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512話 試練の迷宮⑥

23-12-9 誤字修正+文章を追加

 和花(のどか)の【蔦絡み(バインディング)】が最後まで維持できた事が勝因であった。巨獣相手の場合は引き千切られたりするものなのだ。


 動きの鈍った鶏蜥蜴(コカトリス)健司(けんじ)と僕と瑞穂(みずほ)でひたすら斬りつけ出血を強いる地味な戦闘になった。その間にアルマが石化しつつあるダグの回復を行う。

 石化は瞬時に硬直する場合も多いが生物には抵抗(レジスト)する事で石化の浸食を遅くすることも可能だ。ただ末端から石化が始まり心臓が止まると仮に石化を解除しても蘇生が必要になるし最悪の場合はそのまま死亡とかもありえたのだ。


 戦闘が終わり解体してかなり大きな万能素子結晶(マナ・クリスタル)を確保できたところでダグに聞いてみた。この一党(パーティー)で彼だけが僕らとは心理的距離感が違うのだ。

「なんで瑞穂(みずほ)を庇ったの?」

「仲間だからな。と答えても納得しなさそうな表情(かお)だな」

 そう回答した後にこう続けた。

「犠牲になるとしたら替えの利きにくい彼女より俺だと思ったからだよ。それにうちには優秀な癒し手もいるし分の悪い賭けではなかったはずだ。それよりもだ…………」

 そう言ってダグは瑞穂(みずほ)の方を見る。鶏蜥蜴(コカトリス)の不意打ちを受けて一瞬固まってしまった事で凹んでしまったのだ。


 あれは正直、誰にでも…………師匠とかは別として無理だったと思う。幻覚魔術(イリュージョン)は奥義ともなれば五感を完全に騙しうるのだ。


 なんとか瑞穂(みずほ)(なだ)(すか)しやる気を引き出したところで周囲の石化した草原(プラタム)を調べてみた。


 鶏蜥蜴(コカトリス)は嘴が触れたもの全てを石化するため、餌となるヘンルーダと呼ばれる植物以外はすべて石化した灰色(グラー)の世界となるのだ。


 しかしここは階層主(フロアボス)として君臨していたこともありそんな常識は当てはまらない。なんせ下の階層へと行く階段とその周辺にはこれでもかというほどのヘンルーダが生えているのであった。

「これ全部抜いていこうよ。どうせ[魔法の鞄(ホールディングバッグ)]に入れてしまえば劣化しないし」

 そう提案したのは和花(のどか)である。ヘンルーダの石化防止の効果は食してから半日ほどなので通常は持ち帰れないのだ。また[石化中和剤アンチ・プトロフィーポーション]の材料にもなる。売ると結構高いのだ。


 半刻(一時間)ほど六人で頑張って抜きまくった。資金管理を任せているメイザン司教(ビショップ)が小躍りするであろう金額分にはなったはずだ。


 他に目ぼしいものが見つからなかったので僕らは下の階層へと進むことにした。



 ▲△▲△▲△▲△▲△▲


「これはまた分かりやすい地形だねぇ」

 階層に到着して開口一番そう言うのには理由がある。そこは切立った崖であった。上空は靄がかかっており何かが飛行しているのが薄っすらと見える。下を見ればいくつか棚台があるもののどこまで降りていけるのか底が見えない。


「どうする?」

 ここで健司(けんじ)がそう問うてきたのだが、ここで言うどうするとは漢らしく飛び降りて【落下制御フォーリング・コントロール】の魔術で安全に着地しようぜという提案なのである。


「でも下が必ずしも地面とは限らないのよ?」

 当然和花(のどか)からそんな意見が出る。【落下制御フォーリング・コントロール】は落下速度を自由落下の二倍から限りなくゼロまで間を自由に制御するだけの魔術だ。だが魔法とは言え急制動にはそれなりに肉体に負担がかかる。認識してから制動をかける合間に地面に激突という可能性もあるのだ。

 それに迷宮(アトラクション)がなんの対策をとっていないとは思えない。とりあえず僕は[魔法の鞄(ホールディングバッグ)]から投石紐(スリング)用の鉄弾(ブリッド)を一つ取り出し、それに対して【光源(ライト)】の魔術をかける。そして崖下にポイっと放る。


 程なくして上空から一羽の(アクィラエ)が急降下して光り輝く球を鋭い鉤爪で掴んで何処かへと去っていった。


「いまの(アクィラエ)ってずいぶん大きくなかった?」

 この面子の中では動体視力は凡人の和花(のどか)でもわかるくらいには大きかった。少なくても僕らの世界でのオオギワシ以上に巨大ではあった。


「これって下手をすると瑞穂(みずほ)ちゃんくらいならそのまま攫われちゃうんじゃない?」

「それを言うなら鉤爪で掴まれた段階で死亡もありうるよ」

 猛禽類の握力は半端ないし、あの鉤爪の鋭さはかなり危険だ。


 冗談抜きで人間って生物の間では雑魚過ぎるんだよねぇ。魔法の工芸品(アーティファクト)の防御効果と魔戦技(ストラグル・アーツ)で強化してれば即死は免れそうだけど…………。


一党(パーティー)を半分に分けて三人ずつ棚台に降りていこう。残った面子は上空警戒だ」


 そう提案して面子を分けることにした。


 先行する班は登攀(クライミング)の得意な瑞穂(みずほ)魔法の工芸品(アーティファクト)で最も防護が高い和花(のどか)、棚台で戦闘になった際に壁役として健司(けんじ)が行くことになった。


 先発隊が先に5サート(約20m)下の棚台に降りている間は残った面子は上空を警戒し敵性生物を発見次第迎撃である。もっとも間に合うのかという懸念はある。


 登攀用に用いる(ロープ)は[魔法の鞄(ホールディングバッグ)]のお陰で結構な長さはある。使うか疑問であったが登攀(クライミング)道具もそれなりの数は持ってきた。

 この時代には懸垂降下器などはなく身体に(ロープ)を巻きつけその摩擦を以て制動しているのだ。


 僕らは防衛軍のオジサンらが持ち込んだ最新式の物だ。勿論自動工場(ファブリカー)で複製品である。


 それぞれハーネスを装着して支点となるべき場所を探すが都合が良いものはなかったので【吸着(アドソープション)】の魔術を付与した神覇鉱(ヴァーラル)製のハーケンを地面に打ち込む。実験では1グラン(約1.2t)までは耐えられた。

 二本の(ロープ)を結んだあと片方を打ち込んだ支点に(ロープ)を通し末端を結んだ後に下へと垂らす。懸垂降下器を然るべき手順で取付安全を確認した後に残った面子は射撃武器を手に取り準備万端…………だと良いなぁ。


 念のためという事で瑞穂(みずほ)に【落下制御フォーリング・コントロール】をかけておくと告げると断られる。効果時間が一限(五分)しかない事と瑞穂(みずほ)自体が【飛行(フライト)】の魔術を体得したので不要との事であった。


 周囲に敵性生物が見当たらないことを確認し瑞穂(みずほ)が降下を開始した。


ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。

貴重なお時間を使って報告していただき感謝に堪えません。

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