幕間-47 召喚された者のその後⑫
エタールへの道中オリヴィエと話をしていて思った事はスクリムは村の厄介者ではなかったのだろうかという事であった。根拠としては彼の名前である。
「普通、子供の名前に怪物の子なんて名前つけます?」
オリヴィエが言うには態々判らないように北方語で名前を付けるあたり結構深刻だという。
「そんな事よりオリヴィエって北方語も分かるんだ?」
「えっ、ほんの少しですよ。独立商人には必要な事だからって」
そう言ってオリヴィエはちょっと悲しそうな表情をする。
あ、しまった。殺されてしまった両親の事を思い出させてしまった。配慮の足りなさに後悔する。
しばらく無言のまま時間だけが流れていく。それを破ったのは御者を務めていたクロニーであった。
「ご主人様。エタールの市壁が見えてきましたよ」
国境沿いの町だけあって入都税と入国税を徴収する都合で門の前は行列が出来ている。
行列に並ぶこと一刻半ほどで待たされてようやく通過できた。子供らは入都税は不要であった。奴隷だからという理由である。法律上は俺の持ち物であり俺は冒険者なので基本的に入都税は免除なのもある。
ただしスクリム貴様はダメだ。
入都税と入国税を代わりに徴収されてしまった。
大型四輪馬車であるため街中での移動を禁じられたため駐車場に止める。ここも有料である。
郵便業務で受け取った荷物を台車に移しオリヴィエを伴って冒険者組合へと向かう。読み書きが不便な俺の代わりをしてもらう為だ。ついでに依頼をするというスクリムが着いてくる。
クロニーと子供たちは馬車でお留守番である。
荷物を組合の集配課と呼ばれる場所に持っていき手続きを終えて仕事完了である。とりあえず次の郵便業務の依頼を受けようって事で依頼掲示板を見に行く。
スクリムはと言えば野盗討伐の依頼の手続きを行っていたが芳しくないようだ。正直嫌な予感しかしないのでもう関わりたくないというのが本音だ。
「ご主人様。彼と関わりたくないのでしたらここは依頼を受けずに今すぐ町を出る事をお勧めします」
依頼掲示板を眺めつつオリヴィエがそう進言する。やはりそうなるか。
「物資の補給とかは大丈夫?」
「あと数日でしたら問題ないかと」
食料などの物資はオリヴィエに管理してもらっている。俺はどうもその手の管理が苦手なのだ。
触らぬ神に祟りなしである。オリヴィエを促して組合を出る。珍しく俺の鈍い警報が危険を告げているのだ。
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「ご主人様。お帰りなさい」
駐車場に戻るとクロニーが笑顔で出迎えてくれた。しかし思うにこのご主人様がどうも違和感を覚える。それもそうだ俺は自分の名を告げていないではないか。彼女らからすれば名前が分からないのだからご主人様以外に呼びようがないのだ。なんでそんな初歩的な事を失念していたんだ。
思い立ったがなんとやらとばかりに自分の名を名乗り忘れていた事を謝罪し以後は名前で呼んで欲しいとお願いする。
特に支度もないのでそのまま馬車もだし町を出る。
「ご、陽翔様はスクリム君の村を助けに行ったりはしないのですか?」
ご主人様と言いそうになったのを修正してクロニーが質問してきた。彼女は移動中は御者台に座らせたスクリムと一番会話していただけに親近感が沸いているのだろう。
でも駄目だ。根拠はないが危険感知能力のようなものが係わるなと告げるのだ。
「そうですか…………」
露骨に残念そうな表情をする。ま、確かにスクリム君は森霊族だけに細身のイケメンだからね。俺も相手が美少女なら迷ったよ。勿論そんな事は口にしない。
既に夕刻であったが急いで町を立った。その為に半刻もしたら陽が沈みかけている。次の宿場町までは月明かり頼りの移動となるので速度も落ちるし最低でも二刻はかかる。防犯上の理由で門も締まっているだろうし、この辺りで野営したほうが良さそうである。
少し開けた場所に大型四輪馬車を移動させ硬焼きライ麦パンと硬乾酪と干し肉と薄めた葡萄酒で流し込む。
葡萄酒と言っても出来立てのものは酒精も低いので子供でも飲むのだそうだ。勿体ないので水でさらに薄めるのが基本らしい。
先に見張りを担当したオリヴィエとクロニーと代わって夜半からは俺が一人で担当する。この時間帯はたまに真っ黒な狼が襲撃してくることがある。流石に大型犬の倍以上のサイズがある狼とオリヴィエを戦わせるなどという事はしたくない。
日の出まで特に襲撃もなく適当に朝食を済ませて出発する。毎回同じメニューの美味しくない食事でも文句ひとつ言わない子供らに感謝。
もっともうまい飯が食いたければ定住するのが一番なのだが十字路都市テントスまで行くのは既定路線なのでそれまでの我慢だ。
近場の宿場町の組合で仕事を受けさらに進む。最も治安がいいと言われるだけあってウィンダリア王国国内は平穏そのものである。
もうこれは到着したも同然だな。
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