511話 試練の迷宮⑤
なんとか11月31日に間に合った!
見た目は草食動物でも迷宮産の生物は基本的に侵入者に対して殺意マシマシである。
草をかき分け歩き始める事一限。徐々に草も短くなり視野も確保できるようになる。それはメリットでもありデメリットでもあった。
単独で徘徊していたやや大柄なメスの獅子に見つかってしまう。しかしダグが慣れた動作で羽根付き槍を構えると飛び掛かるタイミングに合わせて素早く刺突を繰り出す。その一撃は見事に喉元を貫く。自身の位置をずらし獅子の勢いと横へと逃がすと死に切れていない獅子にとどめの一撃を入れる。
随分と手慣れた作業のように思えた。
僕らの視線に気が付いたのかダグが一言。
「俺の部族は獅子を一人で倒せて一人前なのさ」
との事であった。
解体してみるとこいつには万能素子結晶があった。迷宮産の怪物で間違いない。
周囲を見回すと既に僕らの存在に気が付く怪物らがいる。象だ。象牙は迷宮産の象から採取できることもあり僕らの世界ほどには高価ではないがそこそこ売れるブツである。
生き物を狩るのはやや抵抗があるが迷宮産の怪物は自然の摂理に反した人工物という認識が働くのか抵抗が薄い。
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「今晩はここで野営しよう」
ご丁寧に太陽の位置も再現しているようで地平線に陽が沈もうとしていたので探索を打ち切ることにした。一般的な冒険者と違い僕らは野営の設営にあまり時間を割かないで済むのでこの時間までうろついていたのだ。
防犯魔術を周囲に施し簡単に食事を済ませて当番に分かれて見張りと睡眠に入る。流石に開けたところから暗がりに紛れて襲い掛かられると対処が難しい。この見晴らしが良すぎる広大なエリアをさっさと抜けたいものだ。
僕はこの階層の階層主が何かについてあれこれと思案していた。【幻影】で周囲と同化している事もあり近くに行くまでは判らないだろう。でも何の関連性もない怪物が選ばれるとは考えにくい。
「平原ねぇ…………」
精霊角灯の明かりを眺めつつ思わずそう零してしまう。
「階層主の正体の事を考えているの?」
今この場でその呟きに応えられるのは背中合わせで座っている和花である。
「うん。この面子なら余程の怪物でもなければ恐らく討伐は可能だろうけど出来れば被害は最小限で済ませたい。事前に予想出来れば楽かな…………と」
「そうだよねぇ。この区画だとやっぱり動物系かな?」
「鳥類とかが出てこなかったから飛行系はなさそうよね?」
「だといいね」
飛行系は相性が悪いから避けたいんだよね。上空から遠距離攻撃してくる敵は論外だけど、急降下攻撃してくる敵も結構攻撃が当たらなくて困る。
本音を言えば巨大など四足獣とかの巨獣も参る。近接戦はホントに体重が絶対ではないが正義ではある。
ここである生物の存在をカテゴリー違いとして除外してしまった。
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翌朝となり軽く食事を済ませると歩き始める。
歩き回るうちに気が付けば周囲の生物は駆逐し終わっており見渡す限りでは何もいない。
「あそこ」
唐突に瑞穂がある一角を指さす。
そちらに目を向けるも特に異常は感じない。ただ瑞穂の勘は滅多に外れない。何かあるという事だ。
取りあえず向かってみようとなり四半刻ほど歩いていくとパキリという小さな音ともに先頭を行く瑞穂が足元を見つめる。
僕らがそちらに視線を向けると灰色の草が砕け散っていた。
その時突然何もない場所からにゅっと何か巨大なものが出現すると瑞穂に襲い掛かる。
僕らは幻覚で作られた光景に騙されておりそいつの存在に気が付かなかったのだ。
一番最初に動いたのはダグであった。側にいた瑞穂を思いっきり蹴飛ばし怪物からの攻撃を回避させると代わりに自らがその攻撃を受ける。
大型の生物の上からの攻撃をもろに受け地面に叩きつけられたダグを見て相手の正体を察した。
「鶏蜥蜴か!」
その嘴に石化の力を宿した魔獣である。みるみるとダグが石化していく。やつの石化の力は強力だ。鳥系の怪物であるが飛べない事で完全に意識の端に追い出していたのだ。
慌てて健司が三日月斧を振るが僅かに羽毛を散らせただけで回避されてしまう。巨体の割りに動きが速い。
ミニバンより巨大な鶏型の怪物とか普通に怖い。
上から振り下ろされる嘴に注意しつつ尻尾の蛇や歩肢の鉤爪にも注意を払わなければならない。
起き上がった瑞穂が歩肢に斬りつけるがよく切れるとはいえ小剣では上っ面しか切れない。
石化の解除にアルマが動こうとしているが流石に彼女を鶏蜥蜴の足元まで行かせるのは危険だ。石化の力以前に嘴による負傷で大けが確定である。
ダグはそれなりの防具で固めていたからこそ負傷の度合いは浅かったのだ。
「綴る、八大、第三階梯、攻の位、閃光、電撃、紫電、稲妻、発動。【電撃】」
足元に石化しつつあるダグが転がっているので使える攻撃魔術に大きな制約を受ける中で僕が選択したのは【電撃】であった。選択した理由は回避されにくくほどほどに殺傷力も高いからである。
紫電が鶏蜥蜴を貫き焦げ臭い匂いが漂う。【電撃】を喰らった直後に僅かに身体が硬直した見逃すほど健司も間抜けではない。大振りの一撃を鶏蜥蜴に叩き込むが致命傷にはなりえなかった。標準サイズの鶏蜥蜴より大きい事もあり打たれ強いのだ。
勝敗の決定打は和花であった。
「森乙女よ。その怪物を抱きしめてあげて。【蔦絡み】」
和花の願いを受諾した精霊が働きかけると周囲の草が伸び始め鶏蜥蜴に絡みつきだし動きを鈍くさせる。完全な拘束とはいかないが十分であった。
ここぞとばかりに健司が大きな一撃を喰らわせる。だが一度や二度の攻撃ではこの巨体は沈まない。
拘束していると言っても油断していると嘴の石化の力で石化するリスクはまだあるのだ。
足元では瑞穂が小剣で深々と刺しているが効いているが致命的な傷にはなりえていない。
僕も片手半剣で首を斬りつけるが角度が悪いのか太い首を一刀両断とはいかない。
だが出血を強いており討伐は時間の問題であった。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。
貴重なお時間を使って報告していただき感謝に堪えません。
11月よ! 俺を置いていくな!
いや、長さ作業の仕事で上流側がヘタこいてくれたうちの会社はブラック労働なわけですが、なんとか今年中にはこの章を終わらたい。
今年こそは正月休みを満喫したい!




