59話 ようこそいらっしゃい。
「そんな!」
衛兵の詰め所に僕の叫びが響き渡る。
僕を襲った男には罪は問えないとの事で釈放されてしまったのだ。
「彼は戦闘奴隷です。奴隷が行った犯罪は主に責任が行きますが奴隷そのものには罪を問えないのです。例えるなら————」
犯行現場に残された凶器に罪を問うのか? って事になるそうだ。
そして衛兵には捜査業務が含まれていないので憲兵隊に訴えるようにと言われる。
ここでいう憲兵隊とは、戦闘支援兵科の一種の方ではなく警察権を持った国家憲兵の事らしい。
憲兵隊の詰め所まで赴き書類を作成して帰路に就いた。それにしても…………あの男は明らかに僕を狙っていた。
「こら、樹くん」
思案に耽っていると和花に腕を抓られた。
「あれ?健司は?」
周囲を見回しても健司はいないし、いつの間にか板状型集合住宅の前にいるのである。どうやら詰め所から出て延々と考え事していたようだ。よくここまで歩いてこれたな。
「私がここまで手を繋いで引っ張ってきたんだよ。皇が呆れてたよ」
頬を膨らませて怒る和花も可愛いなとか思っているとさらに腕を抓られた。
「狙われてたのにぼんやりしてると危ないよ?」
ごめんごめんと謝りつつひとつ用件を忘れていたことを思い出した。
「ごめん。冒険者組合行かないと」
そう言ってきた道を戻ろうとすると、
「私も行くよ。何かあっても怖いし」
そう言って和花が腕を絡めてくる。
「そういえば何をしにいくの?」
「現地人の人員を一党に入れようかと募集をかけてたんだよ。こっそりとね」
誰か募集に応じてくれる人がいいねと話していると————。
「やめてください!」
僕らの平安を破ったのは冒険者組合の入り口の前で薄汚れた衣服の少女の叫びだった。
「なんだよ。第3階梯の冒険者である俺らが初心者に手取り足取り教えてやろうって言ってるだけだろ」
少女を取り囲む冒険者の数は4人で年齢は僕らよりちょっと上だろうか?装備は結構くたびれているところを見ると優秀とは思えないな。あまり強そうな気もしないし助けておくかな。
「お、その聖印は始祖神だろ。……ってことは神官ってところか。ちょうど回復役欲しかったんだよね。水薬代も安くないからさ~」
「名前は————」
そういって少女の首から下げている冒険者組合の認識票を手に取ると、
「セシリアか————」
「い、いやっ!」
反射的なのか認識票を持つ男の手を払っていた。
「なんだよ。つれないなー」
「俺たちは親切で声をかけてやってるんだぜ」
「そうそう」
「人の親切にそういう態度はよくないんじゃね~の?」
ギャハハハと4人が馬鹿笑いをする。
「す、すみません」
セシリアは今にも泣き出してしまいそうだった。恐怖に身を縮こまらせ、華奢な肩が震えている。
「悪いと思ってるならさ~俺ら————」
「セシリア。待たせてごめんね」
和花がタイミングを見計らって少し大きな声で呼びかけながら近づいていく。セシリアと呼ばれた少女は声をかけた直後は事態を呑み込めていなかったようでキョトンとしていたが、すぐに状況を察したようだ。ぱぁっと表情が明るくなる。
「もう。遅いよぉ」
「ごめん。ごめん」
そういって和花はセシリアは抱きしめる。
「あ? なんだお前ぇ」
邪魔されたのが気に入らないのか苛立たしそうに眉を顰め、和花を睨んでくる。
「彼女とここで待ち合わせをしていたんですけど、何か失礼なことでも?」
「親切にも新人に――――」
和花の後ろに居る僕と男の目が合った途端、
「い、いや…………なんでもねよ」
「おら、帰るぞ」
仲間と逃げるように去っていった。
「あれ? 僕の出番は?」
ここは格好良く登場するところじゃ…………。
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「改めてお礼を言わせてください。本当にありがとうございました」
そう言ってセシリアが深く頭を下げる。
「気にしないで。最近あの手の輩が多くて困るのよねぇ」
和花がそう言って溜息をつく。例の一件で僕らは畏怖されてしまっているが、それでも歩いているとそういう輩によく遭遇する。
いま僕らは冒険者組合の近くにある食堂に来ている。夕飯時だった事もあるのだが、セシリアさんのお腹が可愛らしく鳴いたのでご馳走するからと引っ張り込んだのである。
食事をしながらセシリアの話を聞くと、この迷宮区画の始祖神教会の孤児院に住んでいたのだが、15の誕生日を迎えた日に身なりのしっかりした中年紳士が息子の結婚相手にと結婚を強いられたために逃げ出したのだそうだ。
ついさっき冒険者組合で登録を終えて今夜の宿をどうするか考えていた時に絡まれたらしい。彼女は可愛いし胸も大きい。和花と並ぶと胸囲の格差社会だとか呟きたくなるくらいに大きさが違う。|健司《けんじとかが喜びそうだ。
女性冒険者は数が少ないし、更に魔法使いは更に少ない。
和花が精霊魔法の種類を幾つか増えたんだけど、【体力回復】は使えるようになったけど、【治癒】を使うにはまだ精霊との感応が巧くいかないらしく僕らだけで活動するなら癒し手とか欲しいねって話はしていた。一応は僕と和花は真語魔術の【軽癒】が使えるがあれは軽傷というか軽い傷しか癒せない。
恩を売る訳ではないが、ここは一党に誘ってみるべきだろう。
食事が終わり一息ついた所で切り出すことにした。
「もし良かったらだけど、僕らと一党組みませんか?」
僕と和花は冒険者組合の認識票を見せながら、
「僕らも含めて4人…………5人なんだけど、そろそろ師匠から独立したいんだよね。いま募集しているんだ。どうかな?」
セシリアさんは僕と和花を交互に見てから考え込んだ後こう答えた。
「お邪魔ではなければ宜しくお願いします」
そう言ってセシリアさんはペコリと頭を下げた。
「こちらこそ宜しくね」
和花、僕と順に握手を交わす。
一息ついたところでセシリアさんがこんな爆弾を放り投げた。
「そういえばおふたりは恋人同士なのですか?」




