549話 呼び出しを受ける②
20241129 文面の一部変更および誤字の修正
「まずは三つの依頼がある」
僕らがソファーに腰を下ろした途端に用件を切り出してきた。まずはということは他にもあるのだろう。恐らくは最初の三つは依頼という形で話を持っていき本命は別にあると思われる。口実として三つ用意したといったところだろうか?
「伺いましょう」
そう応えると早速一つ目の依頼の話を始めた。
ひとしきり話を聞き暫く考えこむ。隣の和花は僕に判断を委ねるつもりなのか沈黙を保っている。
「どうだろうか?」
大陸最大の国家の宰相にしては妙に下手な問いな気がする。何かあるのだろうか?
各面子らのスケジュールを思い出し答えを出した。
「今年は様々な大商人の運送を担っておりまして捻じ込むのであれば命令書を頂きたく思います」
国からの強制依頼なのでスケジュールを調整させてくれと頭を下げて回らないとならない。実際に頭を下げるのはメイザン司教だけど。
「ふむ…………。では年明けであれば問題ないかね? 一週間に一度のペースで構わない」
「どのくらいの物資ですか?」
「軍の駐屯地に毎週83グランほどの軍事物資だ」
「83グラン…………」
現在僕らが運用している小型平台式魔導騎士輸送騎は積載量が8.3グランほどだ。増員した事もあり十分運べる量である。
「年が明けてからというのであれば前向きに考えます」
「分かった。必要な書類を用意して後ほど伺おう」
ここで即答とか怖くてできないのでこれでよし。
「次の依頼だが、最近は巡回業務を辞めたと聞いた。なぜかね?」
この巡回業務は街道や周辺を廻って害獣の駆除や野党の討伐なども含まれる。うちの共同体でも冒険者の訓練という意味合いで一時期積極的に受けていたのだけど、巡回業務で飯を食っていた銅銹等級らから不満が紛糾しちょうど訓練が終わったこともあり取りやめたのである。
それに…………終末戦争が始まったのだけど、師匠が提供してくれた最新の資料によると終末のモノは神聖プロレタリア帝国や赤の帝国の戦力をこっちの世界の通常戦力として学習したようで黒い獣は死ねば自爆し黒い騎馬兵は長い筒状の武器で遠距離攻撃と突進で攻撃してくるし黒い巨人は少なくても最新鋭騎並みに脅威でかなり驚異だ。
中原はまだ終末のモノの目撃例が少ないがかなり危険度が増したため引き上げて正解だったと思っている。
「実は新人の訓練に利用していたのですが、巡回業務で飯を食っている同業者に仕事を取るなと苦情が相次ぎまして…………」
「その話は聞いた。その同業者らの仕事の質が悪いから君らに任せていたというではないか」
そうなのである。
うちの共同体の主力メンバーは故郷である日本帝国防衛軍の面子である教育も軍隊形式だし特に陸軍は災害派遣などもあり庶民に対して誠実に対応せよ教わる。
たいしてこっちの冒険者の多くがチンピラの毛の生えた程度の連中が多く武装したうえで高圧的な者が多い。
そう言った事もあり僕らの共同体は評価が高かったのである。
「残念ですが巡回業務は辞めた代りに輸送代行業務や郵便業務、警備業務に人員を割り振ってしまいました」
そう言ってこの依頼は断る事にした。
本音は貴重な人材を終末のモノの自爆攻撃で失いたくないからだ。
「そうか…………。残念だ」
もう少し粘るかと思ったけどあっさり引き下がった。
「では最後の依頼だが君らが得意とする調査と討伐だ」
そう言って語り始めた。
なんでもほとんど平地の中原には珍しい台地がありその周辺の町でも討伐業務が発生する程には頻繁に襲撃があるという。
「話の内容的に豚鬼や赤肌鬼ではなさそうですし害獣ではなさそうですね」
「様々な魔獣だ」
魔獣の討伐には最低でも銅銹等級以上が推奨される。そして小さな町に銅銹等級の冒険者の数は多くない。
原因の調査に人手を割く余裕がないのである。魔獣は自然発生はしない。繁殖はする個体もいるけど数は少なく恐らくは何処かに研究所か迷宮が存在するのだろう。
ひとつ確認を取るとしよう
「派遣する面子はこちらが決めても?」
「出来れば君たちに行ってもらいたい」
そこだけは譲れないと言わんばかりの強い口調であった。
和花の方を見ると無言で肯首する。
「分かりましたお受けします。資料を用意してください」
既に用意してあった資料を受け取りさらっと流し読みして和花に渡す。
「ところで」
そろそろ帰ろうかと考えていた時だ。出鼻をくじくように話を振ってきた。
「今回の竜討伐で貴族連中が叙爵してはと騒いでいる」
竜を討伐できる共同体で多くの魔導機器を保有する僕らを懐に招きたいのだろう。
だけど男爵に叙爵されてもねぇ…………。
僕にメリットがない。共同体の面子にとってもあまり旨味がない。規模が小さすぎるのだ。
だって………男爵って人口2~4千人ほどの領都と周辺の村が所領で総人口にしても一万人を超えない規模だ。
叙爵するという事は自らからの土地を割譲するため旨味の少ない土地を押し付けられる。
そのくせ家臣になったという事でいいように扱き使ってくれる。これで有難がる理由があるだろうか?
うちの共同体をお抱えしたければ最低でも伯爵規模である。
「――――」
断ろうと口を開いたとたん被せるように宰相はこう告げた。
「確か君は独身で魔導騎士を保有していたね?」
ちらりと和花の方を見つつ肯定する。
「わが国には建国以来の名門であるタウンゼント侯爵という家門がある」
「それが?」
もう話が見えて来たけどあえて分からない振りをする。
「その家は次代が居らずこのままでは没落まっしぐらである」
この世界の王や貴族は騎士である事が絶対の条件である。素養がない者は継承権を得られない。だが普通はこっそり家門から養子を取ったり婿を取ったりするものだが…………。
「まさかとは思いますが、貴族の作法も分らない僕に養子になれって話でしょうか?」
貴族社会で侯爵はほぼ最高位だ。公爵はほぼ元王族かそれに準ずる家系だし。
イツキ・タカヤ・デア・タウンゼント侯爵閣下? 似合わないわ…………。
「侯爵は亡くなっており侯爵夫人はご高齢だ。貴族社会の争いに負けてね…………没落間近なのだよ。ただ名門をここで潰すのはよろしくないと陛下が仰ってね…………良い話かと思うがどうだろうか?」
侯爵なら家門に多くの貴族、伯爵以下を抱えている筈だ。そこから養子をとれば解決するだろうに…………どういうことだ?
「即答を求めていないが早めに回答をして欲しい。周りの貴族も君を取り込もうと準備をしているだろうしね」
ここで断っても他の貴族が娘を押し付けてくるぞって事のようだ。これは詰んだかなぁ…………。
この話が本命だったんだろうなぁ…………。ある日突然、貴族らが娘との婚姻を勧めまくってくる前に名門の養子に納まっておけば一時的に防げる…………いや、独身だと結局のところ娘を押し付けられるか。これを避けるために和花と結婚は彼女に失礼だしなぁ…………。
困った。
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