幕間-48 召喚された者のその後⑬
宿場町の組合でこんなニュースを耳にした。ひとつは金ぴか男一行、自称”黄金の勇者一党”が脱走したという話だ。その際に衛兵を数人殺めており指名手配されたのである。確かに依頼掲示板にも手配書が出ている。賞金は生け捕りが前提で全員合わせて金貨100枚と結構大金だ。実際それを見た冒険者らはやる気に満ちている。
俺は争いごとは好きじゃないし無視無視。
もう一つのニュースは野盗集団が国境の町エタールで大暴れし衛兵に多数の死者が出た事。領主が急遽騎士団を派遣する事になった事が話題に上がっている。
襲撃されたのは俺らが出発した日の夜だったそうだ。まさか本当に危機察知能力が仕事するとは思わなかった。褒めたい。いや、褒めてくれ。
金ぴか男に襲われたくはないし出来る限り早めに出立しよう。俺は同伴しているオリヴィエと相談して運搬業務の依頼を受け物資の補充をした。そこでぼろい露天商の老婆から掘り出し物を買わないかと声を掛けられる。
急いではいたけど見ていくかと思い一通り眺めるていると何処かで見たことがある金属製の長さ7.5サルトほどの棒があった。
あれ? これって…………確か高屋君が持っていた光剣にそっくりである。確か量産品とは聞いていたけど…………そう思って値段を見ると金貨10枚と気軽に買える価格ではなかった。
「陽翔様。お金は稼げば増えますけど、魔法の工芸品は一期一会ですよ」
オリヴィエがそんな悪魔の囁きをする。手持ちの資金は金貨20枚しかない。
「君らを解放するための資金をおいそれと使えないよ」
俺としては出来れば成人祝いに解放してあげたいのだ。日本人としてリアル奴隷という立ち位置は許容できない。たとえWEB小説の異世界ものが大好きな俺でもだ。それに日本人の俺が思う奴隷とこの世界の奴隷が違ったとしてもである。恐らく単に自満足なのだろう。実際底辺より奴隷の方が裕福という話もよく聞く。
「そうですか…………」
そう言ったきりオリヴィエは押し黙ってしまう。
あれ?
俺なんか変なこと言った?
なんかモヤモヤしつつ七の刻判ごろ宿場町を出立した。今夜も野宿である。本当は宿屋の寝台でゆっくりしたかったのだけど嫌な予感がしたのだ。
▲△▲△▲△▲△▲△▲
悪い予感は当たった。
ただし当たって欲しくない方向でだ。
宿場町を出立して半刻。そろそろ市壁が地平線に彼方になろうかというときにそいつは現れた。夏の後月だけにまだ日は高い。その目立ちすぎる金色の装備は日に反射してかなりの遠距離からでも発見できた。
賞金首なので街には入れないのだから何処かで身を潜めて待ち伏せしていたのだろう。しかし出てくるのが早かった。
奴らは騎乗しており何やら奇声を上げながら追いかけてきている。
「クロニー。甲竜の速度を上げられる? 野盗が追いかけてきている」
「無理です!」
竜肌の厚みで鞭などは効果がないので基本的には一定の速度で延々と歩かせるしかないようである。
「オリヴィエ。得物を持って屋根に上がって」
それに対して無言で頷くと軽弩を持ってひょいと屋根に上がる。若干揺れる中で頑張って太矢を番えると片膝をつき射撃体勢を取る。
俺も屋根に上がって軽弩を準備する。
「人は狙わなくていい。馬に当てるつもりで撃って。足止めしてくれればいい」
俺はオリヴィエにそう指示する。馬と言っても彼らが乗っているのは訓練された軍馬ではない。恐らく農村あたりでパクってきた輓馬だろう。
命中しなくても驚かせてやるだけで十分と判断した。乗り手も日本人だしおそらくまともな騎乗経験はないだろう。
本音を言えばオリヴィエ達に殺しはさせたくないという思いがある。俺はもう何人も野盗とかを殺っているから開き直れるけどな。
時速1.6ノードで移動する俺らに対して金ぴか集団は時速8.1ノードで追ってくる。簡単な打ち合わせを行い射撃を行う。
それぞれの射撃はたまの訓練の賜物か俺の太矢は魔法少女風女の右肩に刺さり彼女はそのまま落馬する。あの速度で落馬とか無事では済むまい。オリヴィエの方の太矢は前回見たことがない肌色成分過多の法衣っぽい衣装の女が騎乗する馬の首筋に突き刺さる。
走っていた勢いそのまま倒れこみ乗り手の女もそれに巻き込まれる。あれも無事では済むまい。
取りあえず面倒な後衛職を戦線離脱させられたので良しとする。
金ぴか男が何か言っているが当然無視だ。だが彼は仲間を見捨てて一人で輓馬に鞭を入れ速度を上げて来た。基本的に生物で長時間走れる生物は居ない。輓馬を潰すつもりで追いつくつもりだ。
そうこうしているうちに金ぴか男は大型四輪馬車に追いついてしまった。射線から隠れてしまったので今は撃てない。俺は念のため軽弩を天井に置き片手半剣の柄に手をかける。
オリヴィエには射撃の用意だけを告げた。
「止まれって言ってんだよ。この変態野郎!」
その叫びが聞こえた時には大型輸送馬車から離れていく輓馬が見えた。飛び乗ったのか!
程なくして後方に突き出した荷台から屋根へと上がってくる金ぴか男。
「撃て」
俺は冷静にオリヴィエに射撃を命じる。
無言で引金を引くと距離にして1サートほどの金ぴか男に避けられなかった。右肩に突き刺さる。あの鎧は思ったより防御力が低そうだ。
痛みで絶叫あげるが必死に左手で片手半剣を抜こうとしている。お前右利きだろ。それ抜けるのとは思った。
しかしそんな間抜けに追撃が入る。オリヴィエは俺が置きっぱなしにした装填済の軽弩を取ると躊躇なく撃ち込んだのだ。
二射目は金ぴか男の左の大腿部に突き刺さる。金ぴか男はバランスを崩して落下していく。街道に叩きつけられ徐々に距離が開いていく。
金ぴか男が動く気配がない。それを見ていたレオタード風女とビキニアーマー女が馬の操作に手を焼きながら何かを叫んでいる。
その間にも徐々に距離が開いていく。
「クロニー。済まないけど今夜は交代で移動するよ」
月明かりを頼りに移動するしかない。まだ無事な馬がある以上は追いかけてくる可能性があるからだ。甲竜は徹夜移動程度で潰れる事はない。御者は三人で交代となるだろう。
兎に角少しでも距離を取りたい。そう言えば…………。
「オリヴィエは大丈夫?」
確定ではないがオリヴィエの射撃で死んだかもしれないのだ。精神的にどうだろうか?
しかし当のオリヴィエは手が震えているとか身体が硬直しているとかもなく、「大丈夫ですよ」と答えるのみだ。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。
あと二~三話ほどで本編に戻る予定。




