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62話 予想外の展開②

2019-03-18 一部文章を追加。

「構えろ」

 そう父に言われ正眼に構えた瞬間には父は目の前にいた。【疾脚】による間合いつめからの突きが僕の首を掠める。かろうじて回避が間に合ったが攻撃はそれで終わったわけではない。攻撃を繰り出した父の上体が流れずピタリと一瞬だけ止まり切っ先が今度は袈裟斬りとなる。高屋流の【疾脚多段突き】の変形技だ。

 バックステップで大きく躱し間合いをとる。着地した際の膝のバネを使って間合いを詰め刺突を繰り出す。だがこれは分かっていたとばかりに高屋流剣術の防御の技【刀撥とうはつ】によって綺麗に左側へと往なされ体勢を崩される。父がその隙を見逃すはずもなく往なした木刀が左切り上げの要領で僕の腹部を下を襲う。

 体勢を崩され回避も防御もほぼ無理という状況を打破すべく意図的に転んで地に転がり間合いを取る。ここで追撃されるとジリ貧になるのだが父は追撃してこなかった。十分に距離が開いたので起き上がると同時に木刀を正眼に構えなおしひと呼吸入れる。


 正眼に構えた父に隙は見当たらない。その佇まいは師匠とはまた違った風格を感じる。

「…………」

 長いのか短いのか時間の感覚が怪しくなってきたが、父は気を緩める気配はない。こちらから動いて隙を作らせるしかないと決めた!

 正眼に構えていた木刀を振り上げる。左足を前に出す構え、左天の構えである。その構えを見て父の表情が変わった。ニヤリと笑ったのである。

 その刹那、前足の膝の力を抜き一気に間合いを詰める。【疾脚(しっきゃく)】からの唐竹は軽く躱される。【飃眼ふうがん】による見切りだ。意表を突くため斬り下ろした木刀を切り返しそのまま跳ね上げる。だがこの【逆飃(さかつむじ)】も予想していたかのように避けられる。さらに変形の袈裟斬りを放つもゆらゆらと柳の様に躱されてしまう。ゆらゆらと動いているように見えるが緩急によってそう錯覚しているだけである。【飃身(ふうしん)】と呼ばれる防御術だ。

 太刀筋を何度変えてもゆらゆらと躱され体力(スタミナ)のみを消費していく。高屋流は防御に打刀(かたな)を用いることはあまりない。

 打刀(かたな)凄い!の話は優れた使い手が業物や大業物を用いたからこその逸話であってそこらの大量生産品の打刀(かたな)では出来ない話なのである。故に打刀(かたな)を痛めるような防御を戒めている。【|刀撥】という打刀(かたな)で往なす技もあるが漫画のように受けたりはしない。

飃身(ふうしん)】からの反撃がないところを見ると此方の体力(スタミナ)が尽きるのを狙っているのであろう。


 同門の対決で相手は格上である。行動の大半は読まれてしまう。なにか手立てを考えないと…………。


 唐突に師匠のマネをして下段蹴りを放つ。これには驚いたようで一瞬表情を変え大きくバックステップで間合いを取る。それに追撃するかの如く【疾脚(しっきゃく)】で迫り脇構えに近い体勢から左薙ぎを放つ。高屋流【疾脚突き(しっきゃくづき)】の変形技だ。


 決まった!


 そう思った瞬間には父はいなかった。



 それは勘だった。反射的に左腕を出すと激痛が走った。

残身(ざんしん)】による回避(アヴォイド)からの一撃だった。

 僕が決まったと思ったモノは【残身(ざんしん)】による目の錯覚だったのだ。


 高屋家の決まりで以後は左腕は使えないものとして対処しなければならない。片手持ちに変え中段に構える。いわゆる正眼の構えだ。

 ここで弱気になって下段…………防御向きの地の構えなんて取ったら…………。


 いや、当たって砕けろだ!

 格上の父を相手に守勢で事態が好転するとは思えない。

 ここで構えを変える。

 右足を引き体を右斜めに向け木刀を右脇に取り、剣先を前に向ける。変形の横構えだ。だが意図が分かりやすすぎる。相手にこれから突きを繰り出すぞと教えているようなものだからだ。

 これから試すことは【疾脚(しっきゃく)】を超える歩法だ。成功すれば一矢報いれるかもしれない。


 左膝の力を抜き重力に引かれて前のめりになり始める瞬間。右足を蹴りだすと同時に左足を前に出す。ほぼ自己流で体得した高屋流上伝歩法【八間(やげん)】にて一気に間合いを詰める。【疾脚(しっきゃく)】を越える歩法【八間(やげん)】による超加速からの右片手平突きを放つ。もう防御は考えていないこれが避けられれば打つ手なしという心境で父の水月めがけて放った乾坤一擲だ。



 やった!  決まったと思った。ただ単純に届いたと思ったことに歓喜した。




 そう思った瞬間、父の姿はなく四方からほぼ同時に無数の打撃が襲ってきた。


「高屋流奥義【残身散打(ざんしんさんだ)】だ。覚えておけ」


 痛みに意識が遠くなっていく僕はそのまま倒れこんだ。意識が飛ぶ寸前にそう呟く父の声を聞いたような気がした。



 ▲△▲△▲△▲△▲△▲



 目が覚めると目の前に和花(のどか)の顔があった。

「あ、起きた。どこか痛くない?」

「痛みは…………」

 折れたと思った左腕も全身の痛みも…………ない。

「大丈夫みたいだ」

「良かった」

 和花(のどか)がそう言って安堵する。僕もいつまでも和花(のどか)に膝枕させるわけにはいかない。起き上がり周囲を見回すとあれだけいた生徒たちが一人もいない。


「みんな帰っちゃったのか…………」

(いつき)くんは半刻(1時間)くらい気を失っていたからね。あ、そうだ————」

 和花(のどか)魔法の鞄(ホールディングバッグ)である腰袋(ベルトポーチ)から巾着袋を取り出し僕へと差し出した。

「…………これは?」

高屋(たかや)の小父様が(いつき)くんにって」


 父が…………なんだろう? 巾着を開けてみると、封筒と…………。

つば?」

 高屋家直系の男子が持つことが許される真鍮製の高屋(たかや)鍔であった。高屋家直系男子が成人する際に白鞘の打刀(かたな)と、この高屋(たかや)鍔が贈られる。慌てて封筒の封を切って中のモノを取り出す。


 予想していたが父の直筆の手紙であった。


 三枚あり順に目を通していく。

 先ほどの模擬戦の評価から始まって、最後にこちらの世界では成人扱いだという事で鍔を贈ると書いてあった。模擬戦が終わった後に急いで書いたのだろう。



 最後の一枚は追伸だった。


 孫が生まれたら見せに来い。それだけが書かれてあった。


 父さん…………まだ早いです。


ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。

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