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516話 階層主との戦い②

 互いに決定打ともいえる攻め手がなくなった。

 僕は槍を構えてカウンター狙いに徹している。攻撃範囲(リーチ)的に僕の方が有利だ。鷲頭獅子(グリフォン)は急降下攻撃をしようにも燃え上がる穂先を警戒し滞空しつつ威嚇するだけである。


 焦れ始めて互いに幾度か攻撃するぞアピールともいうべき牽制(フェイント)をするも効果がなく手詰まり感が漂う。迷宮(アトラクション)によって生み出された存在である以上、この鷲頭獅子(グリフォン)が僕を倒すことを諦めるとは到底思えない。何処かで強引に事態を動かすはずだ。僕としては健司(けんじ)が無事に地に降り立ってくれれば一安心なのでそれまでは鷲頭獅子(グリフォン)の気を引き付けておきたい。


 そう思いつつ気が付けば一限(五分)近く睨みあっていた。そろそろ健司(けんじ)に施した【落下制御フォーリング・コントロール】の効果が切れるはずだけどまだ健司(けんじ)の姿が見えない。この濃霧で距離感がバグったのだろうか? このままだと2.5サート(約10m)以上を落下する事になる。いくら強固な鎧に身を包んでいると言っても落下の衝撃はあまり防げない。所詮は人が着用する鎧である。装甲の暑さ何て1サクロ(約4mm)にも満たない。


 この時、焦れていた鷲頭獅子(グリフォン)がこれまでとは違う動きを見せた。大きく羽ばたき高度を上げたのである。一旦霧に紛れるつもりだろう。


 こちらの想定通り濃霧に紛れていく。ただ巨体が大きく翼をはためかせれば空気はかなり動く。濃霧と言えども完全に鷲頭獅子(グリフォン)の巨躯を隠すことは出来なかった。


 程なくして急降下を始めた。一度急降下を始めれば攻撃コースは変更できない。僕はすぐさま予測地点へと動き石突きを地面に押し当て{三角穂長槍パルチザンの穂先を落下コースに向ける。あの質量なので両手で持っていたら撃ち負けるのは必須だからね。


 鷲頭獅子(グリフォン)がこちらの予想通りのタイミングで姿を現す。僅かに穂先を動かし落下コースに合わせる。必死に回避を試みるが前肢の鉤爪が僕を捉える前に穂先が鷲頭獅子(グリフォン)の胴体に突き刺さる。僕はすぐさま{三角穂長槍パルチザンを手放し回避する。その場に居れば潰されてしまう。

 地に降り立った鷲頭獅子(グリフォン)は悲痛な叫びをあげるが野生の勘なのか深々と刺さった{三角穂長槍パルチザンは致命的な箇所から僅かに逸れていた。


 ただしそこで終わらない。


「おりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

 崖を蹴って落下コースを変更した健司(けんじ)が上から鷲頭獅子(グリフォン)に襲い掛かった。とはいっても慣性も重力も制御されていない健司(けんじ)の一撃は想定程威力はなく翼の根元に大きな傷を負わせるにとどまった。


 そして肝心の健司(けんじ)は受け身も取れずそのままドサっと墜落である。健司(けんじ)の事も気になるが先に鷲頭獅子(グリフォン)を仕留めなければと[魔法の鞄(ホールディングバッグ)]から片手半剣(バスタードソード)を取り出すと腰だめに構えてこの一撃に全てをかけるとばかりに突っ込む。


 身体ごとぶつかる勢いで片手半剣(バスタードソード)を深々と突き入れる。だが、生物の底力は恐ろしいもので致命傷であったはずの一撃を受けてなお暴れ始めその動きに巻き込まれ僕は大きく弾き飛ばされる。

 受け身を取り血面を転がる勢いを使って素早く立ち上がると起き上がった健司(けんじ)が渾身の力で三日月斧(バルディッシュ)を頭蓋に叩き込んだ瞬間であった。


 ▲△▲△▲△▲△▲△▲



「散々、心臓や肺を潰しても生物はすぐには止まらないと言われていたのになぁ…………」

 確実に仕留めるなら脊椎か脳髄を破壊しろと教えられてきたのである。ついついボヤいてしまう。

 僕は健司(けんじ)を【重癒(セリオス・ヒール)】で癒すと健司(けんじ)をその場で休ませ鷲頭獅子(グリフォン)の解体作業を始めていた。正直言えばゲームのように貴重な素材とやらはない。肉は筋肉質で固いし、羽は多少の値が付く程度だ。目的は万能素子結晶(マナ・クリスタル)である。このサイズの幻獣(バイデ・ベスティア)であればかなり良質なモノがあるはずだ。


「あいつら無事だといいな」

 落ち着いたのか健司(けんじ)が起き上がってせっせと解体を続ける僕の隣まで歩いてきた。


「確かに不安ではあるけど、どうやって戻る?」

転移(テレポート)】では戻れない。彼女たちの位置が特定できないからだ。

「そうだよなぁ。ところで俺らってどれくらい落ちたと思う?」

「ん~…………体感時間は兎も角として実際の時間から鑑みて125サート(約500m)くらいかな?」

「結構な距離が離れたな」

「水平じゃなく垂直の距離だからね」


 健司(けんじ)と話しつつも解体作業は続けていた、そしてかなり大きい万能素子結晶(マナ・クリスタル)を取り出したのである。


「内部の輝きや大きさからすると金貨どれくらいの価値になるんだ?」

「最低でも300枚はいくと思う」

「命がけとは言えこれだけ稼げると冒険者(エーベンターリア)に憧れるとかいう馬鹿が一定数いるのもしかたねぇな」

 健司(けんじ)が呆れている。健司(けんじ)は面倒見がいいのでうちの共同体(クラン)の若い子らに慕われている。結構の奴らが上辺だけの僕らを見て稼ぎ羨ましいと言うそうだ。

 現実は効率よく日々鍛錬と勉強だし、業務は命がけだし憧れるが要素あるのかなぁ。


洗濯(クリーニング)】で身体に付着した汚れを落とし破損した武器を回収する。{三角穂長槍パルチザンは柄が折れており使えない。そのまま健司(けんじ)と雑談を続けつつ周囲を調べて回っていると何処かで見たような死骸を発見した。

「これってダグが仕留めた鷲頭馬(ヒポグリフ)だよな?」

 そいつは見るも無残な姿であるが折れた羽根付き槍(ウィングド・スピア)が転がっているところから間違いないだろう。

 万能素子結晶(マナ・クリスタル)を回収して更に周囲を調べて回る。


 この広場の大きさは野球場のサイズであり壁面側に開口がある。そして反対側には濃霧で先が見えないが吊り橋がある。


「どうする?」

 健司(けんじ)が問いかけてきた。恐らく和花(のどか)らと合流するなら壁面の開口を調べるべきだろう。



ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。

貴重なお時間を使って報告していただき感謝に堪えません。

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