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559話 決闘とかお腹が一杯だ

大晦日までにあといくつ投稿できるのか?

 父や兄らが死んだのか…………。まだ父を超えられたとは思ってないし、それに孫の顔を見るんじゃなかったのか。


 まずそんな思いがあったが冷静に考えると終末のモノ(ロパーア)の資料を見る限り初見でやつらの襲撃があった場合は大抵は敗北するだろう。だがいくらなんでも滅びるのが早すぎる。てっきり師匠経由で逃げてくるかと思っていた。

 沈黙が続く僕を侍従長ローディー・チェーンバリンらが不安そうに見つめている事に気が付き一旦考えるのをやめた。目の前にいる者らの処遇を考える。師匠の【次元門ディメンジョン・ゲート】を以てしてもこの人数しか連れてこれなかったとみるべきか。


 ここにいる多くの者は本家の道場で見た者が大半であった。防衛陸軍の特殊部隊に配属された者や警察の抜刀隊に配属された者、打刀(かたな)関連の各種職人(クラフトマン)、家の使用人(ディペンデント)やその家族もいる。

 彼らの反応は二つに分かれる。

 本家道場に居た者は日本(やまと)帝国に居た際は中伝を修めた僕を侮っている。彼らは最低でも上伝を修めており雲龍(うんりゅう)三等陸佐クラスである。彼らの中では未熟な者と映るだろう。まさかたった二年ほどでの成長などたかが知れていると思うのは仕方ない。日本(やまと)帝国で二年過ごしていたら恐らく僕はたいして成長していなかっただろうから侮られてても仕方ない。

 一方で使用人(ディペンデント)職人(クラフトマン)らは仕えるべき高屋(たかや)家に依存しているせいか自分たちの進退を決めて欲しそうである。


 いずれにしても彼らの実力なら働き先は困らないはずだ。ここで公用交易語(トレディア)の習得と世界の常識とのすり合わせを行えば問題はないだろう。

 思わず横を向き師匠を見る。目が合ったが無言である。自分で考えろって事のようだ。


 なんで…………こう…………思うように生きられないのかぁ。

 貴族にでもなって彼らを養う? 

 それともいっそのこと国でも興す? 


 いやいやどれもノーである。責任が持てないし自由はなくなる。特に貴族や王は興したばかりが一番大変だ。家臣に任せて自由を謳歌できるのは数代過ぎて安定したからだろう。


 この世界だと王侯貴族は分かりやすい栄達先だが貴族の煌びやかさだけをみて羨ましいと思えるほど単純な知能(あたま)であれば良かったとこの時ほど思った事はない。


 あのとき僕らが大人しく元の世界に帰還していればこんな事態にならなかった? でもその場合は自由のじの字もない。ただ敷かれたレールを漫然と生きるだけの生活が続く。僕には耐えられない。


 いや。逃げてしまえば良いのは分かっている。ただ、名前も知らない者らなら兎も角として馴染みの彼らが救いを求めて来たのにそれを見捨てて好きに生きる事は出来そうにない。必ず後悔しそうだ。


 取りあえず差し出されたままの家宝を無言で受け取り腰に差す。周囲がざわめく。訝しみつつ鯉口をきり少し抜いてみる。その途端に可視化されるレベルの魔力(マーナ)波長(オーラ)が噴き出す。


 周囲がどよめく。持ち主として認められたらしい。確か次兄らが持った時はなんの反応もなかったと記憶している。


 侍従長ローディー・チェーンバリンの高遠が感極まった声で告げる。

「間違いなく[無想友近極光むそうともちかきょっこう]は御館様(マイロード)を主と認めたのです」

 感極まる使用人(ディペンデント)らと対照的な者たちが防衛軍のエリートらである。格下と思っている僕に大いに不満があるようだ。


 僕は彼らにこの世界で生きていくために必要な事を学んだ後に進退を決めようと告げる。問題を先送りにするという僕の悪い癖でもある。そうして本来の目的を果たそうと踵を返すと、

「待て! 我らは血筋だけのお前を認めない!」

 そう叫ぶ男は歳の離れた長兄に幼馴染であった男だ。なんて名前だったか…………。たしか安住だっけかな? 


「それで? 五男坊の出涸らし如きに高屋(たかや)家当主としては認めたくないと?」

 親族間では体内保有万能素子(インターナル・マナ)の波長は似通る。一部の血統に反応する魔法の工芸品(アーティファクト)はそれを以って持ち主を選ぶ。単に優先度の高い直系が僕だけだったという話だ。血縁ですらないあかの他人が認めないとか関係ないんだけどねぇ。

 その後もあれこれと暴言を浴びせてくるのを黙って聞いていると横で聞いていた師匠が口を開いた。

「なら決闘でもしたらどうだ? 実力がないやつに従いたくないんだろ?」

 そう言った師匠はニヤニヤとしていた。その顔に一発ぶち込みたい。返り討ちにあうけど。

 待ってましたと言わんばかりに獰猛な獣のような笑みを浮かべると安住氏は元の世界から持ち込んだ打刀(かたな)を持ち前に進み出てきた。


「腕の一本くらいで許してやる」

 安住氏は格下を嬲る気満々な態度で示す。ただ師匠が決闘を許したという事は僕に勝算はあるのだろう。もっともどれくらいの勝算かはわからないけど。

 ところで僕は愛刀を失ったんだけどこの家宝を使って良いのだろうか?

 僕の考えを察した師匠が[魔法の鞄(ホールディングバッグ)]から一振りの打刀(かたな)を取り出し放る。それを受け取ると確認もせず腰に差す。


 決闘の手順は師匠のコイントスで石畳に落ちた瞬間に開始である。

 安住氏は日本(やまと)帝国に居た頃の僕の実力を基準に考えているのだろう。互いの距離は1.25サート(約5m)とうちの流派としては短い。恐らく安住氏は上伝の技を用いて速攻で仕留めに来るだろう。彼我の距離的に【八間八波(やげんはっぱ)】か【雷槍(らいそう)】だろうか?

 どちらも突進系の技なので突進系の技で対抗する場合は体格で勝る安住氏の方が威力は上になるので選択肢から外す。どう対応するかな?


 安住氏が打刀(かたな)を鞘から抜き放ち腰を落とす。間違いなく【八間(やげん)】からのコンボ技だ。恐らく僕の実力を甘く見積もっているのだろう。決闘で舐めプはダメだと思うんだ。


 わざと初撃を譲って魔闘術(ストラグル・アーツ)の【反射(レフレクティエ)】で行動不能にする手もあるけど恐らく納得すまい。


 僕は両手をだらりと下げ始まりを待つ。その態度が気に入らなかったのか安住氏が激高しかかるがなんとか自制する。そして師匠がコイン放る。







 勝敗は一瞬で決まった。

樹くんのいた世界は資源が枯渇し四度の世界大戦で多くの技術を失い国際秩序もかなり怪しい世界線です。


八間(やげん)

  ひと蹴りで一気に間合いを詰める飛び込み技。

雷槍(らいそう)

 【八間(やげん)】の勢いを利用した神速の刺突

八間八波(やげんはっぱ)

 【八間(やげん)】で飛び込みつつ滅多斬り


反射(レフレクティエ)

  かつて樹くんが迷宮都市で竜人族(リルドラケン)と対決した際に食らった技。高められた体内保有万能素子(インターナル・マナ)が防御膜となり触れた者に電気で撃たれたような衝撃を与える。

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