571話 突然依頼のひとつを消化する事になる(前編)
迷宮産赤肌鬼との戦闘はほどほどに訓練された兵士であっても冷静に対処すれば大した脅威はなくあっさり終わってしまった。
この迷宮産赤肌鬼のせいで赤肌鬼は雑魚という風評が蔓延してしまい毎年そこそこの若い冒険者が命を落としてしまう。困ったものだ。
「閣下。どうします?」
僕は少し離れた地面にぽっかりと空いた穴を見つめつつそう尋ねる。
「…………。我々だけで攻略出来ると思うかい?」
姫将軍はやや不安そうな声音でsぴ尋ねて来た。確かに兵士の練度はあまり高いとは言えない。特に精神面の鍛錬が酷い。ちょっとしたことでも恐慌をきたす可能性がある。
迷宮は兵士の話を聞く限りは出来たのが二日前なので一層、もしくは二層で総面積もそれほど広くはないだろう。
僕と完全武装のハーンで突入しても二刻もかからず攻略できると思う。
そう伝えると兵士らがホッとした表情をするのが見えた。中原は長い平和な時代が続いたせいか騎士は例外としても実戦経験がない兵士が結構多い。こういった者らを率いて迷宮入りは自殺行為なのでやんわりと少数の方が動きやすいのでと回答した。
「では、私と、卿らとで三人で良いか」
姫将軍は僕らを見てそう言ったのである。
正直言えば、え? 来るの? であった。
恐らく覆らないだろうけど一応反対意見を出してみる事にした、
「閣下は本日は平服です。流石に危険では?」
「何を言う。卿も平服ではないか」
姫将軍はそう言い返してきた。確かにお互い平服だが、僕の場合は服は神覇鉱を繊維状にして編み込んだ対刃防護服だし、他にも強力な魔法の工芸品で防御を固めている。己惚れるつもりはないが自分の実力であれば若い迷宮で負傷するリスクは万に一つもないだろう。
姫将軍は行く気満々だし誰も諫める御付きの臣下騎士い上に身分の差から兵士ら求められない限り意見は言わない。保険としてアレを持たせて同行してもらうか…………。
僕は[魔法の鞄]から晶石柱を差し出す。
「これは?」
「[緊急脱出の水晶柱]です。危ないと判断したら使ってください」
姫将軍はやや不満そうな表情をしつつも受け取ってくれた。貴女に何かあったら僕らの首が飛ぶんですよ…………。
姫将軍は兵士らに周辺の警備を指示しつつ足の速い兵士に城への伝言を頼んでいた。
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「手応えがないな…………」
長剣を振り血を飛ばしつつ姫将軍がそうボヤく。そりゃ出来立ての迷宮ですしねぇ。
迷宮の構造も単調で罠も見つからない。素人に毛が生えた程度の練度と自認するの僕でも斥候能力でも務まるレベルである。
戦闘も例の島で生産した全身甲冑風の外装の装甲歩兵を纏ったハーンがほぼ一人で無双してる状態である。たまに請われてハーンがわざと打ち洩らしを姫将軍が送り込み斬り伏せている状態である。
「おそらくここを作ったやつは意図的に怪物を生み出して外に放っているんだと思います」
「そんな事が可能なのか?」
「最新の研究ではそうらしいです」
元々が特権階級であった当時の魔術師らが魔法の使えない奴隷階級の人間らを迷宮に放り込んで必死に足掻く様を酒の肴にするための施設なので基本的には怪物は外には出さないようにしているだけである。
他の目的があるとしたら、低位の魔術師が疑似的に創成魔術が使えるようになるくらいだろうか?
僕らの実験でも魔術師でない者ですら下級品級の魔法の工芸品とか製作できたのである。
ただし僕らはまだこの報告書を魔術師組合に提出していない。冒険者目線で言うと魔法の工芸品の価格が下がってしまうからだ。
「迷宮の制御は奪えないのかい?」
何か思うところがあったのか姫将軍はそう尋ねてきた。
「譲渡なら兎も角として奪取は難しいかと…………」
高位の魔術で所有者を書き換える魔術が存在する【所有権奪取】と呼ばれる魔術だ。ただし掛ければ勝手に所有権がか変わるわけではなく対象の対抗値を上回る魔力強度を出せなければ効果がない。昔の魔法の工芸品は軒並みこれが高く断念した。
それはそれとして取りあえず目的を聞いてみる事にした。
「万能素子結晶が取れるだろ? あれは金になるし冒険者を呼び寄せれば彼らがお金を落としてくれる。町が潤うじゃないか」
「なるほど…………ただし治安が低下しますのでそのあたりは考えていますか?」
そうなのである。所詮は冒険派のほとんどが犯罪者予備軍みたいな連中である。
「それがあったか…………」
実際に冒険者が大量に流れて来た十字路都市テントスの南外壁地区の治安少し悪くなっている。
「なら兵士の訓練を…………」
「治安の低下は暴力沙汰だけではありません。十字路都市テントスでも問題になっていますが私娼ないし脱法私娼や性犯罪で性病が蔓延しています」
伝染るのは簡単かもしれないが病気の治療は非常に高額だ。
「そうそう上手くは行かないか…………」
そう言って溜息をつき姫将軍はがっくりと肩を落とす。
「でもなんで金儲けを?」
男爵とは言え王族であるならある程度は補助金なども出ているだろう。領地の運営に苦しんでいるのだろうか?
「男爵なんて貴族社会じゃ下級扱い。半人前呼ばわりだよ。寄り親なくして統治は大変なのさ」
そう言って姫将軍は貴族社会について説明してくれた。伯爵以上を真の貴族として子爵以下を寄り親なくして統治が維持できない半人前扱いをする傾向にあるそうだ。
税収が主食となる穀物払いなので農地の大きさがモノを言うし特産品や天然資源があるところは大抵は権利は寄り親が握っている事が多い。魔導騎士の維持費なども高額だ。貴族は王国の臣下でもあるが領地経営で補助金は出ない。代わりに王国いわば国主に納税する義務もない。
王国の運営は直轄領からの税収などで賄うからだ。それ故に新しく貴族の家を興す事を嫌がる。家を興すと任じた者の領地を割譲するからだ。割譲すれば税収は下がる。
「依頼していただけるなら何か金儲けの手段を講じますが?」
「少し考えさせてくれ…………」
そう言って黙り込んでしまった。そうこうしているうちに地下二階へと降り二部屋ほど進み先の通路を進んでいくと正面に大きな両開き扉が見えた。
「あれが階層主かい?」
「たぶんそうでしょう。でもこれまでの状況から中は不在の可能性もあります」
この迷宮を生み出した存在はテロ目的で作って何処に逃亡している可能性があるからだ。
そう話しつつ両開き扉の前に到着すると念のために周辺を調べる。
「なんもないね」
「んじゃ開けます?」
ハーンがそう言って取っ手に手を取り引き始めると重々しい音を立てつつ両開き扉は開いていく。
果たしては室内ははというと――――。
「あぁ…………」
僕は自分の不幸を呪った。
本来こんな場に存在してはいけないヤツが居たのである。
そいつは0.7サートほどの高さ、赤銅色の肌、四本の腕、獅子の頭部をもつ異形であった。
「な…………なんだあれは!」
姫将軍が思わず叫んでしまう。
「サダラーン。上位魔神ですよ」
気が付けば三月である。
気長にお付き合い下さる方々には感謝を。
しかし積みプラを崩す暇もないのに溜まる一方で気が付けば積みプラの数も100を超える始末。
一部ブランドを組むのをやめて売ろうかと真剣に悩む日々。




