509話 1階層のボス部屋戦
2023-11-24 ちょっと文面を修正
三日目の朝は即座に階層主が居るであろうと思われる巨大な扉の前へと移動した。そうは言ってもここに到着する間にも連戦を強いられやや疲れが見える。
巨大な扉はドアノブがなく恐らく触れたら勝手に開くタイプだと思われる。試しに10フィート棒で触れてみたけど無機物ではどうもダメらしい。
ただ粘土状疑似生命体ではない事だけは分かった。
扉に触れようとした時、唐突に健司がこんな疑問を口にした。
「長年誰も入らなかったんだよな? これまで吸収した万能素子はどうなったと思う?」
それは僕も考えていた。他の迷宮は都市だったり研究施設だったりしたのでそれなりに維持にコストがかかるのだけどここはそれがない。外とも直接つながっていないので内部で生み出された怪物が野良となる事もない。ではどこで万能素子は使われている?
「階層主にコストを割いてるのかな?」
思わずそう呟いていた。
「そうなると気を引き締めていかないと俺ら死ぬかもな。ここから住人が居なくなって少なく見積もっても10世紀は経過してるわけじゃん」
健司のいう少なく見積もってもの根拠は僕らが拠点として使っている港湾領都ルードの事である。破損状況とか家具などからそう推察したに過ぎない。
「他を攻略してから改めて大勢で攻略する? その場合は使える万能素子が増えることになるからさらに難易度上ると思うけど?」
和花がそう言って入った入ったと身振りで示す。
確かに悩んでいても事態は好転し無さそうである。覚悟を決めて扉に触れた。
巨大な金属の両開き扉がゆっくりと内側へと開いていく。それに伴って室内に明かりが灯っていく。室内の大きさは1080スクーナおよそサッカーコート一面分だ。中には誰も居ない。たぶん僕らが入らないと現れないのだろう。覚悟を決めて室内へと踏む込む。
六人が入り終えると扉がゆっくりと閉じ始めた。そして完全に閉じるとようやく階層主の正体が明らかになる。
「赤肌鬼一家か…………」
12.5サートほど離れた位置に特徴的な赤褐色の肌をした子供、所謂赤肌鬼が50匹ほど平均的な七年生くらいの体躯の赤肌鬼が10匹ほどいる。側に巨大な狼に跨った赤肌鬼が15匹。さらに奥に小柄な男性位の体躯の赤肌鬼が2匹という内訳だ。
装備などから奥の体躯が良いのは先祖返りの赤肌鬼王種と赤肌鬼英雄だろう。
その手前の体躯が大きいのは恐らく田舎者赤肌鬼である。残りの標準的な赤肌鬼サイズは装備から赤肌鬼呪術師と赤肌鬼闇司祭が2匹ずつ、赤肌鬼弓手が10匹。赤肌鬼騎兵が15匹とあとの36匹は特定はできない。総勢77匹と15頭の大所帯であった。
「これ地味にきつくないか?」
開けた場所なので赤肌鬼お得意の奇襲などは使えないが、どこかの中将も言っていたが戦いは数である。こいつらがそれぞれ互いを出し抜き無秩序のように動くが何故かそれが絶妙な連帯となる。支配種が居る時点でこいつらは間違いなく知恵が回る。
僕はすぐさま各自に指示を飛ばす。
健司とダグが間隔をあけて走り出す。攻撃範囲の広い彼らには敵を倒しつつ多くの敵を引き付けてもらう事になる。そして瑞穂には機械式連弩で前衛を抜けてきた赤肌鬼を足止めしてもらう。
アルマは負傷者が出た場合は即座に回復と手が空いたら投石紐で牽制してもらう。和花には迂回して接近してくる赤肌鬼騎兵の対処をしてもらう事になる。方法は任せた!
