548話 呼び出しを受ける①
例の島での仕事も片付き西方の拠点で佐藤君らの面倒を見たりしつつコソコソと動き回っていた。そしてあらかた用事が片付いたこともあってさも西方から帰還した振りをして例の島での戦利品の数々をメイザン司教経由でマネイナ商会に買い取ってもらうと瞬く間に話が広まった。
翌日の新聞の一面は[竜殺し再び]であった。何せ今回の竜は千年以上生きている老竜種に分類される緑竜でありその中もでも竜鱗が翠玉に見える事から別名翠玉竜と呼ばれる希少種だ。
この惑星全体で竜の個体数が200体には届かないと言われておりその中でも老竜種は一割強と言われる希少さである。都市国家程度の規模なら単独で滅ぼせるほどの強さもあってまず市場に並ばない。
この世界で竜殺しと呼ばれる存在は殆どが成竜と呼ばれる若い個体である。
素材はどれも超が付くほど貴重でオークション会場は非常に盛り上がったと聞く。僕らも記念にいくつか残してあるけど売上金額が現金換算で白金貨200枚を超えた。
高額なので現金や口座取引の他に物々交換などもしている。やり手のメイザン司教が担当しているので損はしていないだろう。あの人はやり手の商人であるが同時に商業の神の司教でもある。金勘定が絡む話で不正はしない。
多額の金額が転がり込んできたので共同体の構成員である冒険者やそのサポート要員である職人や使用人に至るまでおよそ1500人に臨時賞与を出して大いに喜ばれた。
取材対応などは健司に一任し僕は冒険者組合からの呼び出しに応じ共同体で保有する送迎用の魔導客車で移動するために乗り込んだところだ。
「ついこのあいだ白金等級の認定受けたばかりだしなんの用事かしら?」
特に同行をお願いしたわけではないがさも当然のように向かいの席に座る和花がそんな疑問を口にする。
「指名依頼だとは思うけど…………」
共同体を設立したので指名依頼などは組合経由でなくても来る。むしろ組合経由という事はそれなりに社会的地位のある人物が依頼人という事になる。
「このタイミングだとどんな無茶な依頼かしら?」
「そこが怖いんだよね」
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冒険者組合の南支店到着し魔導客車を降りる。ネットやテレビがないとはいえ十字路都市テントスの外壁南地区で僕らの顔を知らない者は余所者だろと言われるくらいには有名になっている。
本日の装いは富裕層との面会の可能性も考慮して平服ではなく準礼装、タイはなく白いシャツに濃い灰色のジャケットとパンツに腰に光剣を提げる。冒険者らしく魔法の工芸品の宝飾品をいくつか身に着ける。
和花はというと薄い灰色の準礼装の裾の長い筒型長衣だ。この世界の富裕層は女性が生脚を見せる事を美意識が許さない傾向があり丈の長い裳一択となる。
魔法の発動体の指輪の他に今回は新しい大粒の天然真珠の胸飾りを身に着けている。
この胸飾りはこのあいだ誕生日を迎えた和花に僕が贈ったものである。勿論自作した魔法の工芸品だ。
例の島での戦いを鑑みて和花の生命を最優先で守る事に特化した品だ。
宝石研磨職人の工匠の手による大粒の金剛石より高価な真円の大粒の天然真珠をふんだんに用いた国宝級の逸品である。
出所は内緒だ。
この魔法の工芸品の肝は不意打ちなどの攻撃に対しての防御にある。
周囲の視線が僕らに注がれる。憧れ、妬みとその視線は様々だ。それらを無視して僕らは専用の専属受付係の元へと移動する。
僕らが来たことを知ると専属受付のマクファイト嬢が笑顔で出迎えてくれる。
「ようこそお越しくださいました。依頼人が奥でお待ちです」
そう告げると奥の打ち合わせ室へと誘導してくれる。
先客はソファーに腰掛け優雅な仕草でお茶を飲んでいた。豊かな白い髭を蓄えた豪奢な長衣を纏った高齢の男性である。
僕らに緊張が走る。
「急な呼び出しに応じてもらって感謝を」
僕らを見とめると優雅な仕草で茶器を置き立ち上がるとそう言って一礼した。高圧的な人物でない事で僕らも安心した。
「本日はどういったご用件でしょうか。アルカード名誉侯爵閣下」
この人物は大国ウィンダリアで唯一の名誉侯爵を賜った魔術師組合の最高導師にしてウィンダリアの宮廷魔術師でもありウィンダリアの宰相でもある。
御年120歳を超えるが背筋はまっすぐ伸び60代でも通じそうである。
「まずは座ってくれ。話はそれからだ」
・一億ガルドは現在の日本円に換算すると凡そ400億円くらいかな?
・宰相は日本で言うところの内閣総理大臣に当たる。




