528話 試練の迷宮⑰
1000文字くらいで更新して可能な限り更新ペースを稼ぐかと思ってるのですが何故か1000文字前後だと中途半端で投稿を躊躇ってしまう。
「これは困ったね」
階層一面が水面となっており目を凝らして水平線を見渡しても何もない。時折水面が跳ねたりするので何等かの生物がいる事だけは間違いない。
さて、ここは浮き橋もなければ船もないし筏を作る木材すらない。上の階層から伐採してくるしかないのだろうかと真剣に迷っている。
更に水がやや濁っており水底の状態も伺い知れない。
「基本的には徒歩で進める深さだと思う」
見渡す限り水面にどうしたものかと悩んでいるとアルマがそう声をかけてくれた。
そのまま水際まで近づくとアルマは司教杖を水面に突っ込む。司教杖は10サルトで水底に達したようだ。
「ほらね」
そう言って司教杖を持ち上げる。泥汚れ以外は特に変化ないようだ。
見世物としての迷宮であるため移動不能や死亡確定な階層はあり得ないとの事である。
「ところで体調の方はどうなの?」
アルマも和花同様に鎮静の水薬中毒に置かされてのだけど見た感じは回復したようにも見える。
もっとも当共同体の女性陣は無理する人が多いからなぁ。
「大丈夫…………と言いたいけど、まだ倦怠感があるかな。でも頭脳労働には支障がないからいつでも相談には乗れるかな」
そう言って浮かべた笑みは問題なさそうに見える。といっても今回は人数もいるし暫くは休んで貰おう。何れ彼女の出番はある。
「なら暫くはゆっくりしていて。出番は必ずあるから」
「それは樹さんの勘?」
「うん。この手の勘って当たって欲しくない時に限って当たるんだよね」
「なら言霊の類かもね」
言霊魔術というのがあるだけに考えたくないなぁ…………。
「それじゃ、私はもう少し休んでるから樹さんも気をつけてね」
急に会話を切るとアルマは休憩場と化しているスペースへと去っていく。入れ替わりにフリューゲル師と闇森霊族のアドリアンがやってきた。どうやら配慮してくれたようである。
彼らにもアルマとの話をし対応策を求める。
「完全武装の半豚鬼らを先行させて経路の確認だろうね」
この世界基準だと種族そのものが性犯罪者である半豚鬼の扱いとかこのレベルである。僕に言わせればきちんと教育と躾を施せばそれなりに社会適応可能だと思っているんだけどねぇ。
実際に結社からやってきた半豚鬼らは勝手に異性を襲ったりはしない。とはいえかなりストレスが溜まっている状態なのでどこかでガス抜きを考えなければならないのも事実だ。
彼らに関しては有能な個体以外は間引いてしまえというのがフリューゲル師や闇森霊族のアドリアンなどの意見である。
そうは言っても僕的には無駄に命を散らさせるのもの気分が良くないので別の手を打つ。
簡易魔像を数体先行させて様子を見ようという事にした。言い出しっぺという事で僕が楢の木兵を一〇体呼び出す。結構呪的資源を使ってしまった。
横一列で一定の間隔をあけて前進させる。
「ここの階層主は何だと思う?」
ゆっくり移動する楢の木兵を眺めつつ隣のアドリアンに問いかける。
「無難なのところで変異性超巨大鰐じゃないか?」
アソリアンの意見はド定番であった。実は僕も同じことを考えていた。この水辺では僕らは行動に制限を受ける。そこへ変異性超巨大鰐が襲ってくると思うと頭の痛い話である。
「道中はどう思う?」
「それこそ嫌がらせの如く魚系怪物の波状攻撃だろ。ほら――――」
そう言ってアドリアンが指し示す方を見れば楢の木兵の周辺の水面がバシャバシャと跳ねている。
「あの感じだと群狼魚だな」
南方に生息する体長7.5サルトほどの肉食魚であるが数十匹単位で襲い掛かり襲われた生物は骨もの残らないと地元で恐れられているとか。
厄介なのは生物じゃなくてもとりあえず襲っておくかの精神だ。
あの猛攻で被害を受けないためには最低でも甲冑の着用は前提となる。
我々の面子でそこまで硬い装備なのはガァナィンと健司の他は半豚鬼たちくらいだ。
