537話 試練の迷宮㉑
戻ってきた僕らは下で見たものを主要メンバーに話をし、恐らくはどれだけ待っていても事態は変わらないだろうという結論に至り強行突破する事になった。
複数の竜牙兵と壁盾を持たせた石の従者を投入して雑魚を牽制しつつ正面の大きな通路に強行突入する。魔神将は基本的にスルーの予定だが最悪の場合は殿を担当する足の遅い竜人族のガァナィンが受け持つ。それに合わせて二班がサポートする事になる。
しつこいくらい危なくなったら[緊急脱出の水晶柱]を 使うようにと言っておく。
僕ら一班が先陣をきりその後ろを妖精族を中心で組んだ三班、闇森霊族のアドリアン率いる四班が続きフリューゲル師やガァナィンらの二班が殿を務める。生き残った半豚鬼らは両側面に配置して物理的に脆弱な妖精族らを守る。重傷を負った半豚鬼とその世話をする細身の半豚鬼には可哀想だがここに残ってもらう。どのみち僕らが攻略すれば強制退去だ。全滅すれば…………考えるのは止めよう。
各員が十分に休息をとったのを確認した後に階段をぞろぞろと降りていく。そして安全地帯のギリギリで待機して刀身の傷ついた打刀を確認する。魔法の効果によって刀身は新品のように回復していた。
そして大盤振る舞いで竜牙兵を六体呼び出すると事前に呼び出していた石の従者ともに前進させる。
侵入者に問答無用で襲い掛かってきたのは知能が低い魔神兵や魔神獣らである。
竜牙兵らで雑魚を適度に間引きし抜けてきたものを健司や瑞穂、ダグらが討伐する。
程なくして魔神将が指令を出す。下位魔神である雨樋の魔像によく似た下位魔神である翼魔神や[魔法の武器]を持つ剣魔神を先頭を走る健司が三日月斧で斬り伏せる。
健司が討ち洩らした魔神は瑞穂の機械式連弩で仕留められる。ダグは一歩引いた位置で牽制の刺突を繰り出し僕はと言えば簡易魔像らの指揮で手一杯で攻撃に加われない。術者は温存するので最低限の自衛のみとしている。
盾役を用意しているといっても物理的障壁ではないのでどうしてもスリ抜けが発生する。
そうやって前進しているとようやく中央に陣取る魔神将を捉えた。食人鬼を超える体躯に黒山羊の頭部を乗せたような見た目の黒山羊魔神将である。得物は0.75サートほどの棹状大刃であった。いくつか存在が確認されている魔神将の中でも肉体派である。
棹状大刃を一振りする青白い魔力のオーラがたなびき竜牙兵が破壊され石の従者の持つ壁盾が腕ごと吹き飛ぶ。
人間があれをまともに喰らえば良くて致命傷。悪ければ即死であろう。こんな奴とまともに戦う気はないので残った簡易魔像らを集中させて僕らは素通りする事にする。
先方も僕らは雑魚と認識したのか標的としておらずあっさりと通過を許す。奴の標的は最後尾の竜人族のガァナィンやフリューゲル師のようだ。あの二人は分かりやすいくらい見た目からして強そうだもんなぁ…………。とは言ってもこちらの予定通りではあるが…………。
雑魚であると断じられて怒る気も起きない。寧ろ被害を最小限に突破したかったので雑魚で結構といった心境である。思う存分過小評価してくれ。
後ろで標的となったフリューゲル師率いる二班が黒山羊魔神将と戦闘が始まるころ僕らは正面通路に突入した。
「生存者は?」
振り返って即座に面子の確認を行う。
負傷者は出たものの回復魔法が間に合い死亡者は出ていなかった。ただし致命傷に近い攻撃を受けた者もおり傷は癒えたものの出血が多すぎて戦線離脱であった。
問題は――――。
「俺らで残ったのは7人だ」
半豚鬼英雄のクロガーがそう報告してくれた。もっとも過酷な箇所で盾役として奮戦し命を散らしたのだ。
これらの行いは彼らを忌避していた女性陣からも評価を改めるくらいには奮戦したのだ。その生き残った半豚鬼らも無傷とは言えず息も絶え絶えで防具は半壊、壁盾は紛失といった状態であった。武器すら失った者もいる。遺体はまだ広場に放置されている。
クロガーは流石というべきか軽傷であった。ただし残り6人の半豚鬼らはこれで戦線離脱である。
半豚鬼らの元へ行き労いの言葉と共に約定は守るとあらためて宣言した時だ。妙な違和感を覚えた。
周囲を見回すがはっきりと何に違和感を感じたのか分からない。ふと瑞穂を見ると同じように何か気になっているようだ。
取りあえずアドリアンらに通路の先行偵察をお願いし僕は二班の戦闘を見つつ必要なら手を出す気でいた。
この通路は魔神らは進入禁止のようで入ってこれないので残った面子には休憩をしてもらう。
広場を眺めるとガァナィンと黒山羊魔神将がそれぞれ大型の武器を振るい何合か経過していた。遠目で見ているので動きが遅いように見えるけど実際近接戦でやりあうと訓練用の武器でも背筋が凍る一撃だったりする。それと打ち合うのだから流石は魔神将というべきだろうか。
広場全体を見回すと既に魔神は二班の残りの面子によって片付けられたか迷宮からの命令により終末のモノの討伐に飛ばされているせいか一騎打ちの様相である。
ここでも違和感を覚えた。
魔神は死ねば時間の経過とともに跡形もなく消える。やつらは僕らより高次の存在でありこの世界に召喚される際に本体は元の世界に残し義体を作り出して召喚に応じるからだ。
ただし獣程度しか知能のない魔神兵や魔神獣などは死体が残る。
現在残されているのは半豚鬼の遺体と数えきれない魔神兵や魔神獣のみだ。
「あれ?」
何かおかしい。何に疑問を持った?
しばし考える。そして違和感の正体が朧気ながら見えてきて徐に僕は振り返る。
違和感の正体は生存している半豚鬼の数だ。遺体の数から考えると生存者が一人多いのだ。
「瑞穂」
怪しまれないように囁くように彼女を呼ぶ。
「呼んだ?」
音もなく近寄りいつの間にか僕の右脇に控えており見上げるように僕の発言を待っている。
そんな彼女に僕は自分の感じている違和感を話しどう思うかと問い瑞穂の回答を待つ。周囲をさっと見回した後、瑞穂は手信号でこう伝えてきた。察しの良い娘は好きだ。
『右から2番目の半豚鬼が怪しい』そう言う内容であった。
予定通り終わるのか?
せめて六月一杯までには次の章へいきたい。




