幕間-51 召喚された者のその後⑯
今回で終わりと言ったな。あれは嘘だ。
というのが嘘で長くなったけど一話掲載とした。
そして戦利品である。
彼らの装備が魔法の工芸品との事で俺の目の前に金ぴかの全身甲冑と豪華な片手半剣と大剣と手甲鉤の他にレオタードっぽい衣装とビキニアーマーが並べられた。
他の装備などは普通の装備だったので処分価格で引き取ってもらったのだ。魔法の工芸品の装備はある程度は着用者にフィットするらしく恐らく我々が装備してもフィットしそうではある。
「貰う?」
振り返ってオリヴィエとクロニーに問うと露骨にイヤそうな顔をされる。普通の感性であればビキニアーマーとかレオタード風の防具とか着ないですよねぇ。
俺も金ぴか全身甲冑は趣味ではなかったので豪奢な片手半剣だけ頂戴して残りは十字路都市テントスで売却する事にした。
これで子供らの奴隷契約解除の資金の足しになればいいな。
これらの手続きで一日余計に経過してしまった。まだ間に合うという事でゆっくり休んで翌朝に出発した。
宿場町を出て二日たった昼時の事だ。
「陽翔様。前方に人影が」
そう言って御者のクロニーが指さすが俺にはなんも見えない。
「ごめん。見えない。状況を説明して」
「黒髪の中年の男性が、…………あれは奴隷かな? 黒髪の若い女性を二人を縄で手首を縛って引っ張っています」
黒髪…………。基本的に黒髪は別に珍しくない。なぜか欧風異世界だと金髪がデフォだと自分でも考えていたけど、実際のところ金髪は劣性遺伝なんで実は少数派である。だからこそ北方民族の金髪碧眼って憧れらしい。なので髪の色で人種の特定は難しい。
「他には?」
追加の情報が欲しくてさらに観察するように問うクロニーは暫く観察すると、
「右手に何か黒っぽい…………杖? 違うな…………なんだろう。何か持っています」
流石にまだ距離があり判別できないようであった。嫌な予感がするけど近づくしかない。そのまま進むように指示するとともに車内のオリヴィエに戦闘準備をするように指示する。
程なくして車内から出てきたオリヴィエに天井で射撃姿勢で待機するように言って待つ。
ようやく俺にも街道のど真ん中に中年の男が立っているのが見えた。そして右手に持っているモノの正体も。
着ている服はこっちの世界で普通に農民が着ているような襯衣と脚衣だが持っているモノがマズかった。小銃である。
「止まれ!」
男はまだ距離が12.5サートほど距離があるが銃剣付の小銃の銃口をこちらに向け日本語で叫んでいる。
これって高屋君が言っていた傍迷惑な何処かの世界線の日本人か!
恐らく脱走兵だろう?
「クロニー。止まって」
素人じゃあるまいしあの距離から普通に当てる事が出来ると思うしここは大人しく止まるとしよう。クロニーが無言で肯首し手綱を操作する。俺はと言えば御者台で立ち上がる。天井で寝そべり射撃の体勢で待機するオリヴィエを隠す為だ。
程なくして甲竜が足を止める。男までの距離は7.5サートくらいに縮まっていた。まだ数発は撃たれそうな距離である。
そう言えば高屋君も言っていたけど銃相手じゃ剣や魔法なんて雑魚だよって…………。
まったく最後の最後でこんな面倒事に…………。
「お前は俺のいう事が理解できるのか?」
男はそう叫んでいる。俺は大きく肯首する。
「その馬車を寄こせ。いや、俺たちをこれから言うところに運べ」
「分かったから撃たないでくれ!」
俺はそう言って両手を上げる。とりあえず背後のオリヴィエには気が付いていないようだ。
そして距離が3.75サートまで近づいた時だ。
突然連行されていた女の子が男に体当たりして腰にしがみついたのだ。その勇気には感服したが甲竜は急発進は出来ないのだよ!
