533話 ちょっと寄り道。塔攻略へ①
「さて、どちらに行くべきだと思う?」
階層主を撃破し報酬部屋と思われる巨大な塔に入った。予想外だったのが塔の上部構造は飾りかと思ったのだけど報酬の宝箱のあった場所には上下に伸びる螺旋階段が存在したのだ。
「上は…………どこまで行くのかしらねぇ?」
隣に居る和花が見上げつつそんな事を口にする。見上げれば確かに上方は暗くどこまでも続いているようにも見える。
「この塔は北方の白亜の塔をモデルにしているようなのでそれに因んだものでは?」
そう回答するアルマの話には続きがある。今でこそ白亜の塔は神聖プロレタリア帝国の所有物のように認識されているが本来は星界と地上を繋ぐ昇降機だったという。
「罠という可能性も十分ありそうだけど…………」
そう呟いてみたもののゲーム脳的には寄り道こそ正解って気がするんだよねぇ。よし、決めた。行こう。
そうと決まれば選抜隊を決めなければならない。上へと伸びる螺旋階段は内壁沿う形で伸びており手摺もなく大所帯で行くにはちょっと危険を感じるからだ。
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結局半豚鬼英雄が自ら先行偵察を買ってでた。仮初の主人格である闇森霊族のアドリアンに確認し許可が下りたので半豚鬼英雄のクロガー率いる六人の半豚鬼らが螺旋階段を上がっていくのを僕らは眺めている。
「彼らの制約《ギアス》って実際にどんな感じなの?」
「結社の制約は反抗的な行動そのものの禁止だったな。生き残っている面子は強者ばかりで多少は制約の罰則の呪いに抗えるがクロガーの奴は耐えきるから絶対に気を許すなよ」
側にいるアドリアンはそう答えたのだ。正直な感想はこちらの対応次第ではないのだろうかと考えている。誰だって自分らを粗雑に扱う奴らに対して隙があれば噛みついてやりたいと思うと思うんだ。それとも僕が甘いのだろうか?
やがて半豚鬼等の姿はほとんど見えなくなり唯一彼らの位置を示すものは燃料角灯の明かりのみだ。
「そうだ。宝箱の中身はなんだった?」
「短弓と各種矢だったよ」
ここで言う各種とは様々な効果を付与された魔法の矢の事である。迷宮の収納箱ってサイズの割りに中身がしょっぱい事が多々あるけど今回もハズレかな? 取りあえず鑑定待ちだ。
「思うんだが、ここでのんびり休息もいいが下層への偵察を出したらどうだ? 人員は余ってるだろ」
そう言ってアドリアンの視線の先は残っている半豚鬼らである。
どうもアドリアン的には半豚鬼らを徹底的に使い潰したいようだ。人権とか平等とかこっちの世界じゃ妄言の類だしなぁ…………。確かにいつ周囲の女性に襲い掛かるか分からない奴らに気を許す事は怖いかなとは思う。
その為の制約が掛かっていたとしてもだ。少し悩んだけど下層の偵察に送る事にした。
選抜した六名は豚鬼英雄のクロガーに比べると覇気がない。結社でちょ…………教育が行き届いているせいか上位者に対しては唯々諾々と感じである。確かに逆らっても制約の罰則で地獄の苦しみを味わう事を思うと分からなくないけど怖いのは妨害行為だ。人並みの知能があるので小賢しいの奴もいるのだ。
六名を下層へと送り出した。
程なくして塔の上層へと向かったクロガーから連絡が入る。連絡用に[通話の護符]を貸し与えておいたのだ。
特に妨害もなく広場に出たとの事であった。広場の中央に三本の円筒のチューブが上へと伸びているとの事でクロガー曰く昇降機だろうとの事であった。
「上まで距離もあるし僕と後は…………瑞穂、着いてきて」
長い螺旋階段をちまちま上るのは苦痛だ。塔の内壁から考えて体力の消耗は避けられない。【飛行】で一気に飛んでいくつもりだ。そうなると同伴できる者は限られており僕の他は和花か瑞穂かフリューゲル師くらいだ。他にも魔術師はいるが多くは拡大魔術を専攻しており【飛行】は八大魔術に分類され習得に至ってない者も多い。
瑞穂が頷いたのを確認した後に詠唱に入る。
「綴る、八大、第五階梯、動の位、重力、解放、疾駆、発動。【飛行】」
魔術の完成と共にフワリと身体が浮く。使い慣れない事もあって違和感が凄い。宙を自在に動く為にはかなりの訓練が必要で自身の感覚を慣らしていくしかないのだ。
瑞穂の【飛行】の魔術を見届けると続けて【光源】の魔術を唱える。休息中の和花がやや不安そうにこちらを見つめてくるので目で訴えてみる。通じたよね?
そして僕らは上昇を始める。
程なくすると天井に到達した。高さにして37.5サートほどだろうか。内壁の螺旋階段へ向かい開口部がある。重そうな鉄扉が開かれており半豚鬼らを先行させたのは正解であった。クロガーの話しぶりからすると彼らはここに居ることになる。
注意深く覗き込んでみると中央付近に燃料角灯の明かりが見える。
【光源】の明かりが漏れているのを利用して僕だけ姿を晒し彼らの元へと向かう。念のため瑞穂には離れたところで監視してもらう事にした。
「これか…………」
クロガーのそばまで移動すると見えて来たのは直径5サートほどの三本の円筒であった。周囲に雨樋の魔像の残骸が無数転がっていた。万能素子結晶は既に回収済みのようで半豚鬼の一人が両手で抱えている。見えているだけで20個はありそうだ。
「取り合えず邪魔者は排除しておいた」
「ありがとう、助かったよ」
クロガーに礼を言う。もっともクロガーからすれば礼を言われるほどの労は感じていないようであるけど。
「上へはどうする?」
無論昇降機に乗るかという事だ。三台あるので面子を分けることにした。クロガーほど自制心が強い男なら兎も角として他の半豚鬼と瑞穂は同じ昇降機に乗っせられない。
こいつらマジで瑞穂にすら何をとは言わないけどおったててくるからなぁ。種族の性みたいなもんとは言え流石にまずい。
半豚鬼らで三人ずつ分乗して残りは僕と瑞穂で同乗する事にした。昇降機の中のボタンは最上階のみだったので何ら問題が発生しなければ全員無事に到着するはずだ。
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軌道エレベーターというだけあって目的地である低軌道ステーションまで一体どれほどかかるのだろうかと思ったけど意外と早く到着した。そういえばこいつは迷宮内に造られた模造品であった。
降り立って最初に目についたのは天井一面に広がる星界であった。
ふとそこ光景に違和感を覚えた。
「あれ? なんで月が三つあるんだ?」
この世界には赤き月と白き月の二つの衛星が存在する。位置関係的に一番手前の月が僕の知らない月だと思う。
何か手掛かりになるものはないだろうか?
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