523話 試練の迷宮⑭
竜屍の頭部が爆ぜた事でいろいろとひっかぶる事になった。ちょっと戦意が高揚していたんだ。後悔してる。
まずは【洗濯】で身綺麗にする。気持ちが落ち着いた頃には健司が近くまで来ていた。
「おつかれ。しかし派手にやったな」
「そっちもお疲れ。見事に決まったな」
近寄ってきた健司と互いを労いハイタッチを交わす。剥ぎ取りを健司に任せ僕は四人の確認作業に入る。
本心では和花の様子を真っ先に確認したいと思ってもそうもいかない。
ダグは負傷の状況から接近戦に気を取られていた状況で視界外からの尻尾薙ぎ払いで吹き飛ばされたと推測できる。健司並みに重装甲なら良かったのだけど、そうなるとダグの持ち味を殺すことになる。
瑞穂は巻き添えだろうか。目立つ外傷は見当たらないが意識を失うほどだと結構の衝撃を受けたことになる。念のため鎮静の水薬を飲んでから二人に【重癒】を施す。これでしばらくすれば意識が戻るはずである。
さて、和花はというと障壁のお陰で外傷はないが顔色がかなり悪い。これは呪的資源の使い過ぎによる気絶もあるけど、もしかすると鎮静の水薬飲み過ぎによる中毒症状もあるかもしれない。
側で倒れているアルマもほぼ同じような症状が見て取れる。ここに来るまでかなりの無理を押してきたのだろう。
大人しく帰還してくれればとも思ったけど、和花の性格から絶対に帰らないだろうなとも思っていた。だが本部と連絡は取らなかったのだろうか?
もしかすると妨害されているのか? 試しに【遠話】を使おうとすると確かに本部の位置が認識できない。これでは一縷の望みをかけて進むという選択も十分あり得ただろう。[緊急脱出の水晶柱]はここで使うには効果を考えるとそれなりにリスクもある。
呪的資源を使い切ると最低でも数時間は目が覚めないのでまずは安全地帯の報酬部屋に運び入れよう。
[魔法の鞄]から拳大の石を四つ取り出し石の従者を四体作り出す。
四人を担いで移動するように指示を出し剥ぎ取りの終わった健司と共に報酬部屋に向かう。
扉を閉めて[魔法の鞄]から簡易寝台を取り出し展開させると四人を寝かせる。
「さて。開けようぜ」
当分四人が目覚めない事もあり暇を潰す意味で健司がそう提案する。確かに僕は医療魔導師ではないのでこれ以上できる事はない。せいぜい鎮静の水薬中毒の緩和くらいだろうか。とはいっても僕の【毒癒】の魔術でどこまで緩和できるだろうか?
個人的にはアルマが目を覚ましてから彼女に【完治】の奇跡を願ってもらった方が確実だ。
自分の力不足を嘆いていても何も進展もないし気分転換に収納箱を調べる事にした。
収納箱の周囲を確認する。周囲に異常はない。よく見れば収納箱には鍵穴すらない。念のため道具を取り出し少しずつ箱を開けていくがワイヤートラップすらない。
魔法の罠に関しては調べたところで分からない。あれは勘で何とかするものだし。
思い切って蓋を開けると収納箱のサイズに比して中身は銀のチェーンとペンダントトップの首飾りだけであった。
「しょぼっ」
後ろで健司がそんな事を言う。言いたいことは判る。だけどこの手のケースは報酬は強力な品である確率が高い。
「ん~…………」
ペンダントトップに埋め込まれた宝石は内部から僅かに光を放っており間違いなく魔法の工芸品であることは確実であった。
宝石は無色透明で複雑なカットが施されている。職人もかなりの腕であった模様。
これまで見た文献からいくつか候補が浮かび上がる。しかしそのどれもが微妙に違う気がするのだ。やはり知識量ではアルマに劣るなと実感する。
気を取り直して別の報酬部屋で拾った棒杖をじっくり観察する。これに関してはいくつ特徴が一致した。
[大魔導師の棒杖]で間違いないだろう。魔術師垂涎の品。それこそ殺してでも奪い取るとか選択肢が出るような品である。和花の[世界樹の長杖]には届かないがこれ以上の性能の魔法の発動体はほぼ存在しないレベルなのである。
売り払えば最低でも大金貨20枚、普通の独身男子であれば死ぬまで遊んで暮らせる額である。それほどの品である。とはいっても僕も必要であるなら強力な魔法の発動体は欲しいと思っていたので売るかどうかは要相談となるだろう。
そうこうしているうちに気が付けば八半刻ほどが経過しており四人の様子を見ようと近づくと瑞穂が身動ぎをした。
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意識の戻った瑞穂からポツポツとこれまでの状況を決して饒舌というわけではないがそれなりに濃く語り始めた。
襲ってくる怪物も曲者揃いであったし確かに僕らより苦労したであろう事が伺えた。僕らの方は力押しでどうとでもなったからね。
竜屍戦に関しては打たれ強さが苦戦の原因であり、攻撃役の和花が鎮静の水薬中毒で碌に魔法を行使できなかったのも大きかったようだ。
これまでの道程を考えると仕方ないとはいえ強情な性格が完全に裏目に出たなといった感じである。
「お前らホント、似た者同士だよな」
話を聞き終えた健司がそんな感想を漏らす。確かに安全を考えれば双方が[緊急脱出の水晶柱]を使えば問題なかったのだ。
だがお互いに帰還はないと踏んで攻略をしてしまった。結果として間に合ったから良かったけどもう一歩遅かったら一生後悔しただろう。
もう一点問題点は和花たちがいた周辺は外部と連絡が取れなかった事だろうか。
今回の件は反省材料として次に生かすとして、そろそろ――――。
健司も瑞穂も気が付いたようだ。
周囲の万能素子の密度が濃くなったのである。
「他の迷宮攻略組が破壊したようだね。島に供給されている万能素子のバランスが変わったんだ」
七分割されていた万能素子が四分割に変わる。各迷宮への供給量の増えた分は出来ることが増える。この閉鎖的迷宮では難易度に影響する。
これを避けるために四つ同時攻略を考えていたのだけど、予想以上にここの攻略が厳しいのと他の三つは施設であり難易度が低めであった事だろうか。
プランBを完遂する為には僕らがどこかそこそこ安全で開けた場所に行かなければならない。猶予は四刻くらいかな?
呪的資源が勿体ないけど竜牙兵を警護に数体呼び出して和花やアルマは石の従者に運搬させよう。
「ダグは?」
「悪いけど起こす」
そう言って【気付け】の魔術を施し無理やり起こす。互いに謝罪合戦をし事情を説明し広場で回収してきたダグの愛槍である羽根付き槍を手渡し準備してもらう。
どのみち和花もアルマも鎮静の水薬中毒が抜けないと恐らくなんにもできないだろう。
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