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507話 試練の迷宮②

「よし、まっすぐ進もう」

 そう号令をかけたもはいいけど肝心の瑞穂(みずほ)が動かない。何かを気にしているようで(しき)りに周囲を見回している。


 変化は突然であった。

 瑞穂(みずほ)が突然小剣(ショートソード)を閃かせ横っ飛びに移動したのだ。そして石の通路に落ちる触手のような物体。


 それと同時に上から無数の触手状のものが降るように襲い掛かってきた。その正体は天井擬態型(シーリング・)粘土状疑似生命体イミテーターであった。不意打ちさえ回避できれば恐ろしい敵ではない。程なくして撃退した。

 そして今度こそまっすぐ進む。



 ▲△▲△▲△▲△▲△▲



 その後は平均すると二限(一〇分)くらいの間隔で敵の襲撃を受けた。戦闘と万能素子結晶(マナ・クリスタル)の採取が終わって一息ついて歩き出すと程なくして敵と遭遇するといった感じである。微妙に休憩時間が取れないその間隔が徐々に僕らの心身に多大な負荷をかけていく。

 そんな中で何度目かの赤肌鬼(ゴブリン)襲撃を撃退して思ったのだ。こいつらは知恵があるぞと。迷宮(アトラクション)産で生み出された怪物らは侵入者を殺すという本能に忠実なだけあってか小細工は全く行わない。例えば迷宮(アトラクション)産の赤肌鬼(ゴブリン)であれば武器を振り上げて突っ込んでくるだけの存在である。

 まだ憶測の域を出ないけど迷宮(アトラクション)で世代交代を繰り返して知恵をつけたのだろうか? そうなると厄介極まりない。


 何度だって言ってやるが集団の赤肌鬼(ゴブリン)は決して雑魚ではない。油断すれば銅等級(第五階梯)くらいの冒険者(エーベンターリア)とかでも敗北するのである。


 入り組んでいるが単調な通路であるが暗がりからの不意打ちや挟撃を何度か仕掛けられた事もあり半日以上こんな作業を繰り返していると流石に疲労の蓄積が限界に近付きつつある。

 呪的資源(リソース)こそ減っていないものの本格的な休憩が欲しいという状態である。だが誰もその一言を口にしない。なんというか言ったら負けみたいな同調圧力的な雰囲気である。



 そんな雰囲気のまま更に一刻(二時間)が過ぎ去る。



「それにしても延々と入り組んだ通路だけでいい加減飽きてきたし、流石に疲れもするわね」

 迷宮(アトラクション)に突入して五刻(一〇時間)が経過した頃だろうか、みんな同じことを思っていた事だろう事をとうとう和花(のどか)が口にしてしまった。

 そうなると皆の意識は休息へと傾く。恐らく狙って言ったのだろう。

「昼食も抜いてしまったしそろそろお腹も空いたわね」

 和花(のどか)の意図を汲んだのかそれに便乗したのがアルマであった。お腹をさすりつつそんな事を宣う。

 そうなると戦闘の大半を担っていた健司(けんじ)とダグも同意する。

 いつの間にか僕らの歩みは止まっていた。


 先頭を往く瑞穂(みずほ)が振り返り『どうするの?』と言った表情(かお)で指示を待っている。


「初日から無理をしても仕方ないね。どこかいい場所で休憩しよう」

 そう宣言してこれまでメモっていた地図に視線を移す。この迷宮は結構広く現在分かっているだけで一辺が1サーグ(約4km)ほどある。挟撃などを避けるためにどこか近場で行き止まりの通路はないかと探すものの都合よく見つかるものではなかった。


「もうここでいいんじゃね?」

 そう言って健司(けんじ)背嚢(バックパック)を降してしまった。それで完全に休憩モードに入り各々(おのおの)が腰を下ろし寛ぎだす。

 流石に無防備すぎるので僕は[魔法の鞄(ホールディングバッグ)]から触媒を出すと少し離れた場所に防犯魔術である【雷鎖網(ショックアレスト)】と【警報(テルスオレム)】を設置する。


 休憩場所から7.5サート(約30m)ほどの距離だが、【光源(ライト)】の明かりは届かないので少しでも早めに敵性生物の存在を感知できるので無いよりマシである。


 設置を終えて戻ってくると驚いた事に携帯コンロを出して和花(のどか)が夕飯を作っていたのである。一応冒険者(エーベンターリア)たるもの最低限の料理くらいはできるべきとは言われている。何が驚いたかって料理をしているのが和花(のどか)だからだ。たまに忘れるけど元々はこの世界風に言えば公爵令嬢くらいに相当する生粋のお嬢様である。雑事は下々のやることで彼らの仕事を奪うべきではないとか言えちゃう立場のだ。


 野菜を切る手並みなどとても一昼夜で身に着けたものではないレベルで巧みだ。だいたいの事は知っているつもりであったけどまだまだ知らない事があったようだ。


 八半刻(一五分)ほどして並べられたものは堅焼きの半ライ麦パン(ラグレルリーブ)肉野菜炒めラズギュームズフリッツ味噌汁(ミソ・パルメンティ)であった。味噌は日本(やまと)皇国由来らしい。それまではなかったそうだ。出汁(スタープ)は旅行者向けの顆粒(グラナラァ)を使っているけど。


 全員で一斉にとはいかなかったけど先に男性陣が食べる事になった。健司(けんじ)などは最初は疑っていたけど火加減や味付けなどこの世界レベルで見ればお店で出しても普通に売れるレベルであった。元の世界だと家庭料理レベルだったけど。グルメではないので全く不満はない。

 それで僕や健司(けんじ)などが調理すると残飯よりマシかなというレベルなのでし冒険者(エーベンターリア)だとそれが普通レベルである。酷いと火を通して塩で適当に味付けすれば料理と言い張る猛者もいるくらいだ。


 食べ終わり率直な感想と感謝を伝えて警戒に当たる。珍しく頬を赤らめて照れていたのが印象的であった。

ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。

貴重なお時間を使って報告していただき感謝に堪えません。


罪《積み》は増えるし仕事は理不尽だし困ったものです。業界の悪い所が見事に出てしまっている感じだ。計画通りに進まなくて最終納期ギリギリになって慌てふためいて処理する事になってブラック業務と化すパターンですね。

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