546話 残件処理③
2025-02-03 誤字修正
あまり気分の良くない作業を終えて僕がやってきたのは、ハーンら魔導機器技師のたまり場である潜水母艦の自動工場区画である。
彼らは相変わらず彼らは技術談義で熱くなっているようだ。
「あ、樹さん。もう起き上がって大丈夫なんすか?」
僕の来訪に最初に気が付いたのはハーンであった。
「うん。やっと解放されたよ」
「もう和花らに頭上らないっすね」
「言わないでくれ…………」
願わくば対等な関係が良いのだけど…………どうしても負い目がねぇ。そんな事を思っていると、
「ところで、ここに来たって事は例の件で?」
ハーンは僕の表情を見て話題を転換してくれた。
「そうそう。それともう一件あるんだ」
そう答えてこちらに来るように伝える。
「なんすか?」
「大主人になったんでハーンに魔導機器関連の閲覧制限を外そうかと思って来たんだ」
もともと僕は港湾領都ルードの主人であったが一部制限があった。今回大主人になった事で全ての制限が排除された事を説明した。
「おっ、マジっすか?」
「共同体としての業務の影響でない範囲で好きにしていいよ」
「よっしゃー」
そう小さく叫ぶとガッツポーズをとる。
「それがもう一件というやつっすね」
「そうそう。という訳で迷宮産の魔導機器とかの検分をするから艦内格納庫に行こう」
そう告げてハーンだけを伴って艦内格納庫へと向かう。
かなりの数があったらしくどれを売るかで意見が纏まらなかったそうで最終判断を僕が下すことになったのだ。
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「これはまた…………」
決して狭くない空間拡張された艦内格納庫に所狭しと魔導機器が置かれていた。そして最も目を惹いたのが――――。
「魔導騎士、この時代だと巨人騎士か」
それが五騎も整備台に固定されていた。
「実はこいつら動かないんすよ」
「原因は?」
「恐らくっすけど万能素子転換炉が大食い過ぎて起動に必要な万能素子を確保できないんすよ」
整備台に固定された五騎のうち四騎は一次装甲のみの素体状態であった。
中央に置かれた一騎は見た感じは完成した騎体のようである。ただ――――。
「あの形状で人が乗れるの?」
そう問わずにはいられなかった。なんせ手足が細く体形が女性型であったからだ。ウェストが絞られており二次装甲の装甲形状を要約するとワンピースを思わせる形状をしている。通常は操縦槽が胴体に収まる関係でわりと寸胴なのだ。足首もベタ足ではなくハイヒール型であった。見た目だけなら優美な印象である。
「奇麗だな…………」
「そうなんすよ。装甲の分割部とか分からないくらい奇麗で曲面とかも芸術品なんすよねぇ」
ハーンの目がキラキラしていた。
一通り眺めた後で疑問点を指摘する。
「胸部の上部、人で言うデコルテ部分に開閉扉があり操縦槽はかなり空間を拡張してあるっす」
「という事は胸部に一撃いいのを貰って拡張機能が死ぬと圧死の確率が高そうだね」
「そうっすね。そこが問題なんすよねぇ」
使い物になるのか悩みどころである。次の疑問点を問う事にした。
「あの背負モノと肩甲骨あたりから伸びる補助腕と複数の板状の外殻は何?」
板状の外殻は左右へと伸び肩上からまるで騎体を覆う外套のようであった。
「恐らくあの騎体は旗騎なんすよ。それであの外套型外殻は矢弾避けかと」
「なるほど…………」
旗騎とは軍団の大将騎を指す。基本的に総大将は戦場後方で突っ立ってるだけなので機動性より流れ弾や狙撃対策の矢弾避けが必要という事だろう。
「なるほどね。それじゃ背面のは?」
「背負モノの下面に推進装置が付いているんすけど、人体の重心から考えるとあの位置じゃ飛ぶどころか墜落するんすよね」
ハーンによって飛行するロボットモノが否定される。男の子のロマンなんだけどなぁ。いや、デザインによってはいけるはずだ!
