幕間-46 召喚された者のその後⑪
助けた者はなんと男の森霊族の少年であった。その彼は食事を終え再び寝てしまった。
だがどこか様子がおかしい。まずエルフ語を話さない。さらに中原語と公用交易語を交えて話す。オリヴィエのいう事によれば日常生活が中原語ベースなので恐らく癖ではないですかとの事だ。
この森霊族だけど、まず年齢が15歳だという。長寿の森霊族って肉体の成長が遅いんじゃないの?
これは実は間違いで人型生物に限ればごく一部の短命種を除いて15歳で肉体的成長は完了するのがこの世界のようだ。
では精神年齢が遅れるのではと思った。彼は恐らく人間社会で育ったのではないだろうかとの事である。もしかしたら取替え子かもと言ったのはオリヴィエであった。
両親の家系に森霊族に血が混ざっており隔世遺伝で生まれた可能性があるとの事だ。迷信深い農村部などでは排斥される事もあるとの事だ。勿論オリヴィエ情報である。この12歳児凄いんだが…………。
取りあえず見張りを立てて休むことになる。前番はクロニーとオリヴィエで途中で俺と交代する。
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今朝のご飯もみんな仲良く回復食である。ただし細かく刻んだ干し肉が入っていたけど。そう言えばこの安い干し肉の肉って巨大鼠だって聞いたときは吐きそうになったけど今ではマズいながらも食えている。順応してきているなと実感した。
昨日は碌に会話できずに寝てしまった森霊族君だけど多少回復したようで、「お礼が遅くなってすみません。大変助かりました」と丁寧な礼を言われた。それなりの教育を受けた痕跡がありそうである。
「ボクの名前はスクリムスラバーンと言います。みんなはスクリムと呼んでます。アペ村の森の庵の賢者様の元で弟子として住み込んでいました。親は判りません」
そこでいったん言葉を切り疑問を口にする。
「ところでここはどこですか?」
「たしか宿場町のルンドから旧街道を北上してウィンダリア王国の国境沿いの町のエタールに向かっているんで、その何処か…………だよな?」
地理に明るくないしこの世界ってまともな地図がないので現在位置とか判らないんだよね。スマホがあってネットに繋がればなとつくづく思う。
「恐らくエタールまで7.5サーグくらいの位置かと」
そう囁いたのは勿論オリヴィエである。不思議に思うのだけどこれだけ優秀でなんで処分奴隷だったのと思う。子供は安いから先行投資で買って教育を施せば主人としても助かると思うんだけどなぁ。
スクリム君の話ではアペ村に突然野盗が現れて瞬く間に村を占拠してしまったという。手練れらしく連帯もしっかりしており恐らく訓練の行き届いた軍人崩れではないかと賢者様が言っていたという。彼はエタールの冒険者組合に救援依頼を出すためにこっそり村を抜け出したのだという。ただ初めて村の外に出て見事に迷ってしまったのだという。
「今頃村はどうなったのか心配です」
エタールまでの食料などもあっただろうけど、それでも空腹で倒れていたという事は結構日時が経過しているのでは?
「今更依頼を出して間に合うと思う?」
俺は残酷だとは思ったけど聞かずにはいられなかった。
「では、ボクはどうすればいいのでしょう? ここにはボクを導いてくれる先生も居ない。何をしていいのかわからないのです」
あ、ロボット症候群って奴だ。人によっては奴隷根性なんて言う者もいる。どういう症状かと言うと、『全ては教えられないと』、『説明されないと』、『指示されないと』、『世話をやかれないと』、動かないというか動けない。 重症になると指示されない事に不満を抱くようになってくるのだ。 まさに他人におんぶにだっこ状態である。言動を見ていると重症まではいっていないようだけど結構問題ありそうではある。
この手のタイプは問題が発生しても指示されなかったからだと主張する。非常に傍迷惑な存在だ。
助けたことを思いっきり後悔した瞬間である。
「取りあえず目的地は同じようですし先に進みましょうよ」
空気を読んだのかクロニーが立ち上がり御者台へと向かう。
「そうですね」
そう言ってオリヴィエが子供らに片づけの指示を出す。子供らも手慣れたものでてきぱきと片づけを行い八半刻後には出発した。
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