60話 同居
「そういえばおふたりは恋人同士なのですか?」
セシリアさんの爆弾発言に思わず
「「ち、違うから!」」
ハモってしまった…………。
そうだよと答えたいが、恋人の定義とは何かと問われると今の僕らは友達以上恋人未満? いや、互いの思いは知っているのだ。これは恋人でも良いのではないのだろうか?
なんか微妙な空気が漂っているので話題を変えなければ!
「話は変わるけど、セシリアさんは奇跡はどの程度まで使えます?」
セシリアさんは長くボリュームのある金髪をかきあげると、その特徴的な耳が目に映る。
「つい2週間ほど前に神の声が聞こえまして【軽傷治療】、【不死者退散】、【沈静】、【覚醒】、【邪悪からの防御】の5つを授かりました。回数は頑張っても一日で5~6回ですね。」
そう答えたあと僕の視線に気が付いたのか耳を隠し、こちらを窺うようにこう言った。
「やっぱり半端モノの半森霊族とかお断りですか?」
「あ、ごめん。そうじゃないんだ。その…………なんていうか…………初めて見たものでつい…………」
和花もうんうんと頷いている。
「そういえばおふたりは西方の日本皇国ご出身の方なのですか? あっちの方だと妖精族自体が珍しいですものね」
うんうんとひとり頷いている。
「気分悪く悪くさせちゃったらゴメンね。私たちもちょっと常識とかに疎くて…………」
和花の微妙なフォローが入り一応納得したようだ。
「話を戻すけど、奇跡以外は何が出来るんです?」
「教会の孤児院では薬草師の指導を受けていました。薬効のある植物や食べられる植物なんかは分かります。薬はちょっと自信がないです。あとは緊急時の応急手当くらいでしょうか…………。もしかしてお役に立てませんか?」
完全な後衛型になるのか…………。そうなると健司と隼人が前衛でセシリアさんを後衛として、自衛の出来る和花と瑞穂をその護衛に当てて、僕が遊撃かな。結構いいんではないだろうか?
あれこれと思案していたところを和花が脇腹を抓ったことで打ち切られた。
「また話を聞いてない。樹くんは考え事を始めるとすぐに周りが見えなくなる」
和花にはそう言われて怒られるし、それを見ていたセシリアさんにはクスクスと笑われてしまった。
「ホントにごめん。一党編成をどうしようか考えてただけだよ。それで何の話をしてたの?」
そうやらそれぞれの呼び方で話をしていたらしい。敬称を付けるのはやめようねって事だそうだ。あとはセシリアさん…………セシリアは孤児院時代はセシリーと呼ばれていたのでそう呼んで欲しいとの事だった。
その後の話で分かったのは、孤児院を逃げるように出る際に僅かな資金しか持ってこなかった事で装備はおろか今夜の宿すら決まっていない事だった。
「なら、うちにおいでよ。都合のいい事にベッドが一つ空いてるし」
「え!?」
いや、こんなエロい身体した美少女を馬小屋に泊らせるとか危険極まりないとはいえ、一応僕も男なんですが…………。
「いいんですか? なんだか申し訳ないです」
そうセシリーに頭を下げられてしまってはもうダメとも言えない。セシリーも孤児院で同年代の異性と同じ部屋で寝起きを共にしているので僕が居ても抵抗は感じないらしい。それって異性として見られていないってことですよね? 話の方は完全に和花のペースで進んでいる。
その後も和花のぺースで話は進み、明日はセシリーの装備を買ってお試しで迷宮へ潜ってみようって事で話がまとまった。
その後師匠宅へ瑞穂を迎えに行き、セシリーを紹介して帰路に就いた。
「ここが和花の住んでいる板状型集合住宅ですか…………。凄いです」
そう感想を漏らすセシリーに「どうよ」と言わんばかりのドヤ顔の和花が「そうでしょうそうでしょう」と頷く。
でもこれ賃貸だからね。
「セシリーは、そこの二段ベッドの下を使って。んで悪いけど瑞穂は上に移動してね」
部屋に到着して一息ついたところで和花がてきぱきとその場を仕切る。
「うん」
そう短く返事をして瑞穂は上のベッドに上がっていく。軽い方が上になるのはある意味お約束だと思うので瑞穂も特に不満は言わない。
「寝具は後で洗濯に出すから、今日は申し訳ないけどこのまま寝ちゃって。あ、【洗濯】の魔術で綺麗にしちゃおうか」
和花がそう言うと何故か僕の方を見る。まさか僕にやれと…………。
「綴る。生活。第二階梯。————」
呪句を詠唱し効果対象を拡大し魔術を完成させた。
「これが【洗濯】の魔術ですか…………。まるで洗い立ての様ですねー」
セシリーがいたく感動していた。
「ところで、僕もここで寝るんだけど問題ないの?」
話で聞いてはいたけど念のためにセシリーに聞いてしまった。
「孤児院では性別や種族は関係なく雑魚寝でしたから特に気にしてはいないですね」
何でもない事の様にそう言った。
倫理観の違いだろうか? やっぱ異性として見られていないのだろう。だが見られたとしても困るか。そういう事にしておこう。
そんな事を思っていると和花がスススッと近寄ってきて————。
「なになに。樹くんはセシリーに欲情しちゃうから同じ部屋では寝れないのかなー? 彼女エロい身体してるもんねー。ごめんねー、残り二人は貧相だもんねー」
ニヤニヤしながらそんな事を耳元で囁いた。吐息がくすぐったい。
「!?」
反論しようと口を開きかけた時には踵を返していて、
「私も寝るねー。おやすみー」
さっさと梯子を上って上のベッドに上がっていってしまった。
「お二人は本当に仲がいいのですね」
クスクスと笑うセシリーも「おやすみなさい」と横になってしまった。
瑞穂もいつの間にか寝入ってるようだし僕も寝ることにしよう。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。