「背負モノの側面に小さな羽のようなものが伸びているけどあれは?」
「機能するかは分からないっすけどたぶん側面推進器かと」
騎体制御や横移動の為のモノか。羽のような部品は可動するようだし多分そうなんだろう。
「最後だけど、この二次装甲はなんだと思う?」
その二次装甲は真珠を思わするきらめきを宿した純白、いわゆるホワイトパールであった。
「なんでしょう? 鏡面なら分かるんすけどねぇ」
今の時代には鏡面外殻は存在する。炎と熱と一定以下の魔法を弾く効果がある。
ロボットモノお馴染みの耐ビームコーティングみたいなもんだと思えば想像しやすい。
「起動に関してはアレを出すか」
僕はそう呟くと[魔法の鞄]から一振りの小剣を取り出す。
「これは[豊穣の剣]だ。意味は分かるよね」
この[魔法の武器]は刀身から莫大な万能素子を放出する。これで起動させて能力を検証しろという事である。
巨人騎士についてはそれでいいとして残りは床に散乱する数多くの魔導機器である。
多くの魔導機器が居住区画から持ち出したモノであり生活家電に相当する品であった。情報を扱う板状器具も結構ある。現在でも情報のやり取りが可能か調べてもらう必要がありそうだ。
「正直、どこまで放出するのが良いと思う?」
僕は目の前に積まれた魔力銃や魔法投射器を見てハーンに尋ねた。
「強力な装備だとは思うんすけど、鹵獲されるリスクを考えると常用は避けるべきかと。売るのもダメっすね」
「やっぱりそうだよね」
「いや、樹さんが世界征服したいって言うならぜひ量産しましょうって進言するんすけどね」
いや、まてよ…………。
「そう言えば大主人権限で機能凍結できたはずだ」
「ならそれがいいかもっすね」
そんな事を話しつつ次の品々の前に移動する。そこは魔導強化服が置いてある一角だ。
「僕らが使っているものよりずいぶんスリムだね」
「試してみたんすけど性能はこっちの方が遥かに上っすね。秘匿戦力として隠しておくことを勧めるっす」
魔力銃などと同じで量産され自分たちに使われる危険性を指摘しているのだ。
過度な力を持つ相手がいると人々はそれが自分たちに向くのではと拒絶反応を示す。相手の機嫌次第でそれらの強力な力が自分たちに向くのを恐れるからだ。
この世界の歴史を学んで思ったのは強力な力を持った者がそれを誇示すると大抵は碌な死に方をしないという事だ。
次に来た区画は研究所由来の魔導機器や資料である。持ってくる際に生物は破棄したとの事だ。
「機器だけあっても使いこなせないっすから売って問題ないかと」
これらの魔導機器は制御装置本体と直結していなければそこまで危険なものではない。むしろ医療機器として大変有用である。この世界は医術レベルも低いし普及されていないからね。ただ貴族や富裕層専門になってしまいそうな気もするけど。
「取り合えず売却」
あれこれと雑談を交えつつ売却するモノと残すモノを分別していく。そして最後の一角に着く。ここには各種サイズ別魔導速騎や魔導客車が駐騎してあった。
「こいつらはどう思う?」
「居住区画用なのかそこまで性能が高いわけでもないので売り払って良いかと。それに…………」
高性能な車体は自動工場で自分たち用に造れば良いだけの事と続く。
「これで終わりかな?」
「あとは雑多なものばかりっすね。迷うのは建材だったのか板状のサファイアガラスがゴロゴロあるんすよ。あっ、忘れてた。大本命があるっす」
ハーンはそう言うと雑多な品がおいてある区画を漁り始め小さな袋を持ってくる。
「これっす」
「中身は?」
ハーンから小袋を受け取ると中身を手のひらに出してみる。それは5ディゴの研磨済みの魔光石であった。その数は50を超える。
「これはマズい!」
「マズいっすね!」
「色々研究が捗っちゃうじゃん!」
この研磨済みの魔光石は魔導機器や魔法の工芸品の魔力制御装置として重要な部品となる。
その後一刻に渡って魔導機器技師らと語り合い僕は眠りについた。
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