幕間-61 召喚された者のその後㉑
「ハーレム王は今日も精が出るな。これからもう一戦かい?」
迷宮区画の門に常駐する名前も知らない兵士にからかい成分過多な声音で声を掛けられる。
女性陣は意味を理解していないようだが取りあえずその下品な手つきは止めろと言いたい。
面子が一人増え数日経過した。娯楽に飢えているこの世界では噂話は想定以上の速さで広まっていく。俺が新しい女を囲ったという話がだ。ある意味間違いではないがこの話に嫌なところは俺が有り余る性欲処理に多くの女性を囲っているという話になっているからだ。そもそも已己巳己さんも含めてそういうんじゃないし!
挙句には子供から男装の麗人まで守備範囲が広いとか妙に感心される始末。高屋くんも周囲に美人が取り巻いてるのにそんなこと言われたところを見たことがない。
やはりアレか!
俺が非モテ陰キャだからか!
もてない男たちの妬みなのか?
いや、そう考えるとある意味気持ちいいな。フハハ、どうだ羨ましかろう。
だいたい俺みたいに勉強もできない運動もお粗末で…………いや、虚しくなるので考えるのは止めよう。
馬鹿さんが苦笑いしているのを横目にしつつ名も知らない兵士に「仕事だからね」と言って通過する。
高屋くんとの話で俺らに施した技能付与の検証がおおむね済んだとの事で検証のために過度に迷宮に籠ったりする必要がなくなった。
あとは適当に稼ぎながら借金を返済するのみだ。
技能付与で分かったことは肉体に作用する技能は素体の能力を用いて決められた動作で行動できる。技術を維持するための努力などは必要ない。成長するかどうかは年単位の検証が必要である。また知識関連は別途基礎知識などが必要となる事が分かった。例えば真語魔術に対する理解がない状態で技能を付与すると未知の言語で書かれた専門書を見るような感覚となる。
勉強は苦手なんだよなぁ。高屋くんとか訓練に勉強に余念がないけどそこまでしないといけないのであれば俺は適当でいいかなと思う。
「ところで明日はどうします?」
迎えに来ている四頭立て四輪馬車に乗り込み一息つくとタイミングを見計らってたのか馬鹿さんがそう声をかけてきた。
「ここ暫く毎日長時間籠っていたし休みにしようか」
しかし特に喜ぶ者は居なかったのである。休みと言われても娯楽が乏しいので時間の潰し方を知らないものが多いのである。
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翌朝となり俺は財布を懐に忍ばせ迷宮街へと繰り出していた。一人で出かけたはずだが気が付けば馬鹿さんと腕を組んで歩いていた。
馬鹿さん曰く迷宮街はガラの悪い者が多く女の一人歩きは危険だからという理由だ。
「俺と一緒で楽しい?」
悲しいが容姿は中の下だと思っている。異性を喜ばせる話術などもなければ女性のエスコートの仕方も知らない。
「誰かと一緒に街を見て回るのは楽しいですよ。陽翔さんはどうです?」
「俺はこういうのは落ち着かないかな…………」
左腕に感じるそこそこのボリュームに落ち着かないというのもある。刺激が強すぎる。高屋くんとか小鳥遊さんに対してごく自然にエスコートするし腕とか組んで胸とか押し付けられても平然としてるんだよなぁ。やはり経験者は違うのか?
「そういえば前々から気になっていたんだけど、なんで佐藤じゃなくて陽翔呼びなの? 高屋くんは普通に苗字呼びだよね?」
彼女はよく声を掛けてきてくれるしなぜか俺だけ名前呼びなんだよね。己惚れて自爆は怖いからこれまで聞くに聞けなかったんだよなぁ。
「他にも思ったけど、俺に付き合って迷宮に入る意味もないよね? 中原の共同体拠点で仕事していればよかったんじゃないの?」
衣食住全てがここと中原の共同体拠点では格段に違う。服は殆ど古着だし食事は新鮮な食材が手に入らない上に味付けが保存優先の為に激甘か塩っぽく味が濃い。ハッキリ言って体に悪い。早死にするわけである。
そして異世界ものの定番のエールも温いし不味い。アルコールの度数も低い。むしろ飲み水がすげー高い。
こいつら味覚が壊れてるんじゃないかってくらい酷い。日本人向けの食事とか味がしないとか言い出しそうである。
「――――聞いてました?」
「えっ? ご、ご、ごめん。聞いてなかった」
「困った人ですね…………」
そう呟くとため息が漏れる。
「陽翔さんには中原で救ってもらった恩もありますし…………それに苗字呼びはなんかよそよそしいじゃないですか」
そして改めて理由を説明してくれたけど、微妙に回答をはぐらかされた?
一個下の美人でそこそこの家柄のお嬢さんだけど俺如きに気さくに話しかけてくるからなんか勘違いしてしまいそうではある。
特に空気が悪くなるとかもなく話題が転換してしまいモヤモヤしつつも買い食いをしたり露店を冷やかしたりして半刻ほど過ごした。
「あ、年頃の男の人ですから興味があるのは判りますけど私娼はダメですよ」
俺の視線が路地の端で立っているやや草臥れた女性を眺めていた事に気が付いた彼女はそう言って顔の前でバッテンをする。
「お高いけど公娼か神娼を使ってくださいね」そういっていくらくらいかかるか説明してくれる。それにしても妙に詳しいな。
安めの相手でも神娼や公娼であれば一晩で合金貨1枚だという。余談ですけどと話は続く。人気の高級公娼とかだと一刻お茶するだけで金貨1枚だとか。
「きょ、興味はないとは言わないけど…………」
「性病の治療は罰ゲームなんで高い治療費をむしり取られますよ」
「えぇ…………」
なんでも魔法の治療で最低でも金貨50枚だとか。同性の術者が患部に触れながら術を行使するのだそうだ。
え? 男にナニ触られるの?
結婚する際に処女童貞が推奨される理由がこれだそうだ。庶民なら治療費で借金奴隷待ったなしだし貴族でも躊躇う金額である。
「薬は? 水薬とか?」
服用するタイプは効果が低く治療期間も長引くという。金額も結局似たり寄ったりだとか。
しかし合金貨1枚かぁ…………。
「因みに…………底辺冒険者の性病率はかなり高いので同業者とタダ同然でとかは止めてくださいね」
注意されてしまった。
ここで馬鹿さんを口説く度胸があればとは思うがそれが出来ないからなぁ。異世界来たからって人間の本質は変わらないなぁ。
なんかモヤモヤしつつ帰路につき玄関で別れ際に馬鹿さんが一言。
「そうそう。これからは七海って呼んでくださいね。それじゃ」
それだけ言うと踵を返して走り去ってしまった。
え?
やはり経験者は違うのか?
佐藤くんの誤解である。
500ガルド。今日本人の感覚だと渋沢さん8枚くらいかな?
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。
貴重なお時間を使って報告していただき感謝に堪えません。
いい加減誤字報告の確認しなければと思いつつなぜか時間がない。そして溜まっていく罪プラたち。




