表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
582/678

519話 試練の迷宮⑩

「これってなんだと思う?」

 さっさと収納箱(チェスト)を開けてしまった健司(けんじ)が中身を指さす。報酬なんで罠はないはずなんだけど不用心すぎる。


 収納箱(チェスト)の中に入っていたのは五本ほど収納可能な投槍筒(ジャベリンコンテナ)であった。

「なんかの入れ物? ならハズレか?」

 健司(けんじ)の露骨な失意の声を聴きつつ僕の知識の中ではあるアイテムの可能性が浮上してきた。

「いや、アタリかな」

 僕はそう答えると投槍筒(ジャベリンコンテナ)を取り出し、次に[魔法の鞄(ホールディングバッグ)]から投槍(ジャベリン)を五本取り出す。

 それを投槍筒(ジャベリンコンテナ)へと納めた後に(おもむろ)に一本引き抜き投槍筒(ジャベリンコンテナ)健司(けんじ)に渡す。

 効果は予想通りであった。


「あれ?」

 投槍筒(ジャベリンコンテナ)を受け取った健司(けんじ)が自身が手に持つそれと僕が持つ投槍(ジャベリン)を何度も視線を彷徨わせる。


 こいつの名は[|豊饒の角《ジャベリンコンテナー・オブ・アンリミテッド》]という。最後の一本を残しておけば無限に増殖してくれる優れモノだ。試しに五本すべてを抜くと一本も補充されない。

 間違いないようだ。恐らくだが本来であれば次の鷲頭獅子(グリフォン)戦で使う事を想定していたのかもしれない。


 需要が少ない事で中級品(アンコモン)級扱いだけどダグにとってはそれ以上の価値があるだろうしこれは回収。


 さて、出発するかとなった時に唐突に健司(けんじ)がこんな提案してきた。

「今夜の定時連絡までここで待機しね?」


 健司(けんじ)に言われて手持ちの懐中時計を確認するとまだ定時連絡には時間がある。和花(のどか)たちが心配ではあるけど非常用のアイテムも持たせてるし、アレを持ったうえで何かあった場合は恐らく僕が居てもどうにもならないだろう。


 ま~その場合は一緒に逝けない事で後悔しそうではあるが…………。


「まだ二刻(四時間)あるよ。とにかく先の状況だけでも調べよう」




 ▲△▲△▲△▲△▲△▲





「だから言っただろう」

 階層主(フロアボス)の部屋を逆に出て入り口の扉を開いたらとんでもない(トラップ)があった。


寒天状立方体生物(ゼラチナスキューブ)かぁ…………」

 階層主(フロアボス)の扉の目の前にあるというのが厭らしい。本来であればここで呪的資源(リソース)を大量に消耗して突入という筈だったのだろう。


「俺らでこれを処理できると思うか?」

 健司(けんじ)がそう問い、そしてこう続ける。

「珍しく俺の勘が冴えたな」

 そう言う健司(けんじ)は妙にドヤっていた。


 健司(けんじ)の根拠のない勘もたまには当たるらしい。


「確かにこれは…………」

 対処法は炎で焼き尽くすしかないのだけど、生憎僕らにはそれほどの火力がない。せめて健司(けんじ)の[炎の纏うものフレイム・オン・コマンド]が破壊されていなければ頑張れたのだけど…………。


「せめて僕が精霊魔法(バイムマジカ)が使えるか召喚魔術(コンジュアレーション)を真面目に学んでいたらなぁ…………」

 後悔を口にしてしまう。

「あれはダメか? なんだっけ…………そうそう【炎の壁ウォール・オブ・ファイア】」

「あれは呪的資源(リソース)を結構喰うんだよね。ここまでで結構消費してるからどれくらい削れるかなぁ…………」


 ものは試しだ。僕は呪句(タンスラ)を唱え始める。

綴る(コンポーズ)八大(エルム)第四階梯(ギデク)守の位(バーディガング)生成(フォーマ)(フィアマー)障壁(ヒンドラン)拡張(アツェンスラ)発動(ヴァルツ)、【炎の壁ウォール・オブ・ファイア】」

 魔術の完成と共に寒天状立方体生物(ゼラチナスキューブ)の正面に巨大な炎が吹き上がり壁を成形する。


「…………表面しか焙ってないね…………」


 この魔術ってゲームみたいに敵に真下とかに設置できないんだよねぇ。設置個所の上空に一定の空間が必要なのである。


「よし。そとの様子を見に行こうぜ。もしかしたら変化あるかもよ」

 健司(けんじ)が微妙に慰めるようにそんな提案をする。

「そうだね」


 取りあえず扉は開けっ放しで行く事にした。和花(のどか)らが来れば僕らがここに来たことがわかるだろう。

 なんせこの迷宮(アトラクション)は僕らしかいないのだから。



 ▲△▲△▲△▲△▲△▲





「晴れてるな」

「晴れてるね」

 鷲頭獅子(グリフォン)と戦った場所に戻ってきた僕らの第一声だ。


 あれだけの霧が晴れていたのである。そのおかげで周囲の状況が分かった。


 三方を推定0.25サーグ(約1km)ほどの切立った絶壁となっており、僕らはあそこを降りていたのである。

 双眼鏡(ファーングラス)を取り出し和花(のどか)たちを探すが見当たらない。


「見えるって事は【転移(テレポート)】で戻るか?」

「それも考えたけど肝心の安全に転移できる箇所が見えないんだよねぇ。それに安全を考えるとかなり上の方に転移する事になるからなぁ…………」

 健司(けんじ)がそんな提案をしてくれたが不安要素があるのだ。

 こう漫画みたいに想像でとかもっとイージーに使えれば便利なんだけどねぇ。


 魔術は学術だから決められた規約(ルール)の範疇でしか利用できない。しかも改造すると途端に呪的資源(リソース)が大食いになる。

 いまある魔術は幾世代にもわたって効率化した結果なので下手に弄れないのである。


「心配なら(いつき)だけ飛んでいくか?」


 だけどそれに対して無言で首を振る。答えは上空に居る魔物だ。

 (アクィラエ)型の魔物が大半だが、一体だけ極端に大きな個体が居るのだ。


 僕はそいつを指さす。

「あいつがヤバい」

 それは真っ赤な羽毛に覆われた(アクィラエ)っぽい魔物だ。大きさは翼長さ2.5サート(約10m)ほどだが、恐ろしいのはその急降下速度である。

 体内保有万能素子(インターナル・マナ)で自身を保護し音速の三倍の速度で突っ込んでくるのだ。


 空中で遭遇したらほぼ死亡確定の魔物である。


 その名を衝破鳥(ペーンアールター)という。


 迷った末に僕らは吊り橋の先に足を運ぶことにした。

ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。

貴重なお時間を使って報告していただき感謝に堪えません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