576話 調査してみる①
なんかPCの調子がよろしくない。特にM2.SSDがやたらと高熱化して…………
そこは見事に何もなかった。
領都の南門を出ると隣国である日本皇国へと伸びる葦原街道が続いている。この街道はウィンダリア王国に多く見られる石畳や土瀝青などでの舗装されておらずは版築と呼ばれる土を突き固めて壁や基礎などを構築する古代建築の工法である。昔からある工法で特別な機器などなくても整備や補修が可能なので技術レベルの低い国にはうってつけである。
それを巡回業務で雇用した冒険者が定期的に点検をして回っているそうだ。
帝国の土地管理法で都市部と街道沿いに隠れる事が出来る障害物を建造する事は禁じられている。ハーンと姫将軍に相談した結果、領都の南側の拡張工事という名目で南側に帝都ドーム一個分ほど拡張する形で話がまとまった。
必要書類を確認し調印し直ぐにでも工事に取り掛かるので南門は封じて欲しいと頼み僕らは共同体拠点へと帰還する。
帰還後にハーンにいくつかの条件を提示しその範疇で最大限強固な防衛施設を構築するように指示し元防衛軍在籍で建築学を修めた土橋一等陸尉を紹介する。
「彼と相談して可及的速やかに拠点の構築を頼むね」
ハーンは返事も早々に土橋一等陸尉と打ち合わせを始める。土橋一等陸尉がこちらを見てるが目で付き合うようにと告げる。日本帝国人独特のコミュニケーションともいえる。こっちの世界の人は口の動きで感情を読み取るそうで目と目で通じ合う人ってあまりいないんだよねぇ。
手を振ってその場を去る。
暴走しなければいいんだけどねぇ…………。
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数日後、僕は[神の視点]を設置してある会議室で報告書を読んでいた。
「ウィンダリア王国軍の動きねぇ…………」
兵站を扱う補給部隊がいるにもかかわらず外注、つまり僕らの共同体に物資の移送を依頼するので変だなと思い試験運用中の密偵部隊を方々へと放っていた。密偵としては修行中な者も多いが何事も経験だし危険度は少ないとの判断だ。仮にバレたところで訓練としての周辺調査という名目なので困る話でもない。傭兵共同体扱いの僕らが情報収集に動くことはよくある事で特に問題はない。
彼らが持ち帰ってきた情報は軍の輸送部隊が南へとこっそり物資を運んでいるという内容であった。
報告書を読むにかなりの物資が南へと運ばれているが途中で足取りが追えなくなっているとあった。
[神の視点]に向き直りウィンダリア王国の南部エリアを映し出す。最後に魔導輸送騎らが確認された町は国境沿いの小さな町だ。名前までは流石に表記されないが、人口一千人程度の貧乏男爵の領都くらいの規模だろうか?
不思議な事にさらに南へ進んでも国どころか人も住んでいない。でも国境沿いなのである。
領土は広ければ良いというものでもない。管理できなければ足枷にしかならないのである。[神の視点]に浮かび上がる立体投影地図を更に南の方へと移動させていくと自由民らしい粗末な集落が点在していた。やや起伏がある地形が続き帝都ドーム35個分くらいの森があってその先は切立った崖で終わっていた。その先は海である。
その日は曇りだったそうで周囲は真っ暗であった。夜陰に紛れて東西どちらかに移動したのかとも考えたのだけれども目撃情報がない。
「そうなると南の森が怪しいけど…………どう考えても森の中を魔導輸送騎が移動できる訳ないんだよなぁ…………」
例の島と同じで広域の幻覚魔術の類だろうか?
森の側に集落がないのもちょっと不自然だし。
誰か派遣してみるか~。
そんな事をブツブツ言っていると、
「何かお悩み?」
唐突に和花に声を掛けられた。扉も閉めていたしいつの間に!
驚いていると呆れたような表情してこう述べた。
「一応言っておくけど、ノックはしたわよ。そばまで寄ったけど全然気が付かないし…………」
相変わらず集中すると周囲が見えなくなるなぁ…………。時間を確認すると既に九の刻を過ぎていた。夕飯時だなぁ。
「良いところに来たしちょっと外食しに行こうか」
ここで『何か用事でもあったの?』などと聞くのは流石にダメだろと思いそう切り出した。
「そうね。私もちょっと聞きたいことがあったし良いかも。何食べようか?」
「それなら…………最近おじさんらが通っている日本皇国料理の専門店とかは?」
ちょっと敷居が高いが本場の味という事で防衛軍のおじさんらが足繫く通っているとの事だった。徒歩で八半刻くらいのところにある。
「そうね。私も興味はあったし行きましょ」
そう言って和花は僕の手を取る。
共同体拠点の守衛らに外出を告げ和花と二人最近配置された燃料式街灯が照らす大通りを特に会話もなく並んで歩く。
「なんか思ったようにはいかないもんだね」
「どうしたの?」
唐突に放った言葉に不思議そうに和花が反応する。
「こっちに来たときはある程度等級が上がったらのんびりしようかと思ってたんだよね。それが…………」
「気が付いたら大所帯だものね」
「そうそう。面倒を見てしまった以上は彼らに対して責任を以ってこっちでやっていく土台は作らないとならないし…………」
「でもそろそろいいんじゃないの?」
「そこで考えたのが下部共同体を作って人員の大半をそっちに移籍させて僕らは身軽になろうかって考えているんだ」
「そうね…………余計な事務仕事も減るし私は賛成かな」
そんな事を話しているとあっという間に八半刻が過ぎ目的地に到着していた。
敷地境界壁は漆喰に瓦屋根をしておりそこだけ建築様式が異なり違和感しか感じない。門を潜り敷地に足を踏み入れると玄関まで和風の庭園が続いており木造の和風建築っぽい軒が長く瓦屋根が重厚な平屋の大きな建屋が存在感を主張していた。
入口で僕らを見た店員さん、ここだと仲居さんの丁寧過ぎる挨拶を受け特に指定したわけもなく当たり前のように奥の座敷へと通された。当初は普通の割烹料理店と思っていたのだけど料亭風の割烹料理店といった感じだ。
メニューに関してはお任せとした。仲居さんに「ご予算は?」問われたので二人で金貨一枚で収まる程度と答えておいた。
僕も和花もアルコールはほとんど飲まないので果実水を頼み喉の渇きを癒やしたころ仲居さんがお通しとして出汁巻き卵を出してきた。
こっちの食事に慣れてしまい出汁巻き卵とか実に懐かしい。
舌鼓を打ち話を切り出そうとすると先に和花の方が切り出してきた。
「姫将軍のところはどうだったの?」
忙しすぎて姫将軍のところから戻って以来ゆっくり会話する間もなかったのだ。
帝都ドーム35個分=大阪万博会場よりちょい大きいくらい。




