幕間-50 召喚された者のその後⑮
迂回路を進んで三日が過ぎ去っていた。俺らは現在隊商から離れて移動している。原因は運用方法の違いである。
隊商は警護に騎兵を用いており輓馬の数も多く2ノードくらいの速度で移動する。
そして宿場町ごとに輓馬を新しいのに交換する。これによって馬の体力回復を待たずにハイペースで移動できるのである。馬は通常は一刻毎に休息を必要とし一日の行動時間も四刻くらいである。更に完全休養日というものを挟んで運用する。酷使すると割とあっさり潰れてしまうのだ。故に資金のある商人や乗合馬車などは固有の馬を持たずに宿場町ごとに馬を交換する事で移動距離を伸ばすようにしている。
対して甲竜はある程度に荷を引いたまま休息を取らずに1.5ノードで歩き続ける事が出来る。俺らは宿場町間の移動を一刻半弱で移動するのに対して隊商は一刻で移動していたのだ。
現在は鈍竜に超大型荷馬車曳かせた一行が同行している。その一行は褐色の肌に真っ白な纏布を巻いた軽装の戦士団が率いている大所帯である。彼らは護衛に疾竜を駆っており黒い獣も野盗も豚鬼や赤肌鬼に至るまであっさり蹴散らしていた。手にする武器自体も機械式弩を使用している。
オリヴィエの話だと砂漠の民ではないかというけど、それにしては装備が高級品過ぎると口にしていた。
楽をさせてもらいつつ更に三日が過ぎた。ここで推定砂漠の民の面子とは別れた。彼らは仕入れの都合で一旦南に進路を取ってから十字路都市テントスへと向かうそうだ。
俺らも戦場を迂回した事もあり結構時間のロスをしてしまったので彼らに便乗して南回りで移動すると約束の期日に間に合わないのだ。
本日はこのやや大きめのロンドと言う都市で一泊して行こうと決めた。
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オリヴィエが調子が悪いという事であった。本人の申告ではなく宿屋の女将からの言伝である。
昨日まではそんな予兆すらなかったのにと思ったいたら、「これだから男は…………」怒られてしまった。
あれである。月のものだ。初めてだったらしいのだがかなり重いらしく数日はダメかもとの事であった。
真面目なオリヴィエの事だから申し訳ないとか思っている事だろう。とりあえず女将に聞いた薬を買いに出かけるついでに果物でも買って帰ろうかと思う。
二日後にオリヴィエの体調も戻ったようだ。彼女は予定を遅らせてしまった事を深々と詫びてきたけど俺としては配慮できなかった事を逆に詫びたいし生理現象で怒るとか鬼畜の所業だろうと思うと返す。その後はふたりして言葉に詰まっていると空気を読んだクロニーが、「頑張って遅れを取り戻しましょう」と意気込んでいる。
ま、最終手段として徹夜で甲竜を歩かせればいいだけだ。まだ間に合う。
そして町を出て四日目。
夏の後月の後週に入ってしまった。だが十字路都市テントスまで直線距離で75サーグあたりだ。この辺りは平坦な道も多く街道沿いに移動したとしても7日あれば到着する。黒い獣にこそ襲われるものの野盗には遭遇しなかった。
一つ気になったことがあった。クロニーはものすごく視力が良く地平線沿いに疾竜に跨った人がこちらを見ていると報告してきたことがあった。御者台の位置から鑑みて軽く1.5サーグ以上離れていた筈である。
分かれた彼らだろうか? まさか俺らを気にかけてくれており、こっそり部下の一人を付かず離れずつけてくれているんだろうか? 流石にそれは考えすぎか?
特に異常もなく食料の補給に立ち寄った宿場町でこんな噂を拾った。
野盗に地方領主の騎士団が壊滅させられたという話だ。高屋君の話が事実なら勝てる訳ないよなと思う。王太子直属の騎士団とやらはどうなったのだろうか?
もう一つは自称黄金の勇者一行のうち、魔法少女コス女と痴女聖職者コスの女が捕縛されたという。巨漢の男は仲間を逃がすための盾となり死亡したそうだ。
自称黄金の勇者の生き残りの賞金額が吊り上がり三人で金貨100枚となっていた。逃亡中に強盗殺人を何件かやらかしたらしい。
彼らと戦闘を行った者の証言もありなんでも『こんなクソゲーやってられるか!』などと意味不明な事を叫んでいたという。日本語で叫んでいるから確かに意味は通じないだろう。
あいつらにとってはこの世界はVRMMOゲームなのだろうか単に現実逃避かな? 普通に考えてフルダイブVRMMOとか無理だと思うんだけどなぁ。
取りあえず関わりたくない。
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なんと思っていたら目の前に縄で縛られた金ぴか男一行が転がっている。
それは宿場町を出て三日目の朝の事であった。金ぴか鎧も傷が多くあちこち凹んでいた。三人とも意識がないようなのでラッキーとばかりにみんなで協力して車内に放り込む。子供らには念のため天井の荷台に座っててもらう。
最寄りの宿場町で賞金首を捕縛したと衛兵に連絡し八半刻ほど待たされる。
捕まえた時の状況を説明すると、「どこの酔狂な人がそんな事を」などとボヤいていた。本当にそう思う。金貨100枚は高額である。
捕縛したのが俺でないとしても連行したのは俺なので俺に賞金が出る。ただし受け取りに時間がかかるとの事で正規の手続きだけ行い賞金は組合の口座に振り込んでもらう事になった。
更に彼らは犯罪奴隷として売られるので売れたら半額が俺の口座に振り込まれるそうだ。ただし犯罪奴隷は安いので価格は期待しないようにと言われた。
そして戦利品である。
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次話で幕間は一旦終了して本編に戻ります。




