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幕間-52 試練の迷宮 裏①

 運悪く崖から転落していった(すめらぎ)を助けるべく(いつき)くんも飛び降りてしまった。


 一党(パーティー)まとめ役(リーダー)が居なくなってしまったので私が代わりをしなければならない。年齢的にはダグだろうけど彼は一介の戦士としてのポジションで満足してしまっている。次点はアルマであるけど彼女は私を立てているのでアドバイスはすれど余計なことはしない。瑞穂(みずほ)ちゃんは論外である。


 アルマのお陰もあって焦り散らかしていた思考も落ち着いてきており取りあえずは前進する事にした。

 足場は更に細くなってきており壁面側も崖に擬態した生物が何時襲い掛かってくるか分からない。空から飛行型生物の急降下攻撃も警戒する必要がある。


 瑞穂(みずほ)ちゃんには10フィート棒(長い棒)で壁面を叩きつつ前進してもらう。本当であれば安全対策として全員に【落下制御フォーリング・コントロール】を掛けておきたいところなのだけど、基本的に魔術ないし魔法の大半は効果時間が一限(五分)しかないのだ。効果時間を拡張できるけどその分多くの呪的資源(リソース)を消費する。


 いまの私ではアルマとダグの二人に掛けて半刻(一時間)も経過すればその日の呪的資源(リソース)はほぼ尽きてしまう。私と瑞穂(みずほ)ちゃんは無詠唱(テルガン)で発動できるので気絶でもしない限りはなんとかなる。


 何があるか分からない状態では可能な限り呪的資源(リソース)は確保しておくのが鉄則なので二人には悪いけどギリギリまで頑張ってもらうと決めて進むのである。

 でも、冒険者(エーベンターリア)ってやっぱり変人というか普通でない人だなと思うのがこういった危機的状況下でも恐怖心を抑え込めてしまうところだろうか。

 普通に考えて切り立った崖を命綱なしで幅5サルト(約20cm)足場を横歩きで進もうってなること自体が頭がおかしいと思う。だからこそ高位の冒険者(エーベンターリア)になれるのかもしれないけど…………。


 そんな事を思っているとリズムよく壁面を叩いていた瑞穂(みずほ)ちゃんが止まった。危うく先を行くダグに追突するところであった。


「どうしたの?」

「人が入れる穴がある。それも人工物」

 迷宮(アトラクション)自体が人の手が入った人工物でしょと突っ込みたいところだけど、ここで言う人工物というのは自然を再現した場所に明らかに人為的に切り開いた開口部という意味だと思う。こちらも壁に背をくっつけている状態で見えないのだ。


「罠とかありそう?」

「ない」

 即答であった。相変わらず仕事が早い。

「入れそうなら入ろう」



 瑞穂(みずほ)ちゃん、ダグと開口部へと入り私の番になった。

 通路と呼ぶにはアレだけどまだ先へと続いており、ここは分岐点の様だった。このまま壁面に身体を押し付けつつ進むという選択肢もあったのかと思っていると、「休憩も必要」とこちらの考えを見越したのか瑞穂(みずほ)ちゃんが口にした。


 やっぱりまだ冷静じゃないのだろうか?


 最後尾のアルマが開口部に入ったのを確認して私は保険の為に詠唱を始める。

綴る(コンポーズ)付与(エンハンスド)第三階梯(イリルク)創の位(ラーディサーナ)粘糸(ファイルム)吸着(アドソープティ)拘束(インヒビティオ)広網(ミテンテズ)発動(ヴァルツ)。【粘着糸スティッキング・ストリングス】」

 詠唱の完了と共に魔術は無事に完成し視認しにくい糸が開口部に網目のように張り巡らせられる。

 よく似た魔術に【蜘蛛の網(スパイダーウェブ)】というものがあるのだけどあれが単一目標を拘束する魔術なのに対して今回用いた粘着糸スティッキング・ストリングス】は設置型の魔術なのだ。メリットは効果時間が長い事である。(およ)半刻(一時間)ほどである。


「もしかして罠対策?」

 勘の良いアルマは気が付いたようだ。この開口部から伸びる先は不明だけど、私は放水系の罠を警戒して先に仕掛けておくことにしたのだ。放水の呑まれて崖下へ落下するのをね。

「そのつもり」

 ただし問題もある。落石トラップだと非常に困るのだ。でも魔術は術者(キャスター)の意思で自由に解除できるので問題ないとしたい。


瑞穂(みずほ)ちゃん。進むんでしょ?」

 開口部の奥を見つめる瑞穂(みずほ)ちゃんに問うと無言で頷くのであった。


 通路は高さと幅が0.75サート(約3m)で戦闘するとしたら瑞穂(みずほ)ちゃん任せになりそうである。なんせダグは主武器(メインアーム)羽根付き槍(ウィングド・スピア)を失っており今は予備の長槍(ロング・スピア)を取り出しているところだ。しかしこの場では後ろから突くくらいしかできないと思う。


 一旦ここで一息つく。平然としていてもあの絶壁を移動すればやはり精神はすり減る。軽く水分を取り非常用の栄養補給剤(ペレンテスクェル)を服用する。


「それじゃ、行こうか」

 体感で八半刻(一五分)ほど休息して奥へと進んでいく。この通路だけど壁面がほのかに明かりを放っており照明は必要なさそうである。


 四半刻(三〇分)ほど何事もなく歩いただろうか…………。


 何事もなさすぎる。


 そのとき何か違和感を感じた。その疑問を先頭を行く瑞穂(みずほ)ちゃんに投げかける。

「ねぇ。もしかしてまっすぐ歩いているよう感じたけど、もしかして…………?」

 瑞穂(みずほ)ちゃんは肯首してからこう告げた。

「らせん状に下ってるよ」


 上っていると言われるよりはましだけど…………。

 しかし考えは続かない。瑞穂(みずほ)ちゃんが[透過の刃(パースピキューズ)]の握り(グリップ)に手をかけたからだ。


「来るよ」

 そう告げつつ飛び出すと右薙ぎに一振り。

 何かが真っ二つになり霧散していく。


見えざる追跡者インビジブル・ストーカー!」

 魔法生物(クリーチャー)の一種である。空気の塊だったりガス状だったりといくつか種類があるけどこの際どっちでもいい。

 瑞穂(みずほ)ちゃんが戦闘態勢を解いていないという事は倒しきれていないか他にもいるという事だ。

 ダグもアルマも姿が見えない事には対処できないので、とにかく今は近寄らせないように闇雲に武器を振るっている。透明化した相手と対峙した場合の基本戦術である。

 なら私の仕事は――――。

 対抗魔術を唱え始める。

綴る(コンポーズ)幻覚(イリス)第五階梯(ヨギルル)破の位(ツホ)解の位(ロサング)清澄(パースピキューズ)空間(スパス)目印(ライムズ)発動(ヴァルツ)。【透明化看破ディテクト・インビジブル】」

 魔術の完成するとそこにはやや薄暗い空間に青白く光る人型の存在であった。その数は三。


 見えざる追跡者インビジブル・ストーカーに対して目印をつけたのだ。

 姿さえ認識出来れば強い敵ではない。


 あっさりと片付いた。

ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。

貴重なお時間を使って報告していただき感謝に堪えません。



自分でスケジュール管理できない業務は正直しんどい…………。


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