幕間-54 試練の迷宮 裏③
長くなったので三分割しました。
少ないながらも睡眠をとり私たちは緩やかな一本道をひたすら進み続け寒天状立方体生物が立ちはだかったら【火球】で表層を吹き飛ばし、その穴に【炎の投槍】をねじ込み貫通され、仕上げに【炎の壁】を縦置きし焼き払って通路を確保する。
殲滅する必要がない事に気が付いた事で呪的資源の消費はかなり抑えられた。価値にして金貨10枚ほどの万能素子結晶を取り逃すけど時間には代えられない。
それでも足りない呪的資源は鎮静の水薬をがぶ飲みし負担の掛かった脳を鎮静化させている。
体内時計でお昼を過ぎたあたりで一本道は終わった。そして私たちの目の前に広がるのは巨人族が通れそうな巨大な通路の迷路であった。
「これ一階と同じ仕様のように思うのだけど、これからは大型の敵や飛行型の敵も出ますよって事よね?」
思わず隣を歩くアルマに問いかけていた。
「そうね。でもこの幅と高さだと飛行型の敵は結構小型に分類される怪物だと思うよ。大きくても翼長0.75サートくらいかしら」
小型と言っているけど人間基準で見ると翼長0.75サートは結構威圧感ありそうに思う。
「寧ろ鳥型より魔法原理で飛行する怪物が怖いかなぁ」
そう続けたのだった。
ぼんやりとした明るさを保っているが念のため明かりを灯すことにした。ただし明かりの持ち手は真っ先に狙われる傾向にあるので勿体ないと思いつつ[魔法の鞄]から触媒となる木片をみっつ取り出し床に放ると詠唱を始める。
「綴る、付与、第二階梯、付の位、触媒、従僕、人形、武装、発動、【楢の木兵創造】」
詠唱が無事に完了すると質量保存の法則を無視して【魔化】された木片は木の槍を携えた人間サイズの木人形に変じた。
そして【光源】を楢の木兵創造を中心にかけると前進を命じる。
戦闘力は街中に居る普通の兵士レベル。分かりやすく言えば少し戦闘訓練を施された程度だけど壁役としては十分である。ただ所謂簡易魔像の為に細かい命令は逐一こちらが指示を出さなければならないのがたまに傷だ。そうして歩き始める事一限。T字路の角で最初の歓迎を受けた。
そいつらは棍棒と革鎧でがっちり武装した豚鬼の小集団であった。
囮として先頭を歩いていた楢の木兵の一体が棍棒の一撃で痛恨の一撃となり吹き飛ばされそのまま動かなくなる。
「迎撃して」
慌てて命令語を発する。突発的な状況に自律的に行動できないのが簡易魔像の欠点だ。
命令を受け槍を両手で構えると構えると刺突を繰り出す。しかし体格に見合った厚手の革鎧を突き抜ける事はなかった。それでも善戦し残りの二体の楢の木兵が破壊された時には瑞穂ちゃんとダグが残りの豚鬼5体を仕留めていた。
程なくして最後の一体も地に伏した。
その後は一階層の時に似たような展開であった。八半刻くらいの間隔で豚鬼の小集団と遭遇し殲滅するという作業が続く。先に急ぎたい焦りもあるけど正直飽きてきた。
そこに油断があったのだろう。
後方警戒のために新たに配置していた楢の木兵が突然大きく吹き飛ばされてきた。
振り返るとそこには全長が1サートにもなる鮪が悠然と泳いでいた。一瞬脳がバグる。
「飛行鮪ね。南方で発見された鮪に似たナニカね」
暢気にアルマがそんな事を説明してくれる。
「対処法は?」
「16ノードで突進するしか能がないから頑張って避ける」
追加情報として視力は良くないとの事で索敵範囲は狭いらしい。楢の木兵を仕留めた飛行鮪は若干距離の離れていた私たちには気が付かないようで周囲を周回している。
私たちは無言で頷くと足音を忍ばせこそこそと距離を取る。
ところが世の中そう上手くはいかないようで後方の飛行鮪を気にするあまり進行方向の警戒が疎かになっていた。最初の餌食は背の高いダグであった。
苦悶の声を上げるとバタリと倒れたのだ。何事かと周囲を窺うと何もいない。姿なき追跡者だろうかと思っていると、
「あっ」
瑞穂ちゃんが何もない宙を指さしつつ、右手は太腿入れ物へと伸び棒手裏剣を抜くと素早く投擲した。
高さ1サートのあたりで何かに突き刺さり落下と共にべちゃっとした音を立てる。
落下したモノは透明なゲル状の物体だった。
「浮遊海月ね。…………あれとか」
足を止め倒れたダグの様子を確認しているアルマが程なくして落下したソレを見てそう答えると宙を指さす。
目を凝らすと確かに何かが居るのが分かる。
ダグの症状を確認終えたアルマはすぐさま対応する。
「法の神よ。この者の麻痺を癒したまえ。【解毒】」
ダグにかざした手がぼんやりと光ると効果があったのか程なくしてダグが身動ぎをする。
「…………俺は何にやられたんだ?」
ダグの方はと言えば自分がどういった状況で倒れたか理解できていなかったようである。
「あなたはあそこに浮いている浮遊海月によって麻痺させられたのよ」
かなり毒性が強く運が悪いとショックによる即死もありえたそうだ。ダグはと言えばショックを受けてい入るが被害者が自分で運が良かったとも言っている。この面子だと最も体力があるのはダグで間違いない。
彼だったから麻痺で済んだともいえる。
「伏せてっ!!」
その時珍しく瑞穂が強い警告の声を発した。反射的に屈むと私の上をナニかがものすごい勢いで通過していき[鋭い刃]を抜剣した瑞穂ちゃんによって斬り落とされていた。
通路に転がったそれは真っ二つにされた飛行鮪であった。
唖然としていると瑞穂ちゃんは淡々と解体作業を始めたのである。勿論食材としてだ。
こっちの世界は保存技術が拙い事もあり一般人は生ものを食べる習慣はなく、富裕層や生産者のような者でないと口にしない。
特に中原では海産物は魚の干物以外はお目にかからない。
これだけの大物を[魔法の鞄]に入れて持ち帰ればかなりの高値で取引されるだろう。食通にね。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。
貴重なお時間を使って報告していただき感謝に堪えません。
豚鬼と楢の木兵が同じルビなので楢の木兵に変更しました、以前書いた分は気が付き次第直します。




