555話 幹部会議②
「終末戦争に関しては師匠から最新の情報が届ている」
僕はそう言って少し前に届けられた資料の説明を始める。雲龍三等陸佐以下日本帝国の残党の面々は詳細を知らせて居なかったからだ。
終末のモノは時空樹世界と呼ばれる始まりの世界から様々な可能性の度に分岐し広がりすぎる多元世界の剪定の為に目をつけた世界を滅ぼす。そこに善悪などはない。奴らは人類を滅ぼすではなく世界そのものを滅ぼす。
終末のモノは侵攻する世界に合わせて戦力を調整する特性があり偵察期間で収集した情報を元に本格的に攻め込んでくる。その為かこの世界を裏から支配しているという七賢会議という組織は意図的に発展しないように様々な調整を行ってきた。一例が過去の技術は素晴らしいからそれを再現する事こそ至高。とかであるその為か技術ツリーが歯抜けで歪だ。基礎技術が未熟な分野もあれば妙に高度な技術を持っていたりする。
七賢会議の手口はこちらの戦力を過小評価させ最終局面で最高戦力を投入し撃退しようと考えているという。
だがそれは神聖プロレタリア帝国と赤の帝国と僕らの故郷の日本帝国の暴挙で台無しになった。
かなり過剰な攻撃力も持ち現在は東方や南方で大暴れしているという。そこらの軍隊や冒険者程度では手に負えないレベルとなっている。
中原は他の地域を見捨てて自分たちの生存を最優先に動いている。その為に終末のモノの攻撃から懸命に逃げてきた難民を国境周辺で足止めさせ終末のモノに対する肉壁としている状態だ。
終末のモノの狙いは新たな並行世界が誕生した象徴的な何か。ここでは特異点と称する事とする。
並行世界は歴史を勉強していると時々ある転換点を指す。僕ら居た世界で言うと過去に四度あった世界大戦の勝者の違いなどで『もし』が実現した世界が生まれる。
特異点は必ずしも形が伴ったものとは限らない。困ったことに形を伴わなかった特異点は守る事すら無理で奮戦も空しくほぼ滅亡する。
滅亡と言ってもそれは風船が割れるように一気に消滅し、そこに住んでいた人々はまるで初めから存在さえしなかったモノとして輪廻の環に入る事すらない。
この世界に話を戻すと分離した時期は神話戦争の結末だという。そしては特異点は形として残っている。
師匠はこの世界は滅びないので安全圏に籠って逃げきれと言うのは終末のモノの特性で奴らは三つ苦手なものがある。ひとつは飛行能力。滑空は出来るが自由に飛べない。もうひとつは水分。地面などは透過して移動できるが水は奴らにとって猛毒に相当する。そして最後のひとつが特定の金属を透過できないである。
師匠の話では終末のモノは魔法的な生物のようで魔法を遮断する鉛と魔法を反射する銀鏡鋼を嫌う。
特異点だが二万年前に偶然発見され当時の王、アルケイン・マクドガル・デ・ラ・エスパニア陛下。例の島の持ち主の事だ。彼が特異点を水で満たした銀鏡鋼と鉛の複合外殻の箱で覆ったという。
例え場所が分かっても近寄る事すら叶わない。それでも懲りずに千年周期で襲い掛かってくるから奴らに知能のようなものはないのかもしれない。
終末のモノは治安の悪い箇所、負の感情の溜まっている個所、未開の地に出現し橋頭保を築く。そこから侵攻を始める。標的は世界を支配している生物、この世界であれば人型生物である。奴らに人族と食人鬼や豚鬼らの区別はつかない。
終末のモノは魔神らと同様に侵攻世界に義体を用いて侵攻してくるのでどれだけ倒しても尽きる事がない。
今回の終末のモノとの戦闘が発生した場合は死亡すると自爆するので可能な限り遠距離で仕留めるように心がける事。難しいなら只管逃げるか壁盾や重装備の防具で耐えるくらいしか打つ手がない。共同体の構成員にも徹底する。
十字路都市テントスは比較的治安も良く恐らく襲撃は当分先だろうけど既に中原で目撃情報もあるので油断はしないようにと締めくくる。
周囲を見回すとメイザン司教が挙手していた。発言を促すと、構成員やその家族を例の島に逃がすタイミングと方法をどうするのか? そんな内容であった。
十字路都市テントスで終末のモノが出現したという報告があったら脱出準備を始めるとした。
移動に関して[転移門の絨毯]を使うという話が出たが雲龍三等陸佐の意見で取りやめになった。運悪く終末のモノが転移先に出現すればそこを新たな出現座標にならないか? という意見が出たからだ。
そうなってしまうと例の島の安全が確保できないので白鯨級潜航艦に乗船させ亜空間経由で例の島へと運ぶ。
食後のデザートが終わった頃にはおおよその話は終わっており残りの個別の話は後日話し合うという事で解散となった。
「樹。ちょっと話がある」
自室に戻ろうとしたところを健司に呼び止められた。




