539話 試練の迷宮㉓
一撃一撃が人間なら即死級の応酬であった。それぞれが致命傷を避けつつ既に数百合に及ぶ応酬が四半刻も続き流石の体力お化けらにも疲労が見え始めてきた。
武器を振る速度が低下し始め一時凌ぎか特殊能力ともいえる毒の吐息や低位の魔術を交えきたりガァナィンの方も咆哮砲で応じたりと直接的な打ち合いを避け体力回復に走り始めた。双方さほど被害が出ない中そんなやり取りやり取りも一限もしないうちに再び打ち合いに戻る。
だが総じて魔神将は魔術師でもあり闇司祭でもある。ずる賢く下手に隙を見せると何をしでかすか分からない。
フリューゲル師ら二班の面々も固唾をのんで戦況を見守っている。
暴風雨のような大型武器の応酬も意外な形で終わりを告げた。
脳筋らしく武器による打撃の応酬が続いたけど突然ガァナィンの尻尾薙ぎ払いが魔神将の足を払ってのである。タイミングよく攻撃直後の硬直時を狙われ大きくバランスを崩す黒山羊魔神将。
そこへガァナィンの最大の一撃、[功鱗闘術]の奥義【屠月斬】が襲い掛かる。
黒山羊魔神将も瞬時に無詠唱で【防護圏】を展開するが敢え無く玻璃が砕けるが如く割れると袈裟懸けに切裂いた。
この世界で魔神将を一対一で撃破できる戦士がどれだけいるだろうか?
やはり戦士に必要なのは強靭な肉体か。羨ましい限りである。
魔神将が動かないことを確認した二班の面子がガァナィンを労う為に集まってくる。
僕も労う為に近寄ったその時だ。袈裟懸けに真っ二つに切裂かれた魔神将が動き出し棹状大刃で斬りかかってきた。
そんな事だと思ったよ!
腰の光剣の握り掴むと一気に振り抜く。
黒山羊魔神将の首が飛ぶのと胴体が派手に転がっていくのが同時であった。反応したのは僕とフリューゲル師であった。
「やはり【打撃耐性】を使っていたか」
先に言われてしまったがそう言う事である。闇の奇跡の高位に【打撃耐性】と呼ばれるものがある。特定の武器種によって死亡しないという呪いの一種である。
恐らく体力を回復させている際に使ったのであろう。
これがあるから魔神は怖い。
強い魔神ほど死んでもすぐには消えない。
一限ほど観察しても変化がないので諦めて僕らは安全地帯へと進むことにした。
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戻ってくると同じタイミングで闇森霊族のアドリアンらも反対側から歩いてきた。どうやら偵察に出ていたようだ。
そして立ち止まるとこう言った。
「先に進めるようになっていた。どうやらこの迷宮も次で終わりのようだ」
彼の説明によるとこの先に階段があり下の階層は広場であった。正面に巨大な扉があるだけだったのでほぼ間違いなく迷宮主の部屋の待機所だろう。
戦闘能力を喪失した生き残った半豚鬼らはここで休憩を命じて僕らは下層へと降りていく。
そして降りた先の広場だが20スクーナほどの広さであった。正面の大扉は無駄に豪華な両開きで売ったら結構いい価格になりそうだなどと考えてしまった。
「取り合えずここでいったん休憩しよう」
階層主に魔神将を当てるという事は迷宮主の警護を担当する階層主はそれ以上の強敵となる。
精霊王あたりか西方で伝説と化している巨大生物覇王蟲と呼ばれる超巨大な蟷螂あたりだろうか?
まさか世界に百体前後しかいない竜なんてことはないよね?
ないよね?
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