508話 試練の迷宮③
食事が終わりこれから四刻判を三交代で睡眠をとる事になる。とりあえず近接戦と警戒が出来る僕、瑞穂、ダグはそれぞれ別のチームとなる。
早番は厳選な抽選により僕と和花となった。恐らく配慮してくれたのだろう。心の中で感謝しておく。
先ずは各班の進捗を確認するために本部の残っている通信魔術師のトーラス氏に【遠話】を行う手筈になっている。
それぞれの進捗は流石に初日という事で様子見感が強かった。
本来であれば遠話器を作成して各自で連絡を取り合いたかったのだけど最重要アイテムである魔光石の原石が間に合わなかったのである。
いや、正確には50ディゴの原石が一つ手に入ったのだけど厳選なる抽選によりハーンに分捕られたのである。主人としての権限で強制的に取り上げる事も出来たけど不満は思わぬところで手痛いしっぺ返しを受けると思い諦めたのだ。
「どうだった?」
連絡が終えたタイミングで和花が声をかけてきた。
「流石に初日から大事になるようなことはなかったよ」
「それもそうね。…………ところで気にならない?」
その問いには主語が抜けているが流石に付き合いが長いのでナニかは理解できた。
「不自然なくらい襲撃がピタリと止まったね」
「うん。私たちが休息に入った途端に襲撃がピタリと止んだよね」
「確かにね」
「私はこう考えたのだけど樹くんの意見を聞かせて」
そう言って和花が話し始める。
それは迷宮のの怪物たちは僕らの移動に合わせて一定周期で位置情報が更新されて襲撃を命じられているのではないのかと言うのであった。止まった場合はロストするというものであった。
どの程度の間隔で位置情報を取得しているかはわからないけど今わかるのは思ったほど感度が高くないという事だ。
休憩中とはいっても少なからず動いているからだ。ただその考えには一部不自然なケースがある。敵の中に知能があるような存在が居る事だ。
「それは樹くんが予想したようにここで自我が芽生えて世代交代したんじゃないのかな?」
和花の考えも僕と大差ないようである。
陛下から聞いた話では迷宮主は間違いなく死亡しているとの事だけど、迷宮はほぼ等しく万能素子を使用しているとの事だ。この迷宮は閉鎖された空間であり生産された怪物は外部に放出できない。奴らは互いを敵として同士討ちをしているかとも考えたもののそれにしては遭遇率が高すぎる。
憶測に憶測を重ねた妄言に近い考えなのでまだ口にするつもりはないが嫌な予感しかしない。
静かすぎる迷宮内で背中合わせのまま取り留めのない会話を続ける。大半は十字路都市テントスの活動拠点で事務作業をしていた和花の愚痴だ。
共同体の知名度に肖り楽して稼ぎたい茶鉄等級や白磁等級の子らの厚かましさにかなり辟易しているようであった。
中には結婚相手の候補を見繕う為に共同体に所属したい娘らもおり、そういう娘等はとにかくしつこく訪ねてくる。こっちの世界では女性は早めに稼げる男と結婚するのがステータスみたいなところがある。それなのでしつこく訪ねてくる娘らの心理は判らなくないけど、正直って邪魔だなぁ。
一刻半の早番の見張りが終了すると中番の見張りと交代して僕らも寝る。すぐに寝れるのも冒険者には必須スキルである。ぼくらはこのまま朝まで三刻寝られる。
面倒なのはローテンションで回ってくる明日の中番だ。一刻半寝て起こされて一刻半見張りをしてから再び一刻半寝るのである。
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結局夜間は襲撃がなかった。これは夜はゆっくりできるのではなどと思ったけど期待はその日のうちに打ち破られた。
二日目の報告を行い地図を確認する。七割くらい埋まり妙に巨大な部屋があることが分かった。間違いなく階層主だろう。
ゲーム脳的に地図をすべて埋めてから攻略したいと思わなくないが女性陣から反対意見が出て翌朝一番に攻略する事となった。
そうして睡眠に入って程なくして【警報】によって叩き起こされた。
お客さんの正体は赤肌鬼と田舎者赤肌鬼の混成部隊であった。
二日目の早番は昨夜は遅番であったダグとアルマである。混成部隊の数は一個分隊程であり睡眠を妨げられた和花の【火球】にて一掃された。
その後も夜半まで落ち着いたころに襲撃があり朝になった頃には結構疲れていた。もしかすると徐々に睡眠時間を妨害してくるように指示しているのだろうか?
意地が悪すぎる。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。
貴重なお時間を使って報告していただき感謝に堪えません。
書いては消して書いては消してが続いて気が付けば10月更新に間に合わなかった。
ストックもないしこれは大変マズい。




