幕間-55 試練の迷宮 裏④
前進を命じていた楢の木兵はこちらの事情で勝手に停止することなく前進を続けており先の方で豚鬼に殴り飛ばされていた。そいつらはボコった。
あらためて楢の木兵を呼び出し前進を命じる。その後も豚鬼や飛行鮪や浮遊海月に襲撃を受ける事二刻。
「また、浮遊海月なの…………。流石にもう引っかからないわよ」
ストレスの溜まっていた私は思わず投石紐と鉄弾を取り出すと投擲準備を始める。
投石紐のメリットは魔戦技が苦手で自己強化が出来ず非力な私やアルマでもそれなりの射程距離と威力が出せる事だ。
予備動作から一振り。
鉄弾は狙い通り薄っすら周囲に溶け込んでいる浮遊海月に命中した。スッキリ。
その時、浮遊海月が閃光と共に爆発したのだ。
予期せぬ閃光に目を閉じる事も忘れ閃光を直視してしまった。
何も見えない。
爆音で耳も遠くなっている。
これはいけない。
アルマが何か叫んでいるような気がするのだけどほとんど聞こえない。
視界と音が突然戻った。目の前に怒った表情のアルマが居る。この美人さんは怒っていても奇麗なのは反則だと思う。いや寧ろ怒らせたい。
恐らく彼女の奇跡で回復したのだろう。同時に回復したという事は高位の奇跡であったはずだ。
「敵が来てるわよ!」
アルマがそう叫び司教杖を左手に持ち替え右手は腰の小剣へと伸びる。
爆音に釣られて周囲の敵性生物が接近してきたとの事だ。
既に前衛の楢の木兵は倒されており瑞穂ちゃんとダグが三体の食人鬼を抑え込んでいる。そして私たちの方、後ろから迫ってきている豚鬼の小集団だ。その中に明らかに術者らしい格好のメスの存在が居る。
敵として登場する術者はウザいので、いち早く召喚封印中の風乙女を外に開放し命ずる。
「風乙女よ。あいつを黙らせて! 【無音】」
しかし私の精霊使いとしての能力が低いのか、たまたま豚鬼呪術師が運よく抵抗したのかは定かではないけど効果がなかった。
お返しとばかりに私の周囲が突然真っ黒に染まる。同時にえも言えぬ恐怖と精神的負荷が襲い掛かる。これ闇の精霊を用いた【精神攻撃】だ。
樹くんを失う恐怖に比べたら大したことはない。私は抵抗に成功して効果を跳ね除けた。
そして迫ってきている前衛の豚鬼たちを防ぐべく貸与されている[力場の腕輪]の効果を発動させる。
目の前に不可視の障壁が展開され豚鬼らの前進を阻む。そして意識を集中し障壁を外側へと広げていく。ジリジリと豚鬼らの巨体が外側へと押しやられていく。この状態では基本的に私は障壁の維持しかできないので…………。
そうだ。いつもならいるはずの樹くんは居ないんだった。
どうかしている。脳への負荷がで焼ききれそうになりながら[魔法の鞄]から触媒である大きな牙を二つ取りだし放り苦痛に耐えつつ詠唱に入る。
「綴る、付与、第五階梯、付の位、触媒、従僕、竜牙、発動、【竜牙兵】」
詠唱が完了し術が効果を発揮すると【魔化】された牙は質量保存の法則を無視して剣と盾と分部鎧で武装した骸骨戦士、竜牙兵】が二体出現する。
迎撃しろ
そしてすぐさま命令語を発する。
命令に従い一流の戦士の技量を持つこの竜牙兵が豚鬼らに襲い掛かる。
脳への負荷で倒れそうになるのを気が付けばアルマがそっと支えてくれていた。
そして高らかに奇跡を願う。
「法の神よ、この者らに祝福あれ。【祝福】」
彼女の祈りは届き私たちえも言えぬ高揚感に包まれる。続けて別の奇跡を願う。
「法の神よ。我らに大いなる耐性を授けたまえ。【耐性付与】」
相手の豚鬼呪術師もただ突っ立ているわけではない。何か精霊に命じている。しかしこの場で術を発動させるだけの精霊力が満ちているのは光、闇、精神くらいだ。風は私が支配下の風乙女によって得られるため豚鬼呪術師には風は使えない。
そして術者の傾向として一度抵抗された術は同じ相手には使わない。
そうなれば使える術は限られる。
しかし効果はなかった。精神に何か触れた感触はあった。恐らく【忘却】か【混乱】、【雑念】あたりだ。それくらいしかないのである。
そうこうしているうちに竜牙兵が豚鬼を一体、また一体と屠っていく。
劣勢を悟った豚鬼呪術師は撤退を視野に入れるが、それより早くアルマの奇跡が発動する。
「法の神よ。かの者に裁きを。【裁きの鉄槌】」
豚鬼呪術師は目に見えない鉄槌に殴られ昏倒した。
竜牙兵が豚鬼をすべて屠ったので障壁を解除して前衛組を見れば食人鬼は倒されていた。
少々呪的資源を使ってしまったけど先に進まなければならない。鎮静の水薬をグイっと一気飲みして先に進む。
一刻ほど彷徨った末に巨大な扉の前に到着した。階層主の部屋だ。ここを突破すれば樹くんと合流できるだろうか?
扉を開く。
既に階層主が待機していた。豚鬼一家である。
ムカついたので【爆裂】で爆殺した。
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