525話 試練の迷宮⑮
「迎撃しろ」
僕は竜牙兵に迎撃を命じる。流石に一流の戦士並みというだけあってそれぞれが数回斬りつけると黒い獣は倒れる。ホッと胸をなでおろした時、異変が生じた。
黒い獣が爆発したのである。その爆発の威力は【火球】を超えるほどであり一撃で竜牙兵がバラバラに吹き飛ばされてしまった。
僕は心の中で悲鳴を上げてしまう。一体用意するのに金貨10枚かかるんだよ!
だが竜牙兵の価格の高さを嘆いている暇はなかった。もっと費用の掛かる白鯨級潜航艦を逃がさなくては。
「ハーン! 急速潜航! 所定の位置で待機」
白鯨級潜航艦の外装に大きな傷を負わされると次元潜航能力に影響があるため退避させることにした。
必要な人員は全員船外に出ているし問題ない。それより後続の終末のモノが来る前に亜空間の海に逃げ込んで欲しい。
ハーンが奥に引っ込んで地面から突き出た艦橋が徐々に沈んでいく。
「高屋くん。 この場に待機するのは危険だ。とりあえず移動しよう」
そう進言してくれたのはフリューゲル師である。実にもっともな意見だ。僕は浮島と化している報酬部屋に一時避難するよう指示する。その際に石の従者に担がせていた和花とアルマはフリューゲル師と竜人族のガァナィンに運んでもらう。
そして石の従者はその自重と硬さを生かして殿として吊り橋の前に立たせておく。
予想通り黒い獣は石の従者に突撃しその怪力で倒されると爆発するが小動もせず使命を全うしている。
「来た早々に大歓迎だな」
「疲れているだろうに悪いね」
「お前には一族の借りがあるからな。それに疲れているのはあいつらの方だ」
そう言って闇森霊族のアドリアンが見つめるのは肉壁扱いされて数を減らした半豚鬼らであった。
半豚鬼に関しては混血ゆえなのか種無しだが豚鬼並みの性欲と体力を持ちこの世界では歩く強姦魔呼ばわりである。
なんせ相手の容姿は問わない。穴があったら入れたい。こっちの世界じゃ健康的なふくよかな女性が尊ばれ、和花みたいな細身の女性は性的には見られない傾向がある。その和花や瑞穂にすら好色な目を向けるのである。
差別は良くないと叫ばれる世界に住んでいたけど彼らを同じように受け入れる事は流石に難しい。その為、この迷宮攻略で活躍し生き残ったものにだけ色々と便宜を図る事にした。半豚鬼連中も自分たちがどのようにみられているか理解している。
とはいっても既に八人が亡くなっている。
彼らを指揮する闇森霊族勢は数が増えにくい自分らを生かすために割と雑に半豚鬼らを扱っている。
ある日突然反逆しなければいいのだけど…………。
報酬部屋ならぬ浮島は狭すぎるので早々に先発部隊である四班である闇森霊族の面子が半豚鬼を前面に押し出して菌糸寄生生物に生息している林へと進んでいく。
程なくして橋頭保を確保したので移動を開始した。僕は最後尾でそれを見守りダメ元で吊り橋を落とせないか試してみたところ――――。
「普通に落ちた」
この閉鎖空間では終末のモノは最初の出現座標以外からは出現できないのでこれで安心である。ただし僕らも後退は出来なくなったことを意味するわけだけど。
筋肉モリモリの兎もどき時折襲ってくるものの菌糸寄生生物は見当たらない。あの時に燃やし尽くしたのだろうか?
先ずは楢の木兵を大量に出し半豚鬼らと共に周囲の警戒に当たらせる。その間に残りの面子は交代で休憩を行う。ただし各班のまとめ役は今後の打ち合わせのために集まっていた。
まずはこれまでの経緯を可能な限り細かく説明していく。
「ふむ。正直見世物を意識している訳か。観客が攻略者の苦しむさまを肴に飲食をするという古代王国にはよくあったタイプだな」
まず最初に口を開いたのは知識量においてアルマと並ぶフリューゲル師であった。古代の魔術師は選民意識が凄く、魔術師でなければ人に非ずとまで言ってのけたという。
この手の迷宮はそういう人以下扱いの者たちを嬲り者にするための施設だという。ただし困難に打ち勝った者には一定の敬意を示し褒美も渡すそうだが。今の世の中で言うところの準男爵、当代貴族である。
いまは観客は居ないだろうけど、迷宮宝珠は計画に基づき僕ら一班の予想戦力からすぐに殺さずじわじわと苦しむように迷宮を構成したのだろう。たふん使える万能素子が増えた事で今後はさらに大変になる可能性もあるとの事だ。
此処にいる各班二四名+生き残った半豚鬼一七名を交代させて進めばかなり負担は楽になるはずだ。
本来であれば外部から増員が入ってくることはあり得ないのだから。
一刻ほどの休憩の後に僕らは闇森霊族のアドリアン率いる四班を先頭に林を進んでいく。隊列が伸びている事もあり側面から襲われることも多々あった。
そして和花もアルマも未だに目覚めない。鎮静の水薬中毒が酷いと割とよくあるとフリューゲル師は言うけどこっちは気が気でない。
半刻ほど彷徨うと先頭の四班が止まれと言って来た。
「なにかあったのかい?」
先頭集団まで移動しアドリアンを見つけると声をかける。
「恐らくだがこのまま進むと階層主部屋扱いの区画に入るぞ」
そう言われてみたものの特に開けているでもない。
「その根拠は?」
「あれだ」
そう言ってアドリアンが指し示したのは斥候役の半豚鬼であった。なぜか一人だけ離れている。
「彼?」
「あいつはあそこから戻ってこれない」
別にハブってるわけではなかったようだ。
入ったら倒すまで出られない系か…………。
しかし広い空間がないという事は大型の敵ではないという事だろう。植物が多いし妖精族だろうか? そうだとするとやりにくい。
「敵は何だと思う?」
「俺の勘だと彷徨う樹木系だと思う。特にアレだよ」
そう言ってアドリアンが指さすのはひときわ大きな樹木であった。動いている…………のか?
「恐らく長寿の彷徨う樹木だろう。周囲にの樹木すべてが支配下の彷徨う樹木と言われても俺は信じるぞ」
そうなると強力な炎の精霊を行使できる面子で編成を組みなおすか。
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