567話 追加依頼がある。
「そっちはどうだったの?」
僕は応接室にて神殿から戻ってきた和花とアルマと報告会を行っていた。姫将軍の人となりなどを話しある程度は便宜を図っても構わないのではないかという結論に至ったと話をし今度は和花らの話を聞くところであった。
二人は互いを見て頷くと和花が話を切り出した。
「まず[真実の瞳]を交渉材料にしてアルマが不在になる件は片付いたわ。当面はあれこれ口出しはしてこない筈」
ここでいうあれこれとは法の神の神殿がアルマを僕らの元出向という形で預けた事である。第二婦人でも愛妾でもいいから僕の種を貰って来いってゲスな話なのだ。稀代の聖女が五年も献身的に尽くせば流石に絆されるだろうとの目論見であった。
そしてその恐ろしすぎる献身ぶりに僕はあっさりと絆されてしまった訳だが…………。
「でも二個も渡すのは流石に勿体なくない?」
[真実の瞳]の価値は非常に高く和花であれば一個で済ませられたのではと思ってしまった。
「一個はこれからアルマ不在の理由としてでっち上げる為でもう一個が口止めかな。アルマが不在になると代わりの審議官が必要になるからね」
「不在のでっち上げの理由?」
そう問うとアルマが徐に立ち上がる。
「何かわかります?」
余り不躾にならないようにアルマを全身眺める。いつもの祭司帽とゆったりとした法衣に足元は白い編み上げ長靴姿でとくに代わり映えがない…………気がする。
暫く悩むがどうも思い浮かばない。これは減点か?
「神殿は当面はアルマとの件では口出ししてきません。なぜなら――――」
焦れたのか和花がそう切り出した。
「私…………妊娠したんです」
頬を桜色に染めてアルマがそう宣った。
「はっ?」
どういうこと?
処女受胎とかいうたぐい? それとも…………。意識がないうちに襲われてた?
「という設定よ」
和花の説明は普段の格好が体形が分かりにくい事を理由としてアルマが僕の子を妊娠しました。悪阻が酷いのでしばらく休養するという設定であり神殿もそれを認めたとの事だ。
なるほど…………。
あれ?
「でもこっちってそれなりの身分の人って婚前交渉ってタブーじゃなかったっけ?」
「もう対外的には『あれ? 式あげてませんでしたっけ?』ってくらいの認識だから大丈夫だそうよ」
外堀が埋められていたことは知っていたけどそこまでとは…………。
女性を性欲のはけ口として、またはコレクションのように侍らしたりする趣味はないので肝心かなめの和花とアルマの間で話が付いているようだからと受け入れる気でいたけど…………。
もうやっぱなしではいかなくなったなぁ。
「という事は一人目は死産という設定にするんだ?」
「ううん。こっちじゃ死産や八歳児未満での死亡率はそれなりに高いし誤魔化せるかなと思うけど時機を見て新生児に[真実の瞳]を移植する事になると思う」
そう和花が答えると、
「それにやっぱり自分で産んだ子は自分で育てたいですし…………」
そうアルマが付け加える。当初の話では一人目は神殿に取られてしまう筈であったからね。実はそこも僕が否定的な部分であった。
でも僕らの子という設定だと人種を選びそうだなぁ…………。僕ら武家みたいに魔術で遺伝子操作もするのかな?
超貴重な[真実の瞳]二つの対価としてはどうなんだろうか?
遺伝子操作でも魔眼とか恩恵は無理だからなぁ。
「話は判った。という事は僕も今後はそれを踏まえて動かなければならないという事だね」
そう言って解散となったところでふと気になったことがあり尋ねてみた。
「ところで気になったんだけど、審議官のウソってどこまで許されるの?」
「基本的にはダメです。ですが必要なウソというものもあって許されることもありますが職務中は絶対に許されません。虚言が多いと破門されることもあるので難しい所です。神殿は必要悪を認めています」
そう言う回答が返ってきた。
▲△▲△▲△▲△▲△▲
「なるほどね…………」
宰相閣下に裏の話を含めて理由を話しお断りすると一言そう言って黙り込んむとテーブルをトントンと指で叩く音だけが応接室に響いた。姫将軍の名誉騎士となったことについては特にお咎めなどはない。
助かった。
「聖女殿との件に関しては後で祝いの品でも送らせよう。それでだ…………」
そうして指名依頼として魔獣討伐と原因の究明および可能であれば排除という依頼を受ける事となった。銅銹等級の一党が全滅するという報告も上がったらしい。その魔獣騒ぎで混乱している町の名を湖畔の静養地アルトメイスという温泉が湧く富裕層の保養地でもある。平地が多いとは言っても深く掘れば温泉に当たる事もあるしおかしな話ではない。
銅銹等級の冒険者一党は決して弱くない。そんな彼らが全滅したとなると最低でも人面獅子とかだろうか? もうちょっと情報が欲しい。
「魔獣の正体を報告した者はいないのですか?」
生存者がいる訳だから何らかの情報があってしかるべきだろう。
「多くのものが恐慌しており言動が怪しく目撃情報も不一致だそうだ。それ故に我々は研究所から逃げ出した魔獣らと思っている」
「魔獣を支配下に置いた魔術師が裏に居る可能性は?」
「結社の事かね? 最近は噂にも上らなくなったそうだがどうなった事やら…………」
宰相閣下は結社の暗躍ではないと思っているのか。古代の禁書で[魔獣支配の書]というものがある。その手の魔法の工芸品があっても不思議ではない。とりあえずもう一つの可能性の方を聞くことにした。
「高い知能を有した魔獣が低位の魔獣を支配下に置いてる可能性は?」
少し考えこんだ宰相閣下は「それはあり得ないだろう」と否定する。
仮にも魔術師組合の最高導師であり大賢者たる閣下が言うのだからと思わなくもないのだけど…………。恐らくこういった考え方が魔術師組合の思考の硬直化を招いた原因な気もする。
僕らは僕らで調査しておこう。
「では、魔獣の件は承知しました。あと軍への運搬業務も問題ありません」
「…………そうか。助かるよ。巡回業務は十字路都市テントスの腕利きらに依頼したのでこの話はなかった事に。それともう一つ調べてもらいたいことがある」
宰相閣下はあくまでも序で程度で前置きをし最近中原全土で起きている異常事態があると告げた、内容は唐突に至る所に迷宮が出現しているのだとか。
ゲームじゃあるまいし勝手に迷宮が出来るなどあり得ないので恐らく誰かが迷宮宝珠を起動させまくっているのだろうか? 愉快犯過ぎるな。
「調査だけですか?」
「解決できそうであれば解決してもらいたい。報酬は…………迷宮一つ攻略につき金貨100枚でどうだろうか?」
そう提案され少し思案する。
恐らく生まれたての迷宮のはずなので攻略の難易度自体は高くない筈だ。うちの共同体の練習用にいくつか攻略させてみようかと考えた。
用件はこれで終わりだとばかりに依頼票の半票を三枚置いて閣下は席を立つ。
「承知しました。ところで期限などは?」
去り行く閣下に僕はそう問いかける。
「春の園遊会で卿らを評したい」
それだけ言うと【転移】で何処かへと行ってしまわれた。
春の園遊会という事は春の前月前週にある富裕層やらほぼすべての貴族が王都に集結し功労者を評する野外社交会だ。約三か月半くらい期間があるという事になる。
「今夜は幹部会だなぁ…………」
お前は文字数のコントロールがヘタ過ぎないかと毎回思う。




