558話 予期せぬ人物
「よし。雲隠れしよう!」
暇を見て調査に行こうとリストアップしてあった遺跡の推定位置を調査する事にした。ただし事前調査という名目で雲隠れするので面子は絞る事になる。
「なら私は残るね。流石に私も消えると逃げたと思われるかもしれないし」
和花が察してくれて居残り組に立候補してくれた。こういう状況で和花を同伴させると駆け落ちとか言われそうなのだ。僕は構わないが残された者たちが困るのだ。
「残念ですけど私も残ります。審議官の仕事が残っていますので」
同じように事情を察したアルマも残念そうな表情で残留してくれた。ちなみに既に一人は同伴者を決めている。
「瑞穂。悪いけど付き合ってもらうよ」
何処かに居るであろう瑞穂に声をかけると「うん」と返事が返ってきた。気が付けばすぐそばに立っていたのだ。相変わらず平時は気配が読めない娘だ。調査に斥候が居ないのはおかしいからね。
「あと二人ほど欲しいけど誰がいいと思う?」
誰とはなく問いてみた。
瑞穂は斥候よりの万能型、僕は遊撃寄りの万能型に分類される。
「あ、彼らに頼むか…………」
忘れていたと言えば失礼に当たるが客人が居たではないかと思いだす。あの二人に同伴願おう。金竜殿と白竜殿の事だ。
瑞穂に二人を呼んでくるように言う。僕らが雲隠れしている間の対応などを和花とアルマとで相談する。
二限ほどして瑞穂が客人二人を伴って戻ってきた。
細かい話をしても理解できないと思い遺跡の調査に同行して欲しいと頼むと快く了承してくれた。
ある程度軍資金を持っているので特に持ちだすものはない。非常時に備えて[魔法の鞄]に食料なども沢山ある。あと足りないものと言えば…………。
やはり[時空倉庫の腕輪]が欲しいな。共同体の共有資産として一つ持っているが僕個人として欲しい。自動工場で複製できないかハーンに聞いてみるとするか。
生産制限を撤廃したからハーンがはっちゃけてどんなことをやらかしているかを確認したいというのもある。
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島は時差はほとんどないが南半球という事もあって結構暑い。冬物の頭巾付き外套を脱ぎ恐らくハーンたちが籠っているであろう自動工場区画へと向かう。
男所帯の自動工場区画っであったが予想以上に清掃が行き届いていた。あいつらにここまでの家事能力はなかった気がするのだが…………。
答えは実に簡単であった。人造人間を量産して雑務を彼らに押し付けていたのだ。
特徴のない顔をした男女が無表情で掃除を行っていた。
自動工場の制御室に着くとそこには意外な人物が居た。
「師匠! どうしてここに」
正直言えばやはりここの存在は師匠にバレていたかと…………。
「ちょっと知人からの頼まれごとでここの施設を使わせてもらってたのさ」
知人? 師匠は交友関係はかなり謎だけど知っている人だろうか? あまりここの事は表ざたにしたくないのだけど。
「丁度良かった。会わせたい者らがいるんだ。ついてきてくれ」
考え込んでいると「行くぞ」と言って踵を返すと外へ歩き始める。
「ハーン。後で相談があるから!」
僕はそう伝えると師匠を追う。
師匠に追いつくと会わせたい者とやらの事を聞くも会えばわかるとしか言ってくれなかったので話題を変えることにした。
近況を話し暫く雲隠れする事や貴族絡みの話を通路を歩きつつ話した。黙って一通り話を聞いた師匠だが、「そう言う話が来ると思った」と言って何処からか頭巾付き外套と腕輪の他に指輪と二つの水晶玉のような物を取り出すと、「受け取れ」と押し付けてきた。
「師匠。こいつは?」
「頭巾付き外套は[気配遮断の外套]だ」
そう言って効果の説明をしてくれる。認識阻害、探知魔法からの防御、光学迷彩、遮音の効果があるとの事だ。
竜殺しの二つ名は瞬く間に広まったそうで若くて黒髪で打刀持ちだとほぼ特定されるとの事だ。光剣持ちの方がまだバレにくい。
打刀使いは多くない。高い技術がなければ武器の持ち味を生かせないからだ。素人同然の者が使うと切れ味も微妙だし簡単に折れ曲がる。手入れも大変だしね。
「次に指輪は[呪文貯蓄の指輪]だ。メフィリアに全て【完全解除】を封入してもらった」
負けず嫌いの師匠が唯一勝てないと言い切った前世からの恋人であるメフィリアさんはとてつもない魔力強度を持ち彼女に解除できないモノはないと言い切るレベルである。
「あれ? 和花が預かっているモノにも同じように封入してますよ?」
「それは知っているが、ちょっとマズいものが最近大量に出回っているんでその対策だ」
「なにかありましたっけ?」
「[隷属の首輪]だよ。何処かの馬鹿が複製したのか発掘したのかは知らんがね」
中原だと奴隷は法律上の人権を失うが人格権などは尊重される。契約外の事を強要すると主人の方が罰せられるくらいだ。
だが[隷属の首輪]は違う。主人に反抗できない。完全にモノ扱いである。
それが出回っている?
「マズいじゃないですか」
なるほど万が一にでも僕らが[隷属の首輪]をつけられた時の解除用か。
「分かったようなので次な。腕輪だがこれは[時空倉庫の腕輪]だ」
「あ、それ欲しかったんですよ」
「そうだと思ったんだよ。そして最後だが――――」
「師匠。あなたは神か」
その水晶玉は目玉サイズであった。立派な魔法の工芸品である。名を[真実の瞳]という。
対象の眼球と入れ替える事で審議官と同等の力を与える義眼であった。これをどのようにするかという話もしてくれた。
しかも二個。
素晴らしい。
ウキウキしながら歩いているといつの間にか中央広場まで来ていた。
そこには黒髪の様々な年齢の百名以上の男女が各々作業にいそしんでいた。
「注目!」
突然師匠が声を張り上げた。実によく通る声で作業中の男女が全員こちらを見る。
あれ? なんか見知った顔が…………。だが彼はこの場に要らない筈だ。他人の空似か?
「坊ちゃん!」
その見知った人物は確かに日本帝国語でそう叫んだ。人々が一斉に集まってくる、中には泣きだすものまで居る。
彼らは本来ここには居ない筈であった。横に立つ師匠を見る。彼らをここに運んできたのは間違いなく師匠だろう。
最初に叫んだ老人があえてなのか公用交易語で「御館様」と言うと片膝をつき一組の打刀を捧げ持つ。
それは自分が持つことは叶わない筈だったモノ。
高屋家当主の証である[無想友近極光]と[無想友近残影]であった。
それを高屋家の侍従長である高遠が捧げ持つ意味。
それは当主である父が死に他の後継者がすべて死んだという事である。
メフィリアさんですが流石に準神話級や神話級は儀式なしでは解除できません。




