541話 階層主戦②
地竜の炎の吐息はあまり大きく広がらない。それもあって直撃を受けたものは三人であった。それによって炎の吐息対策の水晶柱が砕け散りそれでも防ぎきれない熱で周囲の水分が蒸発し彼らも大火傷を負う。
【炎の守り】の奇跡によって無傷であったアルマが即座に法の神に祈る。
「法の神よ。かの者たちを癒す光あれ。【広域治癒】」
負傷者の傷がみるみると癒えていくが既にショックで気を失っているのか動く気配がない。そこへ回復要員として待機していた精霊使いのアリスが代わりに水壁を展開させる。
一方で前衛組は攻めあぐねていた。防御が固いのだ。もっとも生物なので物理的に硬いというより防御技術が巧みなのである。僅かに打点をずらされると思ったいるより打撃の威力は減少する。
それに加えて魔戦技の【魔鎧】による竜鱗や竜肌の強度のアップや打撃を跳ね返す【反射】もフリューゲル師はそれで腕をやられて現在は距離をとり他の面子の打撃のタイミングよりやや早いタイミングで【指弾】を放ち【反射】を打ち消して回っている。
地竜からすると鬱陶しい存在であろう。
前衛組でダメージを与えているのは現在は竜人族のガァナィンだけである。
ダグと半豚鬼英雄のクロガーは長物で攻撃をチラつかせている。
これまで長物には全て【自爆】を施してきていたのでそれを警戒している。
二人の主武器には【自爆】は施しているが【引金】の設定はないので命令語が必要である。
健司は尻尾薙ぎ払いが効いているのかヨロヨロト起き上がっている状態だ。
やはり出し惜しみして勝てるような相手ではない。打刀を仕舞うと[魔法の鞄]から片手半剣を取り出した。師匠産の魔法の武器である。こいつに【自爆】を施してある。どんな形でも構わないので一撃入れれば逆転の目はある。
僕の後ろで牽制の射撃をしている瑞穂に後ろ手で手信号を送る。
内容を理解した瑞穂が機械式弩を放り投げると[魔法の鞄]から機械式石弾弩を取り出し弾丸を装填する。
そして発射する。
射出された弾丸は竜鱗に命中すると爆発を起こす。魔法の工芸品の爆裂弾である。手軽に【火球】並みの威力がだせるのが売りだ。
僕は来るべきタイミングに合わせてジリジリと所定の位置へと移動していく。
その時、爆発に気を取られていたのか地竜の死角から健司が[炎神剣]を腰だめに突撃を開始した。それに合わせて気を引くようにダグとクロガーが吶喊する。
長物を異常に警戒している上に絶妙なタイミングで着弾する瑞穂の爆裂弾に気を散らせ健司の存在が意識から消えた瞬間。
地竜の脇腹に身体ごと突っ込む勢いで[炎神剣]を根元まで突き刺す。その一撃は間違いなく内臓にまで届いた。
激しい痛みに一瞬硬直した隙を逃すはずもなくダグとクロガーも左右の前肢にそれぞれの槍を突き刺すと、
「「爆ぜろ」」
【自爆】の命令を口にした。
っそれぞれの武器が自壊して純粋な破壊のエネルギーに転じ地竜の前肢の肉を派手に吹き飛ばす。しかしまだ繋がっている。
そこへガァナィンの[功鱗闘術]の奥義【屠月斬】の一撃が首筋に叩き込まれた。しかし脊椎を断つほどではなかった。
だが地竜はまだ死なず狂ったように毒の吐息をまき散らした。
既に前衛は風晶柱を失っているため塩素ガスをもろに吸い込むことになる。ダグとクロガーは即座に離脱することで被害を最小限に抑えられたが大技を放った直後のガァナィンは反応が遅れる。
思わず武器を手放し目を押さえ吠える。運が悪い時というのはトコトン悪いようで暴れていた地竜の頭部が苦しむガァナィンにヒットし吹き飛ばす。全備重量で0.83グランにもガァナィンがである。
その時一陣の風が吹き抜けた。
攻撃のタイミングを計っていた九重の精霊魔法である【風刃斬】である。空気の刃は地竜の竜鱗を割り傷つけるだけでなく周囲の塩素ガスも吹き飛ばした。
予定していた位置に到達した僕は再び後ろ手で瑞穂に手信号を送る。
再び機械式石弾弩から弾丸が放たれる。爆発を警戒していた地竜は必死に避けようとするが前肢が動かず思うように動けない。
弾丸は頭部の近くに命中するとボフンと音を立てる。今回は煙幕弾であった。煙が地竜の視界を塞ぐ。
その瞬間、僕は片手半剣を腰だめに構え矢のように飛び出す。そしてとどめとばかりに片手半剣を突き刺す。
「爆ぜろ」
師匠産の強力な[魔法の武器]が自壊し破壊のエネルギーへと転じる。
破壊のエネルギーは地竜の首元を大きく削り取る。
「浅いか!」
想像以上に驚異的な生命力であった。やはり脊椎か脳髄を破壊しなければダメか。
[魔法の鞄]から打刀を取り出すとガシャンという音共に何かが僕の横を走り抜けると動きの鈍った前肢を軽やかに登ると小剣を逆手持ちし全体重の載せて首筋に突き立てた。
その[鋭い刃]は竜鱗などを物ともせず脊椎を断ったのであった。
ビクンビクンと痙攣した後に地竜の頭が垂れる。魔戦技で止血していた傷も開き出血が始まる。
その後は悠々と頭頂部まで歩いていき同じように[鋭い刃]を突き立てて脳髄を破壊した。
本来であれば災害級の強敵であったはずだが終わってみれば被害はそれほど大きくなかった…………なかった?
人的被害はなかったのだから問題ない。
「みんな疲れているだろうけど急いで剥ぎ取り作業を始めてくれ」
そう指示を出すと一班の面子で奥の部屋へと向かう。そこには迷宮宝珠があるはずだ。
早く破壊して帰って休みたい。
奥の扉を開けると部屋は明るく中央に目的の迷宮宝珠が鎮座しその奥に黄金の玉座がありボロボロの布を纏った人が力なく座っていた。気になる事と言えば幅広穂長槍が立て掛けられている事だろうか。
恐らく陛下の弟子というか臣下らしい連絡できなくなった人物にしてこの迷宮の迷宮主だろう。
流石に二万年近く生きるのは無理だよねぇ。死を超越せし者は死霊魔術の奥義にして成功率が低いだろうから死体だと思う。
さっさと開放して差し上げよう。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。
貴重なお時間を使って報告していただき感謝に堪えません。
なんか登場人物が増えてきてしまったのでそろそろ一話あたり割いて人物紹介でもした方がいいのだろうか?