僕はと言えば迂回して接近してくる10匹の山刀を持つ赤肌鬼を迎え撃つ。
そいつらは厄介なことに我流で体得したのか明らかに雑魚とは違う動きをしていた。組合の分類では赤肌鬼剣士と呼称され見た目は普通の赤肌鬼と大差ないので油断しないようにと言われている存在である。
数が多いので相手のペースで戦うのは危険である。まずはこちらから攻めて僕のペースに持ち込む。先頭の一匹目に対して歩法の【八間】で飛び込みつつその勢いそのままで切り払う。[飃雷剣術]の奥義【一閃】である。先頭を走る赤肌鬼剣士の首が宙を舞い床に落ちるころには僕の二振り目が別の赤肌鬼剣士の利き手を切り飛ばしていた。多対一の場合は刺突はダメだ。動きを止められてしまうからだ。とにかく動いて動いてその過程で標的に切裂いていく。相手は軽装なので致命傷はいらない。ゲームと違ってそこそこの傷で一気に戦闘力は落ちる。
【疾脚】と呼ばれる体重移動を前進エネルギーとして活かす歩法を用いて巧みに集団の中を動き回りすれ違いざまに斬りつけていく。時に同士討ちを誘う・一限も経たずして10匹の赤肌鬼剣士は血まみれで床に伏していた。
余裕が出来たので周囲を確認すると赤肌鬼騎兵は和花の【爆裂】で大半が吹き飛び残った数匹は個別に放たれた【魔法の矢】によって仕留められた。ちょっと呪的資源を使いすぎな気もするが無事なのでよし。
瑞穂は前衛を抜けてきた赤肌鬼を機械式連弩で的確に処理し弾倉の太矢が尽きると小剣に持ち替えると細かい傷が増えていくダグの治療のために移動を始めたアルマをよく守り前線へと導く。
最前線の二人は苦戦していた。健司は青白い魔力のオーラが棚引く大剣を振り回す赤肌鬼英雄と数合打ち合いつつこそこそと襲い掛かってくる赤肌鬼の処理をしていた。非力な赤肌鬼の一撃では健司の纏う全身甲冑を抜ける事がなくほぼ効果がないと分かると支配種は側に控えていた赤肌鬼呪術師に精霊魔法で援護するように指示する。
物理的には堅牢な健司の全身甲冑も魔法にはそれほど大きな防御力は発揮せずじわじわと削られていく。健司が処理しきれなくなった赤肌鬼は二手に分かれた。一方は瑞穂に処理されたがもう一方はダグへと襲い掛かったのである。
羽根付き槍の間合いは長く振り回せば鈍器にもなる槍は一対一であれば厄介であったが多対一では事情が変わる。
漫画のように数体同時になどは余程のことがなければ上手くいかず一匹を処理しているうちに別の個体に襲われる。健司の全身甲冑に比べるとやや軽装なダグの板金鎧では完全に防護できずじわじわと傷が増えていった。
更に運の悪い事に支配種の指示によって負傷した赤肌鬼たちは治療され半端な一撃では程なくして戦線に戻ってきてしまうのだ。
それもアルマらが到着した事で好転する。
まず赤肌鬼は瑞穂が素早い立ち回りで処理して回りアルマがダグを治療する。【神格降臨】を2度も成功させた彼女と木っ端聖職者の赤肌鬼闇司祭では勝負にもならず程なくして地に伏した。
ダグは完全に回復すると支配種を黙らせるために前進する。
健司の方もアルマの奇跡によって精霊魔法による負傷は癒え本格的に赤肌鬼英雄と撃ち合い始める。数度の打ち合いで体躯に勝る健司が徐々に優位に立ち始める。
そして裂ぱくの気合と共に放たれた天の位から放たれた完璧に近い形の【斬破】が赤肌鬼英雄の防御を掻い潜り真っ二つにしたのであった。
最後までしぶとく生き残っていた支配種はそれなりに強かった一対一なら精々が銅等級に認定される戦士くらいである。フリューゲル師の指導の下で鍛えなおしたダグにかなう筈もなく接近を許される事なく血だらけとなって倒れたのであった。
赤肌鬼弓手は初っ端で瑞穂の機械式連弩で倒されているし田舎者赤肌鬼は中途半端に強い事が仇となって健司やダグによって真っ先に処理されていた。
赤肌鬼呪術師?
僕の【電撃】で倒しました。
正味二限ほどの攻防であった。
全ての敵を倒すと奥の壁に扉が出現しゆっくりと開いていくのであった。
今の仕事状況だと一週間に一話更新が限界かな?
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。
貴重なお時間を使って報告していただき感謝に堪えません。




