562話 新しい装備品たち
今年はこれで最後かな。
作業中のハーンを捕まえて今後の話をするとともにいくつかの提案をする。すると――――。
「こんな事もあろうかと用意してするっす」
そんな事を言い出した。
「まずはこいつですね」
半信半疑でハーンについていき案内されたのは地下船渠であった。
「こいつは…………」
以前には巨大な次元潜航艦である白鯨級潜航艦とよく似た船体が横たわっていた。
「二番艦っすね。一番艦は意図的に性能を落としてたんで二番艦は設計図を完全再現させてあるっす」
そうして恒例の機能説明が始まる。彼はこの手の話題を話始めるととにかく止まらなくなる。使う以上は聞いておこうと思い相槌をうちつつ――――。
気が付けば一刻が経過していた。
一通り艦内を見て回り一番艦との違いを説明された後に最後に着いたのが艦内格納庫であった。
「一応言っておくが、民間組織が魔導艦に武装を施すことは禁止事項なんで見つからないようにな」
黙ってついてきていた師匠がそう忠告をしてきた。一応と言ったのは僕らもその話は聞いているので念のためと言ったところだろう。ハーンと二人して肯首する。
「んで、本来見せたかったものってコレ?」
僕の視線の先には一騎の見慣れた魔導騎士が整備台に固定されていた。そいつはアルム大陸では最も売れた騎体だ。頭頂長1.9サート中量級の魔導騎士である[アル・ラゴーン]である。明らかに僕専用だとわかる左腰に長刀と小刀が装備されていた。本体に関してはいくつか異なる点がある。
「ベタ足じゃないの?」
「樹さんが使うならヒール型の方が運動性が上がるので良いかと思ったんすよ」
どうせ鍔迫り合いや力任せの打撃には縁がないので少しでも運動性を上げてもらえるのはありがたい。
外観上は単なる特注騎であるが骨格の材質からして別物で軽く強度の優れている神覇鉱製とし神経節も伝導率の高い真銀製となっている。魔力収縮筋も高い靭性と伸縮性の白軟鉱製との事で基本性能が桁違いとの事である。更に見た目にも影響する二次装甲は魔力強化炭素繊維材と流体緩衝金属の積層外殻とした事で生半可の全劇は受け付けず、質量攻撃も8割くらい吸収してしまうそうだ。
どんなチートだよ。
キモとなる脳核ユニットも魔光石を用いた最高性能のものを用意して騎体追従性は理論的には自身の身体と同じように扱えるとの事であった。
ただし欠点もありこの巨体で生身の人間と同じ動きを再現する関係でかなりの荷重がかかるの為に専用の騎乗スーツを着用する必要があるとの事だ。材料が足りなくて騎体の慣性を中和する機構がつけられなかったとの事である。
二万年前の魔導騎士、当時は巨人騎士は真語魔術の拡張機能を有しており効果が拡張されている。
どういうことかと言えば【飛行】の魔術は本人に対して有効であるが、人が使うと人サイズでしか効果がない。魔導騎士の巨体に乗って【飛行】を唱えても対象が大きすぎて効果を発揮しないのだ。それが使えるようになる。素晴らしい。
更に攻撃魔術の射程距離、破壊力、効果範囲なども拡張される。また戦闘機動を行わない限りはステルス迷彩が可能という僕の目的にぴったりのものであった。
これらの最高装備で中継基地や管理装置を陰ながら防衛に協力しようと考えている。強大な力は見せびらかしても碌な事にならない。組織に取り込まれて飼いならされるか潰されるかである。
どちらもお断りである。
説明を一通り聞いたので他に気になったモノについて問う事にする。
「あの魔導騎士はなんだい。なんというか貧弱な印象を受けるんだけど」
それは一次装甲に幾ばくなの二次装甲が施されただけの騎体であった。
「簡易魔導騎士っすね。魔導従士の部品を多用して取りあえず安価で魔導騎士風の外観にしただけの騎体っす」
「ようするに高級な魔導従士って認識あってる?」
「もうちょいマシです」
そう言ってハーンが笑う。ただし素材などは最高級品を持ちいてるため恐らく性能はそこらの魔導騎士よりも強力であろう。
「しか十騎もあっても乗り手が居ないだろうに…………」
他にも以前から使っている搭乗型多脚戦車である砲撃型多脚戦車が三騎の他にこの島で拾った細身の女性型の巨人騎士があった。
これだけで規模の大きな都市国家を落とせる戦力である。
ただこれらを用いて戦争難民を助けるかと言われると悩む。戦力は可能な限り秘匿したい。うちの共同体の総意として迷信深い東方民族などは足しか引っ張らないだろうから若くて硬直した価値観に染まっていない若い世代であれば助けるのもアリとなっている。人間って意外と分かり合えないのである。
そもそも僕が難民救助にあまり積極的に動かない理由が軒を貸して母屋を取られることを懸念しての事である。
あくまでも僕らの価値観を尊重してくれる相手なら手を差し伸べたい。元の世界でも難民問題は深刻であった。
さらに細かい装備などの説明を受け方針として一番艦は共同体で使用してもらいこの二番艦は僕が私的利用するという事になった。その為の面子の選別も必要となるのである。
「ところで難民を助けた場合は彼らの処遇はどうするんだ?」
唐突に師匠が問いてきた。
これらの装備を見られた場合は安全な場所で開放すると困る事になるので可哀想ではあるが自らの安全を最優先する方針である。苦渋の選択ではあるが見殺しである。
助けた場合は小型箱式魔導騎士輸送騎を用いて共同体の拠点に移動してもらい教育かな? 中原民族以外はかなり教育水準が低いからねぇ。最低でも中原民族レベルまで教育する。
一番最悪なのは権力者たちに人類の敵認定されてしまう事だ。あいつら自分たちの権力基盤を揺るがす存在に対しては残酷だからなぁ。だからこそ力をひけらかしたくない。そうは言っても終末戦争が終わるまで引きこもり良心の呵責がね。
ある程度話し終えたので二番艦を拠点まで移動してもらう。僕はと言えば王侯貴族たちからどう逃げ回るか対策を講じなければならないので打ち合わせのために先に拠点に戻る。
本年もお付き合いありがとうございました。
業界的にブラック勤務が常態化しているところの為に当面は不定期投稿となります。
他にも母親が認知症という事で世話が必須っていうのもあるんですが…………。




