幕間-53 試練の迷宮 裏②
「ちょっと嫌な敵が出てくるようになったわね」
通路に落ちた万能素子結晶を回収しつつそんな事をボヤいてしまう。
あれから私たちは体感上は真っすぐな通路を延々と歩き続けている。単調な光景に時間感覚がマヒする中で時折襲撃を受ける感じだ。ただ出てくる敵が見えざる追跡者系統だったり短距離転移を繰り返す瞬き猟犬や光の屈折を操り実際の位置をずらして襲い掛かる姿くらましの豹や分身を用いて幻惑する鏡像犬など癖の強いものばかりで地味に呪的資源を削られている。主に私が…………。
そしてとどめが通路一杯に広がる寒天状立方体生物だ。ほぼ透明で壁のように展開し取り込んだ獲物を内部の酸で溶かすのだ。
後ろから追い込まれて逃げ出した先に寒天状立方体生物が居た時は眩暈がした。なにせ武器などで倒すことはほぼ不可能な敵なのだ。
みんなで延々と松明で焼きましたよ…………。
勘の鋭い瑞穂ちゃんが居なければ私たちはとっくの昔に不意打ちされ全滅もありえたと思うと分かれてしまった樹くんの動向が気になる。
大丈夫だろうか?
皇?
あいつは黒蟲並みにタフで殺しても死ぬようなタマじゃないので心配してない。
何時までも変わらない通路を延々と歩きつつ怪物どもを駆逐してどれくらい時間が経過しただろうか?
途方もない時間を歩いていた気もするし実はたいして時間が進んでいないようにも感じる。気が付けば呪的資源もほぼないに等しく頭痛と眩暈で頭がフラフラとする。ついでに足元も覚束ない。脳がも仕事をしてくれない。
「大丈夫? 焦る気持ちは判るけど休憩とろう?」
気が付けば私はアルマに支えられていた。瑞穂ちゃんとダグが心配そうに私を見ている。
「もしかして倒れた?」
「うん」
私を支えるアルマも顔色が良くない。それは彼女も呪的資源的に限界が近いからだ。
聖職者の用いる奇跡には対象の脳の負荷を肩代わりする【精神力譲渡】と呼ばれるものがあり私が定期的に施してもらっていたからだ。
「今日はここで休もう。四人しかいないしに君らはゆっくり休むとなると見張りの問題もある。無理しても仕方ない」
そしてダグにまで諭され今日の移動は中止となった。
携行食を水で流し込み壁にもたれかかるとすぐに意識が飛んでいった。
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就寝中に数度の襲撃があったらしい。瑞穂ちゃんがちょっと眠そうにしている。術者を十分に働かせるために前衛職は徹夜で見張りなどを行う事は多々ある。
ただいくら若いとはいえパフォーマンスは落ちる。
そしてやることは昨日と変わらない。延々と通路に沿って歩いていき敵に襲われれば撃退するだけである。
距離だけなら結構歩いている筈である。
ただ途中から勾配が少し急になり明らかに通路も螺旋を描いているのではと思えるようになってきた。
目的地は近いのだろうか?
「これは忍耐力を試されているのかしら?」
後ろを警戒するアルマが唐突にそんな事を言った。
「どういう事?」
「いつ終わるとも知れない延々と同じ光景の通路、隙あらば襲撃してくる怪物…………いつまで続くのかしらね?」
たしかにこのままあと数日も続くと瑞穂ちゃんもダグも倒れるだろう。殆ど寝ていないようだし移動中は常に神経を尖らせている。
一番困ったのは本部との定時連絡が出来ない事だ。どういう訳か靄がかかったように本部の通信魔術師の座標が特定できない。
同じ理由で樹くんとの連絡もできない。
奥の手の[緊急脱出の水晶柱]を使うべきか…………。だけど、もし樹くんが残っているならと思うと決断が鈍る。
結局決断が出来ないまま延々と刻だけが過ぎ去っていく。
「早いけど今日はここで休憩しよう」
ダグがそう提案してきた。たしかに私とアルマに余力があるうちに休憩して彼らにも休息の時間を提供しなければならない。
私はその提案を受け入れた。
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貴重なお時間を使って報告していただき感謝に堪えません。
時間がズレたので次話は本編に戻ります。




