531話 試練の迷宮⑲
下りた先は一面真っ白な世界であった。
「報酬もねーしくそ寒みーし最悪だぜ」
隣で文句を言っているのは九重である。周囲は暗いうえにかなり吹雪いており視界は5サート先は見えないくらいには酷い。明かりと言えば何人かが携帯する精霊角灯くらいだ。
上の階層が南方をイメージしたとしたら今度は北方だろうか。勘弁して欲しい。
ただ北方を参考に階層を構成したのであれば登場する怪物もある程度は絞れてくる。
雪狼、雪大狼、雪大熊、雪大鹿、雪巨人、毛長象あたりだろうか。
あ、吹雪いていなければ雪大鷲に襲われる可能性もあるか。
階層主は恐らく霜巨人族か大雪狼あたりかな? そろそろ一介の冒険者じゃ対処できない敵になってきたな。もしかしたら最下層も近いのかも?
大雪狼とは体長2.5サートにもなる純白の毛並みの超大型の狼型の四足獣であり、よく氷の精霊王と勘違いされる。どちらも氷の精霊を力の源とした魔法を使ってくるので勘違いされても仕方ない。
僕を含む幾人かは[常温の首飾り]を身に着けているので問題ないが他の面子はそうはいかない。急いで防寒具に着替えさせ拠点設営を指示し僕はと言えば周辺の警戒と言う名のサボリである。
半刻ほどで設営は終わったもののそれだけでは足りないと氷霊族のライハンルトに頼み【|氷の精霊壁《バイム・ウォール”フラウ”》】を五枚ほど設置して吹雪を避けてもらった。吹雪が落ち着いただけで体感温度はかなり上がったと思う。
ここまで終わればあとは食事と休息だ。
「呪的資源の回復も兼ねて交代で一旦休もう」
そう言って見張りの順番を決めるために各班のまとめ役を呼び集める。
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一日が経過した。この階層は相変わらず薄暗く吹雪いており視界の悪さも相まって探索がかなり厳しい。【|氷の精霊壁《バイム・ウォール”フラウ”》】のお陰で内側は積雪が0.25サートほどで済んだものの壁の外は0.75サートほど積雪が増えていた。
体力も呪的資源も充分回復した事もあり交代で周辺の調査に乗り出した。基本的には編成単位での行動で四つの編成が交代で調査する。
待機中の面子で定期的に除雪作業などを行っている。このまま無為に時間が過ぎると先に進めなくなるのではと不安になる。
対策として自重の重い石の従者に指示を出し周辺を踏み固めさせる。
遭遇する敵は想定通りであるものの足場の悪さと視界の悪さと相まって近距離での遭遇戦となる。その為か不意打ちを喰い負傷者が出たりもした。最も癒し手も多いので調査に支障はなかった。
この階層で唯一良かったことがあるとすれば、ここは宝の山であった。敵をから剥ぎ取れる純白の毛皮は希少性が高く高価買取品だ。また狼系は兎も角として鹿や熊は肉も売れる。更に熊の肝も薬の材料として売れる。
いちおう活動拠点から周囲0.38サーグの調査は終わったが単なる平野のようである。吹雪の方は相変わらずでこれを何とかしなければ階層主と遭遇するのは何時になるんだとイラつきだす者も出始めた。
「俺が炎の精霊王を長時間呼び出せればな…………」
そう言って健司が落ち込んでいるが、そもそも従属神に匹敵すると言われる精霊王を長時間使役できるとしたらその人物は精霊王より上位の存在となる。人類には無理という事だ落ち込むだけ無駄である。
その後も調査は続くが手応えがないまま更に一日が過ぎ去った。調査範囲は活動拠点から周囲0.5サーグまで広がった。
「どんだけ広いんだよ」
調査から戻ってきた九重がそう言ってドカッと座り込んだ。そこそこ敵とも遭遇したようで移動と戦闘と剝ぎ取りで疲労が色濃く出ている。
食料などに余裕があるもののこの暗く寒い地域で過すことに慣れていない者が多くかなりストレスを溜めている。寝台とかも普段使っているものより質が落ちるしね。睡眠は大事だ。
ところが翌日に変化があった。吹雪が収まり周辺が明るくなったのである。
「なんだね、あれは?」
拡大魔術で視力を増強していたフリューゲル師が奥を指さす。そちらへと視線を向けると距離にして1サーグほどだろうか?
北方を模して巨大な塔…………。
「白亜の塔を模したものじゃ? 恐らくあそこの下が階層主の居場所でしょうね」
「なるほどね。ところでどうやってあそこまで行くかね?」
「そうですね――――」
石の従者を複数体用意し横一列にした状態で前進させる。その自重で雪を踏み固め塔までの経路を確保するのだ。
ただしこの作戦には問題点がある。
そう魔術師は七人しかおらず誰の呪的資源を浪費するかだ。
それなりの数を用意する事になるので数を作れる者か複数人で負担するかの?
「やはり僕かな」
「樹殿はダメだ。君は階層主戦に参加してもらう。弟子にやらせよう」
フリューゲル師の意見で彼の弟子二人が担当する事になった。
周囲の状況が変わらないうちに塔までたどり着きたいという事で設営したものはそのままでとし塔へと向かう事になった。
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