519話 試練の迷宮⑩
「これってなんだと思う?」
さっさと収納箱を開けてしまった健司が中身を指さす。報酬なんで罠はないはずなんだけど不用心すぎる。
収納箱の中に入っていたのは五本ほど収納可能な投槍筒であった。
「なんかの入れ物? ならハズレか?」
健司の露骨な失意の声を聴きつつ僕の知識の中ではあるアイテムの可能性が浮上してきた。
「いや、アタリかな」
僕はそう答えると投槍筒を取り出し、次に[魔法の鞄]から投槍を五本取り出す。
それを投槍筒へと納めた後に徐に一本引き抜き投槍筒を健司に渡す。
効果は予想通りであった。
「あれ?」
投槍筒を受け取った健司が自身が手に持つそれと僕が持つ投槍を何度も視線を彷徨わせる。
こいつの名は[|豊饒の角《ジャベリンコンテナー・オブ・アンリミテッド》]という。最後の一本を残しておけば無限に増殖してくれる優れモノだ。試しに五本すべてを抜くと一本も補充されない。
間違いないようだ。恐らくだが本来であれば次の鷲頭獅子戦で使う事を想定していたのかもしれない。
需要が少ない事で中級品級扱いだけどダグにとってはそれ以上の価値があるだろうしこれは回収。
さて、出発するかとなった時に唐突に健司がこんな提案してきた。
「今夜の定時連絡までここで待機しね?」
健司に言われて手持ちの懐中時計を確認するとまだ定時連絡には時間がある。和花たちが心配ではあるけど非常用のアイテムも持たせてるし、アレを持ったうえで何かあった場合は恐らく僕が居てもどうにもならないだろう。
ま~その場合は一緒に逝けない事で後悔しそうではあるが…………。
「まだ二刻あるよ。とにかく先の状況だけでも調べよう」
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「だから言っただろう」
階層主の部屋を逆に出て入り口の扉を開いたらとんでもない罠があった。
「寒天状立方体生物かぁ…………」
階層主の扉の目の前にあるというのが厭らしい。本来であればここで呪的資源を大量に消耗して突入という筈だったのだろう。
「俺らでこれを処理できると思うか?」
健司がそう問い、そしてこう続ける。
「珍しく俺の勘が冴えたな」
そう言う健司は妙にドヤっていた。
健司の根拠のない勘もたまには当たるらしい。
「確かにこれは…………」
対処法は炎で焼き尽くすしかないのだけど、生憎僕らにはそれほどの火力がない。せめて健司の[炎の纏うもの]が破壊されていなければ頑張れたのだけど…………。
「せめて僕が精霊魔法が使えるか召喚魔術を真面目に学んでいたらなぁ…………」
後悔を口にしてしまう。
「あれはダメか? なんだっけ…………そうそう【炎の壁】」
「あれは呪的資源を結構喰うんだよね。ここまでで結構消費してるからどれくらい削れるかなぁ…………」
ものは試しだ。僕は呪句を唱え始める。
「綴る、八大、第四階梯、守の位、生成、炎、障壁、拡張、発動、【炎の壁】」
魔術の完成と共に寒天状立方体生物の正面に巨大な炎が吹き上がり壁を成形する。
「…………表面しか焙ってないね…………」
この魔術ってゲームみたいに敵に真下とかに設置できないんだよねぇ。設置個所の上空に一定の空間が必要なのである。
「よし。そとの様子を見に行こうぜ。もしかしたら変化あるかもよ」
健司が微妙に慰めるようにそんな提案をする。
「そうだね」
取りあえず扉は開けっ放しで行く事にした。和花らが来れば僕らがここに来たことがわかるだろう。
なんせこの迷宮は僕らしかいないのだから。
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「晴れてるな」
「晴れてるね」
鷲頭獅子と戦った場所に戻ってきた僕らの第一声だ。
あれだけの霧が晴れていたのである。そのおかげで周囲の状況が分かった。
三方を推定0.25サーグほどの切立った絶壁となっており、僕らはあそこを降りていたのである。
双眼鏡を取り出し和花たちを探すが見当たらない。
「見えるって事は【転移】で戻るか?」
「それも考えたけど肝心の安全に転移できる箇所が見えないんだよねぇ。それに安全を考えるとかなり上の方に転移する事になるからなぁ…………」
健司がそんな提案をしてくれたが不安要素があるのだ。
こう漫画みたいに想像でとかもっとイージーに使えれば便利なんだけどねぇ。
魔術は学術だから決められた規約の範疇でしか利用できない。しかも改造すると途端に呪的資源が大食いになる。
いまある魔術は幾世代にもわたって効率化した結果なので下手に弄れないのである。
「心配なら樹だけ飛んでいくか?」
だけどそれに対して無言で首を振る。答えは上空に居る魔物だ。
鷲型の魔物が大半だが、一体だけ極端に大きな個体が居るのだ。
僕はそいつを指さす。
「あいつがヤバい」
それは真っ赤な羽毛に覆われた鷲っぽい魔物だ。大きさは翼長さ2.5サートほどだが、恐ろしいのはその急降下速度である。
体内保有万能素子で自身を保護し音速の三倍の速度で突っ込んでくるのだ。
空中で遭遇したらほぼ死亡確定の魔物である。
その名を衝破鳥という。
迷った末に僕らは吊り橋の先に足を運ぶことにした。
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