「この女!」
男が叫ぶと左肘を後頭部に叩き落すと女の子は崩れ落ちる。だがその瞬間に俺は御者台から飛び降りていた。そして賢いオリヴィエは射線が通った瞬間引金を引いており太矢は男の左肩に深々と突き刺さる。
「貴様ら!」
男が叫び右手の小銃を接近する俺に向ける。その間に片手半剣は抜いていた。銃口が俺に向き発砲音がした瞬間には俺に付与された一流の戦士としての技量が初弾を切り払っていた。そして跳ね上がった銃口が戻る前に距離にして0.5サートまで近づいており迷うことなく片手半剣を体当たりする勢いで胸に突き刺す。
肉を割き肋骨を断つ嫌な感触が手に伝わる。
だが男は最後の足掻きか小銃を落とし腰の短剣に手をかけ、それを抜いたところでようやく力尽きて崩れ落ちる。
「あっぶねぇ」
高屋君から聞いていた。戦闘状態に入ると心臓一突きでは即死しないと。意外と動けるので注意するようにと。即死狙いなら頸椎か脳髄の破壊であると。
倒れた女の子の状態も気になるが先ずは振り返ってオリヴィエに感謝の意を伝える。こちらの意図を汲んでくれてマジで助かったわ。
それから片手半剣を鞘に戻し男の小銃を回収してクロニーに預ける。
そして二人の女の子の様子を見る。
ひとりは倒れている。もう一人は腰を抜かしていた。そこへオリヴィエが緊急用に購入した軽傷回復薬を持ってきた。金貨1枚と高価であったがこういう時に使わずいつ使う!
それを迷わず頭にぶっかける。
程なくして意識を失っていた女の子が目を覚ました。彼女の勇気ある行動のお陰で何とか倒せたので感謝を伝えると、彼女もここが助かるチャンスだと思っての行動だったそうだ。
もう一人の方も落ち着いたようでここで互いに自己紹介しあう。
女の子ら俺とは違う世界線の日本から来たとの事。彼女たちは過去にもこの世界に強制召喚で呼びだされており折角帰還したと思ったら現地に詳しいだろうという理由で再び軍隊と共にこっちの世界に渡ってきたと言う。
渡ったものの屍人の集団やら黒い獣の襲撃によって帰還が出来なくなり近くにいた軍人と脱出したそうだ。軍人らは野盗と化して荒らしまわっていたけどつい先日弾薬が尽きたところを襲撃され壊滅したのだそうだ。
その際にここに倒れている男に拉致られるように連れ出され今に至るという。
彼女たちは馬鹿七海と言う公用交易語がネイティブレベルに使える子と東雲天音というこっちの世界で信仰に目覚めちゃった聖職者であった。
彼女たちは逃走の資金とするべく鑑賞奴隷として売り払われようとしていた。元の世界ではいざ知れずこっちでは自由民扱いなので普通に売買されてしまう。
取りあえず大きな町まで送ると言ったら十字路都市テントスに知人がいるのでそこまで送って欲しいと言い出した。
目的地が同じだし糧食も十分にある。
俺は男の遺体を荷台に載せると彼女たちを車内へと招いた。あとは男を野盗として突き出し報酬をもらって終わりなはずだ。
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突き出した男の遺体の確認作業で一日余計に時間を取られたが討伐したという事で報奨金が金貨5枚支払われた。男が持っていた装備は残念ながら国の権限で取り上げられてしまった。
もっとも弾薬もほとんど残っていなかったので不要と言えば不要であった。
そして今度こそ何の障害もなく地平線の先に十字路都市テントスの巨大な市壁が見えて来たのである。
予定より遅くなったけど期日には間に合った。
そして何事もなく門で入都手続きを済まし謹厳実直の拠点へと向かう。入り口から大通り沿いに北へ2.5サーグほどだという。
途中で魔導列車なるものの駅舎を通過したが肝心の魔導列車はお目に掛かれなかった。運航ダイヤは日本ほど過密ではないそうだ。残念。
そして一刻ほどして巨大な敷地の謹厳実直の拠点に到着した。
入り口にひとり出迎えの人が出ていた。
「あっ…………」
その人物を見て思わず声が漏れる。待ち人もこちらに気が付いたのか手を振っている。
「何とか間に合ったね。僕が謹厳実直のまとめ役の高屋樹だ。以後宜しく」
この野郎ぉぉぉぉぉ。
全部知ってやがったのか!
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。
次回の投稿は仕事の合間に書きかけ分を処理しつつ月末までにちょこっと投稿する予定。
ちょっと仕事が押しているのです。




