524話 プランBとは
瑞穂を先頭に二体の竜牙兵が追従しその後ろをそれぞれ和花とアルマを抱えた石の従者が追従しそれの後ろに僕が付く。最後尾に健司とダグが後方を警戒しながら元来た通路を進んでいく。
プランBに移行したのでいつこの迷宮の状況が変化するかは分からない。
そして予想より早く半刻もしないうちに変化が現れた。襲って来た豚鬼の集団の装備が棍棒に皮鎧だったものが棘付き棍棒に硬革鎧に変更されていたのだ。更に集団に必ず術者が随行するようになった。
術者は精霊使いであったり闇司祭であったりと違いはあったが難易度が上がったのは間違いない。
だからと言ってゲームのように得られるものが良くなったかと言うとそんな事はないのだ。実に面白くない。倒しても万能素子結晶くらいしか回収できるものがない。僕らに限らずこの世界では人型生物を食料とみる価値観はない。皮を剥げば売れなくはないけど供給量の都合で採算が取れないから買い取りもしない。
せいぜい睾丸が錬金術の素材としてそこそこの値で取引されるくらいだろうか。使用目的は絶倫薬のだけどね。
兎に角開けた場所、出来れば鷲頭獅子と戦闘した場所に所定の時間で着きたい。一度通った通路を進んで出くわした豚鬼や食人鬼を排除して進んでいく。
瑞穂の強みは、ほどほどのサイズの人型生物に対して圧倒的な強さがあるところだ。金属鎧も紙のように切り裂く[鋭い刃]などは一振りで骨や腱も断てる致命的な一撃を出す。逆に大きな生物相手だと分厚い皮膚や皮下脂肪に阻まれ重要器官などに届かず一撃が軽くなってしまうのだ。
相性の問題もありサクサクと狩って進んでいく。僕と健司が一日以上かけて移動した工程を三刻ほどで踏破した。
「ここがあの崖の下なのか…………お前らよく助かったもんだ」
ダグが僕らが苦労した崖を眺めてそんな感想を漏らしている。
落下速度を考えると一瞬でも躊躇すれば間に合わなかったのだからそう思うのは当然だろう。自分でも出来過ぎだったと思う。
「準備を始めるんで上空を警戒して欲しい」
僕はそう指示し上を指さす。釣られて瑞穂とダグが上を見上げる。上空には大型の飛行生物、鷲頭馬、鷲頭獅子、蛇竜、翼竜が数体ほど見える。
確認すると無言で装備を変更を始めた。
瑞穂は機械式連弩、ダグは投槍と槍投具を出す。
僕は念のため竜牙兵をあと二体追加で呼び出して周囲を警戒させる。
健司はまだ目が覚めない和花とアルマを見ていてもらう。
準備が整ったのを確認し僕は[魔法の鞄]から宝珠を取り出すとおもむろにそれを地面に叩きつけると少し距離をとって見守る。
叩きつけられた宝珠は砕け散ると同時に光の粒子となり徐々に明るさを減衰させて一限ほどで消えていった。
「後は待つだけ」
そうして待つ事八半刻だろうか変化が現れる。
宝珠が叩きつけられた場所が歪みだしたのだ。歪みは大きくなりやがてその歪みから見慣れた金属製の構造物が姿を現す。
それは白鯨級潜航艦の艦橋であった。
本来閉鎖的環境のこの迷宮に外部から侵入は不可能であった。しかし僕らには強力な装備が存在した。強襲揚陸次元潜航艦である白鯨級潜航艦というチート装備がある。
宝珠の名を時空誘導波発信宝珠と呼び砕け散ると様々な時空に次元座標を一方的に放出するのである。
プランBは白鯨級潜航艦で乗り付けて全戦力で攻略しようという反則技であった。
この迷宮は入場時の僕らの六人の戦力を元に構成されておりそこへ本来想定されていない戦力を持ってきたのである。
艦橋上部扉が開くと最初に顔を出したのはハーンであった。
「樹さん。お待たせしたっす」
ハーンが横にズレれてると他の迷宮攻略を終えた面子が次々と出てくる。
だが、反則の代償はあった。
白鯨級潜航艦の周囲に別の歪が生まれたのである。
時空誘導波発信宝珠に誘われて招かれざる客がやってきたようだ。
徐々に姿を現したそいつらは僕らにとって対話不能の敵性生物であった。黒い四足獣たち。大陸で絶賛大暴れしている終末のモノの先兵であった。
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使いにくいなら止まってるカクヨムに移ろうかとも考えたけどこのままでいいかな。




