553話 来客の素性は
外で立ち話もという事で応接室に案内する事にした。
応接室に入り彼らが頭巾をまくり頭巾付き外套を脱ぐと作り物かと錯覚するくらい整った男女であった。
男の方は長い真っすぐな輝くような金髪に碧眼。女の方は肩で揃えられたまっすぐな白髪に碧眼であった。肌の色の白さから北方民族かと思う。
互いにソファーに腰掛けると開口一番金髪の男がこう告げた。
「人払いをお願いする」
その視線は和花を見ていた。和花はと言えば気を悪くした素振りも見せずに立ち上がり出ていこうとするので手を掴んで引き留める。
「彼女は僕の相方であり僕が見聞きした内容は彼女に告げます。ですのであくまでも僕個人以外は聞かせられない話というのであればお引き取りを」
「ふむ、番であったか。それは失礼した。謝罪しよう」
男はそう言って頭を垂れ謝罪する。番って…………。
一呼吸おいて面会理由を告げた。
内容を纏めると彼らは人族の見た目であるが中身は別物であり人の精神を知るべく長い旅路の途中であり、たまたま遭遇した旧知の人物に僕らの事を聞き興味を覚えたとの事であった。
暫く共に過ごさせて欲しいというのである。人間社会の規約はある程度知っているので衣食住の対価として労働で返すと言っている。
「労働で返すとは?」
「ここは冒険者の共同体なのだから腕っぷしが必要なのであろう? 我らはそれなりに技量には自信がある」そう口にしたのは白髪の女の方であった。見た感じの印象としては剣士に感じられないし術者という事だろうか?
しかし終末戦争対策で巡回業務などの荒事は避ける方向なので腕っぷし自慢はあまり必要はない。
運搬業務は装甲歩兵や魔導歩騎の他に小型平台式魔導騎士輸送騎を使うので腕っぷしはあまり必要としない。
そう言えば人族に擬態していると言っていたなぁ…………。
「正直言えば信用できない。なにか素性が分かるモノはお持ちで?」
楽して稼げると共同体に加入させろという冒険者は多い。白金等級の肩書で仕事を貰えるので基本報酬が上がるのだ。
「それは我らの本来の姿を見せろという事か? ここでは難しいな」
金髪さんはそう答えたのだ。
ここでは難しい?
知性のある瞳を見るに豚鬼や赤肌鬼や食人鬼でない事は判る。
妖精族がわざわざ人の姿に擬態する理由がない。そうなると…………。
「発音合ってますか?」
それは人には意味不明の音の羅列にしか聞こえないものであった。だがふたりは反応した。
これで二人の正体がある程度わかった。この言葉を理解できるものは殆どいないからだ。
そして人の精神を知りたいという言葉とここでは正体を現せないという事から鑑みて…………。
「お二人は竜で間違いありませんか?」
僕の発した音は竜語である。竜自体の個体数が少ない事もあって殆ど習得している者は居ない。何かの時の為とたまたま学んでいたのだ。ただ発声に関しては手本がないので自身がなかったがとりあえず通じたようである。
「訛りがかなりひどいが確かに意味は理解できた。ならばここで真の姿を晒せない事情も分かるだろう。だが、建前としてこちらの姿を晒すとしよう」
そういって胸飾りを弄ると変化が現れた。
金髪さんは側頭部から伸びる三対六本の角。白髪さんは二対四本の角が出現したのだ。
龍人族であった。たしかにこれならば唐突に竜語魔法などを使っても言い訳が利く。
髪の色は鱗の色を示すので金竜と白竜という事か。竜は鱗の色で凡その性向が決まっているとされ、精神学の定める基本的精神属性に当てはめると金色なら秩序にして善、白色なら中立にして善となる。基本的には善人に属すると考えてよい。
「疑問に思ったのですがなぜあなた達の角の数が違うのです?」
本物の龍人族であれば転住を全うすると格が上がるので角の数が増えるという特性があるので理解が出来るが知性の高い竜という事であれば最低でも数百年は生きている大竜だろうし人の見た目として男女を分ける意味とか角の数を分ける意味がちょっと分からない。
率直にそう質問すると二人旅であれば番の方が都合が良いと学んだこと。角の数は単純に格、序列の違いであるとの事だ。
和花の方を見ると無言で肯首する。問題ないだろうと判断したようだ。
「では、暫くのあいだ宜しくお願いします」
僕は立ち上がると右手を差し出す。金髪さんは一瞬意味が分からないって表情をしたけどすぐに理解したのか立ち上がり握手を交わす。
握手を交わし今更ながら名前を聞いていない事に気が付きなんと呼べばいいのかと尋ねた。
「金竜に白竜だ」
普通に考えれば実力は折り紙付きだろうしどこで働いてもらうか…………。
使用人を呼び彼らの部屋の割り当てなどを言いつける共同体の幹部会議を行う為に別の使用人に各員を呼び出すように僕は一旦部屋に戻る事にした。




