500話
「もしかして佐藤君って恩恵持ちかしら?」
黄金の勇者をしばいて拘束し佐藤君らの治療を行って戻ってきたら執務室に和花が居たので掻い摘んで説明したのである。
「確かに死の淵を彷徨ったので条件は満たしているね。だとすると何の恩恵だろ?」
「悪運じゃない?」
僕が考え込む前に和花が答えを言ってしまった。言われてみればその可能性が高い。
創作物で言うところのトラブル体質というやつだ。ただこの恩恵。トラブルを引き寄せる反面、乗り越えると幸運に恵まれるという副作用がある。
その後は事務処理と共同体構成員らの現状の視察などを行い気が付けば夕飯時であった。
「なんか鍛錬と雑多な事で一日が過ぎ去ってる気がするなぁ」
「過ぎ去っている気がするじゃなくて、過ぎ去っているのよ。もう少し私の事を構ってもいいのよ?」
冗談めかして和花がそんな事を言うが確かにゆっくりと過ごす時間が皆無となっている。
やはり全部放って逃げるべきだろうか?
「そうそう。実は最近料理とか裁縫を習い始めたのよ」
思考の海に没する前に和花が唐突にそう言って引き留めて来た。
「どういう風の吹き回し?」
世が世ならというか元の世界では性格が砕けすぎているせいか疑う者も多いが超が付くお嬢様なんだよね。
「なかなかに失礼な…………」
そう言って頬を膨らませつつ話を続ける。
「樹くんが何時逃げ出しても良いように最低限取得しておこうかと思ってね。そろそろ面倒になって全てを放って逃げ出したいんでしょ?」
読まれてしまっていた。
「確かにね。本来の目的から大きくそれた生活をしているのは間違いないよ。でも僕を頼って集まって人達を面倒だからと言って途中で投げるわけにはいかないかな」
「それなら早く片付けられるように私ももっと手伝わないとなぁ」
そう言ってくれているが和花だって事務仕事や交渉事など多岐にわたって手伝ってくれているしこれ以上はねぇ…………。
「専門家を雇うか…………」
うちの共同体は戦闘以外は素人に学習させて数年後に使えるようにあえて猶予期間の子らを多く用いている。教師役と実働部隊に専門性の高い人員が少ないのが現状だ。
例の島では安定して暮らしていくには一次産業従事者を必要としていてそれらの人員が足りていない。
TV番組で見た程度の知識だけでは流石に無理がある。ただ安易に東方の難民を使うかとはならない。彼らのやり方は古臭く生産性が悪いからだ。しかも頑迷で迷信深く環境の変化への適応力も低く新しいものを受け入れられない土壌もある。いつまでたっても変化のない街並みとか見ているとそう思う。
考えても埒が明かない。その時くぅぅぅとお腹が鳴る。ちなみに僕ではない。
「たまには外食しようか?」
考えを打ち切って和花を誘う。
「そうね。たまには高級食堂とか行きたいわね」
少し頬が赤いが声音は平静を装っている。僕は何も聞こえなかった。
その日の食事は結構な金額であったが偶にであれば許されるであろう。その後普通に戻ってきて仕事を始めるあたりが僕と健司の大きな違いであろう。
奴なら絶対に美味しく頂いて朝帰りだ。
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