516話 階層主との戦い②
互いに決定打ともいえる攻め手がなくなった。
僕は槍を構えてカウンター狙いに徹している。攻撃範囲的に僕の方が有利だ。鷲頭獅子は急降下攻撃をしようにも燃え上がる穂先を警戒し滞空しつつ威嚇するだけである。
焦れ始めて互いに幾度か攻撃するぞアピールともいうべき牽制をするも効果がなく手詰まり感が漂う。迷宮によって生み出された存在である以上、この鷲頭獅子が僕を倒すことを諦めるとは到底思えない。何処かで強引に事態を動かすはずだ。僕としては健司が無事に地に降り立ってくれれば一安心なのでそれまでは鷲頭獅子の気を引き付けておきたい。
そう思いつつ気が付けば一限近く睨みあっていた。そろそろ健司に施した【落下制御】の効果が切れるはずだけどまだ健司の姿が見えない。この濃霧で距離感がバグったのだろうか? このままだと2.5サート以上を落下する事になる。いくら強固な鎧に身を包んでいると言っても落下の衝撃はあまり防げない。所詮は人が着用する鎧である。装甲の暑さ何て1サクロにも満たない。
この時、焦れていた鷲頭獅子がこれまでとは違う動きを見せた。大きく羽ばたき高度を上げたのである。一旦霧に紛れるつもりだろう。
こちらの想定通り濃霧に紛れていく。ただ巨体が大きく翼をはためかせれば空気はかなり動く。濃霧と言えども完全に鷲頭獅子の巨躯を隠すことは出来なかった。
程なくして急降下を始めた。一度急降下を始めれば攻撃コースは変更できない。僕はすぐさま予測地点へと動き石突きを地面に押し当て{三角穂長槍の穂先を落下コースに向ける。あの質量なので両手で持っていたら撃ち負けるのは必須だからね。
鷲頭獅子がこちらの予想通りのタイミングで姿を現す。僅かに穂先を動かし落下コースに合わせる。必死に回避を試みるが前肢の鉤爪が僕を捉える前に穂先が鷲頭獅子の胴体に突き刺さる。僕はすぐさま{三角穂長槍を手放し回避する。その場に居れば潰されてしまう。
地に降り立った鷲頭獅子は悲痛な叫びをあげるが野生の勘なのか深々と刺さった{三角穂長槍は致命的な箇所から僅かに逸れていた。
ただしそこで終わらない。
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
崖を蹴って落下コースを変更した健司が上から鷲頭獅子に襲い掛かった。とはいっても慣性も重力も制御されていない健司の一撃は想定程威力はなく翼の根元に大きな傷を負わせるにとどまった。
そして肝心の健司は受け身も取れずそのままドサっと墜落である。健司の事も気になるが先に鷲頭獅子を仕留めなければと[魔法の鞄]から片手半剣を取り出すと腰だめに構えてこの一撃に全てをかけるとばかりに突っ込む。
身体ごとぶつかる勢いで片手半剣を深々と突き入れる。だが、生物の底力は恐ろしいもので致命傷であったはずの一撃を受けてなお暴れ始めその動きに巻き込まれ僕は大きく弾き飛ばされる。
受け身を取り血面を転がる勢いを使って素早く立ち上がると起き上がった健司が渾身の力で三日月斧を頭蓋に叩き込んだ瞬間であった。
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「散々、心臓や肺を潰しても生物はすぐには止まらないと言われていたのになぁ…………」
確実に仕留めるなら脊椎か脳髄を破壊しろと教えられてきたのである。ついついボヤいてしまう。
僕は健司を【重癒】で癒すと健司をその場で休ませ鷲頭獅子の解体作業を始めていた。正直言えばゲームのように貴重な素材とやらはない。肉は筋肉質で固いし、羽は多少の値が付く程度だ。目的は万能素子結晶である。このサイズの幻獣であればかなり良質なモノがあるはずだ。
「あいつら無事だといいな」
落ち着いたのか健司が起き上がってせっせと解体を続ける僕の隣まで歩いてきた。
「確かに不安ではあるけど、どうやって戻る?」
【転移】では戻れない。彼女たちの位置が特定できないからだ。
「そうだよなぁ。ところで俺らってどれくらい落ちたと思う?」
「ん~…………体感時間は兎も角として実際の時間から鑑みて125サートくらいかな?」
「結構な距離が離れたな」
「水平じゃなく垂直の距離だからね」
健司と話しつつも解体作業は続けていた、そしてかなり大きい万能素子結晶を取り出したのである。
「内部の輝きや大きさからすると金貨どれくらいの価値になるんだ?」
「最低でも300枚はいくと思う」
「命がけとは言えこれだけ稼げると冒険者に憧れるとかいう馬鹿が一定数いるのもしかたねぇな」
健司が呆れている。健司は面倒見がいいのでうちの共同体の若い子らに慕われている。結構の奴らが上辺だけの僕らを見て稼ぎ羨ましいと言うそうだ。
現実は効率よく日々鍛錬と勉強だし、業務は命がけだし憧れるが要素あるのかなぁ。
【洗濯】で身体に付着した汚れを落とし破損した武器を回収する。{三角穂長槍は柄が折れており使えない。そのまま健司と雑談を続けつつ周囲を調べて回っていると何処かで見たような死骸を発見した。
「これってダグが仕留めた鷲頭馬だよな?」
そいつは見るも無残な姿であるが折れた羽根付き槍が転がっているところから間違いないだろう。
万能素子結晶を回収して更に周囲を調べて回る。
この広場の大きさは野球場のサイズであり壁面側に開口がある。そして反対側には濃霧で先が見えないが吊り橋がある。
「どうする?」
健司が問いかけてきた。恐らく和花らと合流するなら壁面の開口を調べるべきだろう。
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