群狼魚は楢の木兵を獲物と認識しなくなったようで水面は薙ぎ状態に戻る。
その後は水深も0.25サート以上となり動きが鈍くなったところを槍魚や飛翔槍魚の襲撃を受けていた。気が付けば楢の木兵の数も五体にまで減らされていた。異変が起きたのは入水から四半刻ほど経過したところだった。
突然楢の木兵が勢いよく引き摺られるように沈んだのだ。
「巨大鰐だな」
あれる水面から覗く尻尾が見えた。どう見ても鰐である。
「ここの生物は南方に生息しているものばかりだな。そうなるとあいつがいるな」
「あいつ?」
「そう殺人鰻だ」
体長0.25サートほどの鰻なのだけど、こいつら厄介なことに隙間から入り込み肉を喰らうためか生物の肛門などから体内に潜り込み内臓を食い荒らすのである。
そしていつの間にか楢の木兵が全滅していた。
「次は上空から偵察しよう」
上空には怪物の姿も居ないようだし【飛行】でとも考えたけど呪的資源を出来る限り確保しておきたかったので別の魔術を用いることにした。
[魔法の鞄]から掌サイズの木彫りの鳥を取り出し地面に置くと詠唱を始める。
「綴る、創成、第五階梯、創の位、仮初、生命、創生、同期、発動。【簡易使い魔】」
前衣装が完成すると木彫りの鳥が羽を広げ数度羽ばたきをした。本来使い魔は生物との契約なのだが、生き物である限りいろいろ制約もあるので僕は契約しなかった。
これなら事故で死んでも困らない。
この魔術は簡易魔像の応用しており鳩サイズの鳥の形をしている。術者と五感を共有可能と普通の使い魔と使い心地はあまり変わらない。
さっそく空へと羽ばたかせる。
5サートほどの高さを水平飛行しているとなんとなくこの階層が分かってくる。上空から見ると大雑把ではあるが浅い所と深い所の区別がつくようである。
浅いところは通路代わりのようで迷路のように複雑な経路となっている。単純にまっすぐ歩けば済むほど甘くはなかった。
暫く飛行していると違和感を感じた。
数度折り返しして確認すると僅かだが歪があるのだ。これは【幻影】の境界線だろう。
その時である。突然胸を指す痛みに襲われ視界が真っ黒になる。思わず呻いて胸を押さえる。
「…………撃墜されたな」
視力の良いアドリアンが一部始終を見ていたようだ。
「何があった?」
当事者の僕には見えていなかった。恐らく視界の外から襲われたのだろう。
「鉄砲魚だな」
南方の河川に生息する全長30サルトほどの魚である。特徴は口から水撃を放ち水面上にいる小動物を狙撃し捕食する行動が有名である。
撃ち落されたのか。先ほどの痛みは使い魔あるあるだけど五感を共有していた代償だ。これがあるから使い魔は持ちたくないんだよね。
取りあえず【幻影】の歪の箇所まで直線距離で0.25サーグほどだけど迷路上の浅瀬を歩いていくとなると結構しんどい。
「やはり武装させた半豚鬼らに足元探らせながらちまちま進むしかなさそうだな」
アドリアンはそう結論づける。
「ここは俺に任せてもらおう」
アドリアンが何やら思案した後にそう言って離れていく。
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「野郎ども! 準備が出来たな。死に物狂いで進め!」
甲冑に壁盾を装備した半豚鬼15人に対してアドリアンはそう命じた。
作戦はこうだ。
半豚鬼らが足元を探りつつ移動している合間に精鋭に【水上歩行】をかけ水面を走り抜ける。
僕、健司、フリューゲル師、ガァナィン、九重、アドリアンで階層主を倒す。
既に襲撃を受け悲痛な叫びをあげる半豚鬼らを追い越し階層主の区画に侵入を果たす。半豚鬼らのお陰で僕らに被害は出なかった。
そして僕らを待ち受けていたのは想定外の生物であった。
体長3.75サートほどの長い体と八つの頭。超巨大鰐たちの悪い生物。そう最終進化状態の多頭水蛇であった。
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