543話 すべてが終わったあと
目が覚めるとなぜか和花が僕を覗き込んでいた。どうやら膝枕をされているようだ。この絶妙なフィット感がたまらない。
「あ、起きた」
じっと見つめていた表情は花開くように一気に綻ぶ。
「ここは…………」
そう口にし和花から視線を外すと思い当たる場所であった。ここは地竜がいた広場だ。
整理しよう。迷宮主と遭遇し少し会話を交わし突然奴の槍が和花を…………。その瞬間頭が真っ白になり…………。あれ?
意識が戻るとなぜか和花に膝枕をされている。何があった? それとも白昼夢か何かだったのだろうか?
「そうだ! 傷は?」
そう和花の傷だ。見た感じ衣服に血はついていない。もっとも【洗濯】の魔術で使った可能性もある。
「治療が間に合いました」
横合いから声がかかる。アルマである。
「ギリギリ急所を逸れており治療が間に合ったんです」
なんでも
間一髪発動した【防護圏】が僅かに穂先を逸らしたことで心臓を逸れたとの事であった。他にも和花らが身に着けている衣装は女性には激甘な師匠が用意した全身で金貨1000枚を超える高級品である。それらの防御効果のお陰であった。
犯行に使われた幅広穂長槍は[魔法の武器]でありその銘を[透過の槍]という。瑞穂が待つ[透過の刃]の類似品だ。
だから[力場の腕輪]の障壁をすり抜けたのか…………。
なんにしても和花が無事だったのでホッとしたのだった。
「ところで、僕はなんで動けないの?」
「覚えていないの?」
「まったく」
すると和花とアルマは暫し押し黙る。先に口を開いたのはアルマだ。
「何があったかは専門家に説明してもらうとして、樹さんがどういった状況かを説明しますね」
すっごい気になるが仕方ない。
「全身の筋肉が断裂しており骨もボロボロです」
「はっ?」
意味が分からない。
「現在は【四肢再生】と【痛覚遮断】を使っています。動けないのは骨や筋肉などの再生が始まったばかりだからです。動けるようになるのは六日過ぎたあたりからでしょうか」
そうアルマに説明された。
え? 六日間のこのまま?
「大丈夫。樹くんの世話は任せて!」
僕の不安を読んだのかニコっとそう言って和花が微笑んだ。
確定した未来を嘆いていても仕方ないので気持ちを切り替えよう。
「ところで迷宮主は?」
「そこ」
そう言って和花が指し示したほうに目を向けるとバラバラになった金属の塊と――――。
「折れた?」
刀身の半ばで折れた打刀が転がっていた。
「鞘に戻せば再生が始まるはずなのだけど…………」
再生が始まらないとの事であった。武器としての寿命という事である。あの打刀は僕の稚拙な魔術で造った[魔法の武器]であったが元々は神覇鉱の刃を持つバルドさんの一品であった。あれと同じ性能の打刀は手に入らないかもしれないなぁ…………。
「樹。目が覚めたら早く破壊しようぜ。とっととここからおさらばだ」
健司がそう言うと僕を抱き起したかと思うと荷物の如く肩に担いで歩き出す。動けないので成すがままである。
犠牲は最小限で済んだのだし良しとしよう。
地竜は解体され収納されバラバラの迷宮主も素材として収納された。
全ての準備が整い僕ら一班の六人だけが部屋に入り代表でダグが迷宮宝珠を破壊する。
僕らの目の前に報酬の選択肢が出現する。長年に渡って万能素子をため込んだこの迷宮は提示される報酬も破格のものであった。
僕らは当初の予定に従って報酬を選んでいく。
全ての報酬が決定すると空間を飛び越える感覚が襲い気が付くと数日ぶりに外に出ていた。
四つすべての迷宮の攻略が終わったのだ。
地上の様子を見ていたのだろうか。タイミングよく白鯨級潜航艦の艦橋が亜空間から浮上して艦橋上部扉が開く。
危険生物は恐らくいないであろうけど早く戻りたい。
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なんかなろうのページレイアウトが変わって最初は使いやすいかと思ったけど地味に使いにくい?




