554話 幹部会議①
感染症で高熱にうなされ入院し仕事に穴を開けてしまった。割と死にたい。
アルマが審議官としての仕事を終えて戻ってきたので執務室に来てもらい高貴なお方とやらの封蝋が施されたお手紙を見てもらう事にした。
「どう?」
「リリアンヌ・デア・クリスチアン女男爵ですね」
「ん? 女男爵如きが宰相閣下をパシらせるとかある?」
序列にはかなりうるさいはずの王侯貴族とはちょっと思えないのであった。当然この話には続きがある。
「正式な名前はリリアンヌ・ティア・クリスチアン・ウィンダリア王女殿下ですね」
王女だってさ…………。あれ? でも陛下って結構高齢だよね? たしか60歳近かった筈。かなり高齢なのだろうか?
「現国王で在らせられるフリッツ・ヨルデン・ニア・ウィンチェスター三世国王の五番目のお妃さまの末姫で軍部では姫将軍の異名を持つ方ですね」
姫将軍。サボテンかなとか逃避したくなる。姫将軍と言う名のサボテンがあるのだ。
「中身を見ても?」
逃避しているとアルマがそう言ってぺーパーナイフ
片手にこちらを見ている。いつの間にか和花が手渡していたのだ。
本来であれば僕宛の手紙なので僕が開けるのが筋なのだろうけど見たら見たら気分が悪くなりそうで開封できなかったのだ。
「ごめん。開封してくれる」
肯首すると開封し便箋を取り出すと目を走らせる。結構長文なのか便箋は五枚あり無言のまま読み進める。そして無言のまま隣の和花に差し出す。
和花も無言のまま読みそのまま破り捨てた。
「流石にそれは不敬じゃ…………」
「中身はファンレターとラブレターのごった煮ね。要約すると結婚しましょうって事よ」
もうだめだ。逃げよう。
そう思って僕の考えを二人に話した。
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夕飯の時間が近いという事で幹部会という名目で夕飯を共に済ませようということになった。
「食べながら聞いて欲しい」
僕はそう前置きして現在の共同体のというか僕の置かれた状況を説明していく。
口火を切ったのは様々な事務的な業務を一手に引き受けるメイザン司教である。
「王侯貴族の善意というのは下手に断ると怒りしか買いませんし正直な話として共同体からすれば受けるべきではと。ですが…………お嫌だと」
そう言ってメイザン司教は僕の両隣に視線を向ける。幹部会では和花とアルマの定位置である。
「仮に坊ちゃんが貴族となった場合は我らはどうなります?」
次に口を開いたのは防衛軍残党のまとめ役である雲龍三等陸佐である。
彼らは全員が騎士としての適性があるので士官クラスは騎士教育を施し臣下騎士となるだろう。
そう説明すると雲龍三等陸佐は、
「じつに面倒ですな。私は気楽な冒険者という立ち位置が気に入っておるので士官は御免被ります」
そう言って食事を再開した。
その話を黙って聞いていた幹部会に参加する数人の尉官たちも頷く。
「貴族様っていうのは俺じゃダメなのか? 同じ編成だろ」
個人の武勇でのし上がった訳ではないのでそれもアリと言えばアリではある。
名乗りを上げたのは健司であった。
「アリだと思うが先方が樹君を望んでいる以上は樹君が居なくならないと先方も納得はすまい」
そう言ったのはフリューゲル師であった。
そこで僕は提案する。
「討伐中に行方をくらますのでメイザン司教にはフォローして欲しい」
ようするに上手く誤魔化してくれという話である。
「それは構いませんがそちらのお嬢さんに腹芸が出来るとは思えないのですが?」
メイザン司教が見つめる先にはアルマが居る。和花からも指摘があったがやはり彼女は置いていくわけにはいかなさそうだ。
「少人数を率いて移送床にでもかかって連絡がつかないという筋書きはダメかな?」
そう提案するとメイザン司教とフリューゲル師は考え込む。雲龍三等陸佐などは自分らの方向性は決まっているから些事は任せたとばかりに食事に集中している。
まず僕が死亡したという話は無理だ。それは共同体の構成員のほとんどが守秘義務を吞む代りに彼らの衣食住や税金を負担する技術契約奴隷としている事だ。死んでも【死者蘇生】可能であれば彼らとの契約は切れない。契約が破棄されるとするれば死亡し離魂して輪廻の渦に呑まれた状態か不浄の存在となった場合に限る。
出来れば契約は生かしておきたい。外に出したくない秘密が色々あるからだ。
契約が切れないという事は僕は何処かで生存している証左となるので死亡報告は無理なのである。技術契約奴隷の主人格代理はあとで変更できるので行方不明となったあとで健司に代理をしてもらう。
ゲームなどと違いステータスなどでどんなことが出来るかなどを知られる事は憶測以外はないので転移先から戻ってこれないと言い張れば誤魔化せる。
これには特に否定的な意見は出なかった。
ただし同行者の話が出た際に反対意見が出た。九重やアリスやピナを同伴はダメと言われたのだ。
アリスは強力な精霊使いであり癒し手として必要であり九重は強力な精霊使いであり戦闘員としても優秀なので共同体に置いておきたいと反対されたのである。
身の回りの手伝い要員として連れて行きたかった獣耳族のピナは幼いながらも聖職者として奇跡を扱え貴重な癒し手枠なので置いていけと言われた。
和花、アルマ、瑞穂と強力な癒し手を連れていくのでこれ以上は勘弁してくれというのである。
そこで思いついたのが本日の来客を同伴させるかとなったのだ。
そこまで話が進むとメイザン司教が疑問を口にする。
「しかしアルマ殿が行方不明扱いとか法の神神殿がどんな反応を示すか? 怖いですなぁ」
アルマは建前としては五年間の出向という扱いで側にいる。神殿としても若くして貴重な審議官を失いたくはないだろう。
「それなら上司に【誓約】を交わして事情を説明します」
自信ありげにアルマがそう答えた。神殿は別に王国などの傘下ではないので【誓約】で守秘義務を課せば問題がないという。神殿側からすればアルマが存在し僕の元に居るのであれば何ら問題ないという事らしい。
僕らの件に関しては行方不明となったあとはメイザン司教とフリューゲル師と雲龍三等陸佐に任せることになった。
健司の進退も相手の出方次第という事となる。
この件は方向性が決まったので次は終末戦争対応である。望んでなくてもこの世界に住む以上は無関係ではいられない。
大事な資料をなくしてしまった。
陛下の名前どうしたっけ?
探しても見つからなかったんだが…………。
一度も出してないなら今回で正式とするか。




