569話 領都クリスティアーナへ
2025-04-26 誤字の修正と文言の変更
「――――そう言う事なんでハーンには随行員として同行して欲しい」
姫将軍に遂行して飛行魔導輸送騎にて領都クリスティアーナに行き設備などを見てもらいたいと説明を加える。
了解を取ると今度はハーンからいくつか見てもらいたいものがあると言われ自動工場区画へと案内される。
そこには完全装備の魔導騎士が15騎駐機していた。いずれも左腰に打刀を穿いており外観はやや日本の大鎧風に仕上げてある。
「こいつは?」
「現地風に見せかけた魔導騎士っす。二次装甲と脳核ユニットと神経節と骨格だけ二万年前の規格で作ってるっすけど他は現在使われている規格でも最高レベルの技術で構成してるっす」
「具体的にどれくらい違うんだい?」
「そっすねぇ…………設計上はほぼ遅延なしで自分の手足のように動かせるはずっす」
「それは凄いな」
今の時代の騎体は二万年前のモノに比すると性能の劣化が著しく人騎一体が基本理念の魔導騎士ではある。騎士の思考を脳核ユニットが受信し騎体に反映する仕組みであるが、この脳核ユニットと全身に命令を行き渡らせる神経節の質が特に悪く反応速度が遅く感じて違和感が凄かったのだ。
それがほぼなくなるのは大きい。武技や魔戦技の使い勝手が別物レベルで違うのだ。
「いちおう傭兵共同体としての体裁用に用意した騎体っす。ちなみに樹さんのはあっち」
そう言ってハーンが指し示した先には以前見せてもらった騎体が完全装備状態で駐機していた。
「いま習得済みの全ての技術を注ぎ込んだっす。乗ってみます?」
そう問われれば乗らないわけにはいくまい。
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「素晴らしかった」
そう告げて操縦槽から顔を出す。搭載された隠し機能、騎体の反応速度といい満足いく代物であった。確かに人騎一体と呼ぶにふさわしい代物であった。
「ただ一つ難点をあげるとすると背部に装備された推進装置の使用感が良くない事かな」
感覚としては【飛行】の魔術の使用感に近い。慣れれば使いこなせるかとは思うけど。
「そうだ姫将軍にお世話になるんで貢物で騎体を送ろうかと思ってるんだよ」
「盛ります?」
ハーンのやつがウキウキしだしたが釘を刺しておく。
「あくまで現行の騎体の域は出ないでもらいたい。中量級で正面外殻はやや厚め。あとは着脱できる外套型外殻を装備させて欲しい。それと…………御付きの騎士様に同様に中量級で重装甲な騎体を四騎用意して欲しい」
そう注文を出した。
「旗騎と守護騎士っすか。なら矢弾避けに壁盾も必要っすね」
そう言ってあーでもない、こーでもないと考え始まる。
「これで用件は終わりかな」
そう言って帰ろうとすると待ったがかかる。
「実はもう一つあります」
そう言ってハーンの先導で人造人間の製造施設へと連れてこられた。
生産装置の前になにやら作業をしている見知らぬ美人のおねーさんがいた。
「誰?」
ここには許可がない者は立ち入れないし基本的に許可した人物はハーン以下整備班くらいだ。そのなかに女性はいない。
「大主人。お初にお目にかかります」
そういって美人のおねーさんはくるりと振り返ると隙のない動作で奇麗な立ち上がると左足を斜め後ろの内側に引き、もう右足の膝を軽く曲げる。所謂カーテシーであった。
「実は最初に確保した魔光石の使い道が彼女でして…………」
「あぁ…………脳核ユニットに使ったのか」
所作とか目の動きとか見ると普通に人にしか見えない。
「もしかして結構コスト掛かってる?」
そっとハーンに尋ねる。
「盛ったんでそれなりに」
盛っちゃったかぁ…………。
気持ちを切り替えよう。
「彼女はここで何をしているんだい?」
「使用人の人造人間の教育っすね。今の時代の常識とか樹さんらの常識や言語とかっす」
「彼女を盛ったというけど戦闘能力もそれなりにあるよね?」
「流石は樹さんっす。一見すると普通の女性ですが素材を変更する事で大猩猩を遥かに凌駕するっす」
人類が到達できないレベルか。
人間の脆弱な肉体では漫画みたいな超人的な動きは不可能だけど肉体を構成する素材を変える事でそれが可能になる。ただしその分だけ自重が重くなるが。
「流石に二体目はダメだよ」
彼女の精神性などに興味があるがまずはハーンに釘をさしておく。そしてハーンに彼女を事務処理に派遣して欲しいと頼むと年明けでよければ人造人間の教育が一段落するのでそれ以降であれば随伴させてやってくださいとの事であった。
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「これが姫将軍の飛行魔導輸送騎っすか…………」
後日お互いに準備が整い領都クリスティアーナに視察に行く事になった、予想通りハーンは目を輝かして飛行魔導輸送騎を眺めている。
姫将軍の御付きの臣下騎士だもは胡散臭いものを見る目で見つめていた。
「閣下。本日はよろしくお願いします」
「うむ。短い時間であるが空の旅を楽しんでくれ」
そう言ってお供共々乗り込んでしまう。
飛行魔導輸送騎の外観は硬式飛行船そのものである。ただ居住区画は乗員込みで10名が限界で積載量が1.7グランほどの貨物室と便所とがつく。推進装置として回転羽根推進器を使用しており凡そ時速換算で27ノードで飛行する。
僕の知っている飛行船と結構性能が違うなぁ。
あれこれと思いに馳せていると浮遊感に襲われる。どうやら浮遊装置が起動したのだろう。みるみると高度を上げていく。この周辺は危険な飛行生物が居ないので50サートも上昇すれば飛行を邪魔するものはない。窓から外を眺めると本当に中原は平野だなと実感する。[神の視点]で上空からの景色は把握しているがこうして窓から眺める光景はまた格別であった。
風の影響などもあるが数時間の飛行で眼下に領都クリスティアーナが見えて来た。着地まであと半刻もかからないだろう。




