544話 残件処理①
港湾領都ルードに戻ってきた。僕はといえば領主館の私室に搬送され面会謝絶となり早七日…………。痛みは伴うがやっと身体少し動かせるようになった。
辛かった。精神的に…………。
身動きが叶わない状態をいい事に嬉々として介護する和花にされるがままというのは恥ずかしいやらなんやらで出来れば思い出したくない。
共同体の事務的な話で共同体責任者の捺印が必要な作業とかは代理である和花が行い、彼女の不在の合間は瑞穂かアルマが僕の側で甲斐甲斐しく世話を焼く。
一部の方にはご褒美であっただろうけど僕にとっては中々の地獄の日々も終わり自分で歩いて便所に行けた時の感動を誰かと共有したい…………。基本的に治癒魔法の類は一つの傷に対して効果がある関係で、今回のように全身の筋肉の断裂と骨折に対しては無力なのである。複数回施せばって話になるが【四肢再生】を使ったという事は匙を投げるレベルだったという事だ。正直言うと回復魔法って線引きが分りにくいんだよね。
そして帰還してから一週間経過して肉体の再生も無事に終わり外出許可が下りた。溜まった業務を熟すぞということで、まずは十字路都市テントスの共同体拠点にこっそり【転移】し事務担当のメイザン司教と面会した。
事前にお願いしていた人材の引き取りの為だ。彼らの労働環境は元陛下の下働き要員兼食事相手だ。
元陛下は死霊魔術の秘儀【不死なる王転生】にて死を超越せし者、いわゆる吸血鬼の真祖となり自身の存在の維持に吸血行為、正確には生気を吸う行為が必要になる。これまでは島の人間が死に絶えていた事で動物や人造人間で代用していたそうだが島の譲渡と引き換えに人間の使用人を要求されたのだ。
迷った末に出した決断が、死以外の道筋がない重犯罪を犯した犯罪奴隷であった。
本来であればガレー船の漕ぎ手として鎖で繋がれ死ぬまで糞尿まみれでこき使われ死ねば海に捨てられ魚の餌。船が沈めば鎖に繋がれたまま共に沈む定めの彼らだ。政治犯などの一部だけは見せしめという形で公開処刑される事はあるがこの世界では基本的に死刑はない。ないかわりに人の尊厳を捨てさせられる事が多い。刑務所などは身分の高い政治犯を収容するためのもので庶民相手だと罰金刑が殆どで支払い能力がない場合は借金奴隷堕ちとなる。例外はスリなどだがこれは捕まると利き手を切り落とされる。次に重いのが鞭打ち。鞭といってもだいの大人が数回打たれて泣き叫びレベルで終わる事には背中の皮は破れ血まみれである。追放刑はかなり重めだ。閉鎖的で一生地元で過すことが多いこの世界の住人からすると新天地で心機一転は敷居が高い。組合なのへの加入の禁止も付随するので自由民となった彼らは常に人狩りに怯えて生きていくこととなる。
重犯罪の犯罪奴隷を使おうと相談した際には聖職者であるメイザン司教やアルマに相談した際に意見は分かれた。メイザン司教は賛成派であった。根が商人だからだろうか? 逆にアルマは反対であった。この世界の女性としては生理的に豚鬼や半豚鬼は受け入れがたいのかもしれない。説得の結果はあまりいい表情しなかったが最終的には賛成を貰えた。
そうして人を集めてもらったのだけど、いざ引取りに行ったら意外と多くの重犯罪を犯した犯罪奴隷が確保されていた。
その中から使用人をしていた者を男女合わせて10名選出した。罪状は主人殺しであった。
経緯を確認したところ寵愛を失った嫉妬だったり嫉妬した奥さんに襲われて反撃したらうっかり殺してしまったなどである。中には結婚詐欺にあった人もいた。
処分奴隷と違って犯罪奴隷を同情などで開放する事は法律で禁じられている。買い取った僕らが放流してしまうと責任者である僕が罰せられてしまう。罰金刑だが払えない事はないが結構重い。
使用人となった者たちに学はなく死を超越せし者などと説明しても分からないので独身の病的な引きこもり魔術師の世話と告げてある。使用人は館から出ることは叶わないが事実上の選択肢がない事もあって了承を貰う、不憫だとは感じつつも元陛下と引き合わせる事になった。
船上で輪姦された挙句に死ねば魚の餌よりはマシだと思ったのだろう。
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「ふむ。取引としては十分である」
元陛下はそう言って使用人たちと魔法の契約書によって契約を交わしていく。文面を見る限り特に理不尽な要求はない。週に一回交代制で夜伽が義務化されているが恐らくは吸血行為を指すのだろう。無残な死を待つばかりであった彼らとしては幸運というべきか不幸というべきか…………。
因みに僕にも契約の追加がある。それは欠員が乗じた場合は補充の人員を見繕う事。港湾領都ルードに元陛下の連絡場所を設ける事。自動工場で適度なサイズの浮島を用意する事。もう一つは…………。
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「ここは?」
元陛下に言われるまま同行すると【転移門】で移動した先は白鯨級潜航艦の艦内を思わせる場所であった。
「この島の心臓部であり島の制御核を制御する場所である。約定通り譲渡の手続きを行う。手を出せ」
一瞬躊躇したがおずおずと右手を差し出すと元陛下のヒンヤリとした血の通っていない右手が重ねられる。元陛下の手の甲には黒い文様のものが描かれている。刻印だろうか?
そんな事を考えていると元陛下が告げる。
「我、大主人アルケイン・マクドガル・デ・ラ・エスパニアが告げる。次元航行移民船の全権限を汝、高屋樹に譲渡する」
「え?」
次元航行移民船?
元陛下の文様が崩れると流れるように僕の右手の甲へと移り新たに文様として定着する。それと同時に様々な知識が脳へと流れ込む。その量はとても処理しきれるものではなく意識が薄れていく。
「これでこの島の全権限は君のものだ。これからは――――」
そこで僕の意識が途絶えた。
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