でも民衆の暴動が頻発している。中原は比較的安全ではあるが唐突に迷宮が出現したり見慣れぬ魔獣が目撃されているという。更に魔神どもだ。終末のモノからの被害報告もある。輸送を請け負った冒険者が自爆攻撃で荷物ごと吹き飛んだという話が二桁件数上がっている。
南大陸では現地人が急に狂暴化し入植者たちを襲い掛かっている。裏大陸では豚鬼王種を束ねる差し詰め豚鬼皇帝種と呼ぶにふさわしい強力なカリスマ性と実力を備えた個体が出現し豚鬼帝国を築いたという。皇帝は非常に残忍でが理知的だとの事だ。そして驚いた事にどこで得た知識かは不明だが様々な技術を豚鬼社会に導入しているとの事だ。
終末のモノは現在は倒されると自爆する人型兵、倒されると自爆する獣型の斥候兵、遠距離攻撃を行う騎兵、2サートほどの巨人兵が存在する。騎兵は恐らく赤の帝国の竜騎兵が元になっただろうとの事。巨人兵は赤の帝国太古の騎体が元になっている。
更に狩猟民族でもある赤肌鬼や豚鬼も生息地を追われて人里を襲ったりもしているという。
特異点の安全は現在のところ問題ないとの事で世界は滅びないかもしれないが人類は滅ぶかもしれないと書き込まれている。
師匠の共同体である双頭の真龍は実力者を他の大陸の入植者を逃がすために奮戦しており手を貸せない。更に師匠らも最低半年は連絡取れない所にいるとの事であった。
そのため人手が欲しい時は半森霊族の隼を常駐させるので茨の園の子の中でも教育の終わっている子らで良ければ使ってくれとあった。
その辺の若い冒険者より使えるしこれは助かる。
そしてお土産を用意したとの事であった。
元の世界が崩壊する直前に防衛軍の生き残りの中から希望者を募って連れてきており同化教育は済んでいるとの事。その中には空軍および海軍の者も混ざっている。
それで見知らぬおじさんが居たのか。師匠は実家に食客で居た際に軍関係者と懇意があったためあっさり話が通ったのだろう。
そしてお土産の本命は始まりの十家が保有していた準神話級の魔法の工芸品である。回収可能なものは全て持ってきたとの事であった。ただし皇室が所有していた[支配の王錫]は失われたとの事だ。
そして不服だろうが命に優先順位をつけ守るべき者と見捨てる者を間違えないようにと忠告が記されていた。
以前師匠が言っていた。可能性とは呪いであると。出来ないと決めつけ小さな枠に収まるなという人がいる。それを言う人は自分の想像力の範疇でしか語っておらず想定外の事には対応できない。可能性を信じて無理をして散った者は星の数ほどいる。神ですら全能ではないのに人如きが驕ってはいけないと。
だから自分に出来る最良を行う。それでダメなら人を頼る。それでもダメなら尻尾巻いて逃げろって内容だったかな?
しかし損切りって僕は苦手なんだよなぁ…………。
そして調査中と注釈してあったが地脈の流れに異常が見られるとの事であった。緊急の問題ではないが数か月後とかにじわじわと効いてくる可能性がある。師匠の私見では偽物の[豊穣の剣]が何処かで使われているのではないかと綴られていた。
地脈の流れが変わるという事はこれまで供給されていた万能素子が増減しそれによって地脈から万能素子を汲み取ってる迷宮や古代都市などに悪影響があるという事だ。中原は太古に土地や気候すら改造しているから大飢饉や天候不順などが起こるという事か。
僕らが複数保有する[豊穣の剣]は全部本物だよね?
偽物の[豊穣の剣]が地脈にどう影響を及ぼしているかが記載していないので何とも言えないがあとでアルマあたりに相談かなぁ…………。僕の頑張って勉強はしているんだけど彼女の知識量に勝てる気がしない。
それと力の弱い並行世界がいくつか滅んだことによる揺り戻しが近々起こるとも書かれていた。
揺り戻しとはなんだろうか?
これもアルマ案件かな。
なんか一気にあれこれイベントが発生しすぎてないか?
これも以前師匠が言っていた揺り戻しってやつかな。
考えても仕方ないので頁を進めると最後はお土産の目録であった。結構数が多くて後回しにした。例の島に置いてあるらしい。
気が付けば二の刻を過ぎて仮眠でも思ったところにハーンが尋ねて来たのだ。




