幕間-44 召喚された者のその後⑨
もう数話続けます。
「知らない天井だ」
いつも思うけど言ってみたかったんだよね。いや、俺は何度だって言うぞ。
冗談はさておき本当に知らない天井なのである。
見回すと簡素な造りの寝台に清潔そうな寝具。部屋の大きさは四畳半程度だろうか? 周囲に人の気配はない。
そうだ。オリヴィエ達はどうなったんだ? そこに思い至り慌てて上体を起こす。どれくらい寝ていたのかやや倦怠感があるが斬られたはずの痛みはない。服も清潔な貫頭衣だ。身体を触った感じでは傷跡がないように思う。
その時だ。突然扉が開いた。ノックもなしかよと思ったものの相手は寝ていると思ったのかもしれないと思いなおす。
「あれ? 起きたんだ。体調とかはどうだい? お腹空いていない?」
白衣を着た俺が起きているのに気が付き矢継ぎ早に質問を投げつけて来た。
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いま居るところは衛兵隊の兵舎で白衣の男はそこに勤務する治療専門の医療魔導師という職だという事だ。
俺の意識がなくなった後にあった事を順々に話していってくれた。
一部オリヴィエからの伝聞になるが、金ぴか男が倒れた後に俺も意識を失い助けるすべがなかった時に頭巾付き外套の頭巾を深々と被った男が姿を現し全員を魔法で治療していったんだそうだ。金ぴか男の一味は魔法少女っぽいのを除いて拘束され駆けつけた衛兵隊に連れていかれた。
彼らは現在も地下牢に放り込まれている。
そして俺はなんと2日も意識が戻らなかったというのだ。この時間が惜しい時に2日も?
「ところで俺の――――」
「あ、女の子らは兵舎の空いている部屋で休んでいるよ。君が起きるまで側にいるって聞かなかったんだけど流石に疲れて寝ちゃったからね」
それを聞いてちょっと安心した。ちょっと?
「それにしても君は若いのに随分と慕われているね。普通の労働奴隷は頼みもしないのに主人に付きっきりで看病を申し出る事なんてないんだよ」
基本的には借金を肩代わりに強制力のある労働契約しただけの間柄だからだそうだ。でもそれは俺が処分奴隷から救ったからじゃないのだろうか?
何もできない子供が死の淵から救ってもらって頼る者が自分たちを買った人物しかおらず幾日も生活を共にした訳だし単なる依存のような気がするな。
「保護してもらってありがとうございます」
まずは礼の述べ本来の用事を済ませなければと起き上がろうとすると止められてしまう。
「子供らはまだ休んでいるし君も今日はここでゆっくりしていきなさい」
白衣の医療魔導師はそう言うと立ち上がり、「何か食べやすいモノでも貰ってくるよ」と言って部屋を出ていった。
お粥を食べ一晩寝たらかなり回復していた。五の刻ごろ礼を言って兵舎を出る。なんか子供らの雰囲気が変わったような気がするのは気のせいだろうか?
オリヴィエとクロニーは割と積極的に声をかけてくるようになったし他の6人も表情が明るくなった気がする。
俺らは当初の予定通りに馬車職人のところに赴き中古の二頭立て四輪荷馬車を探していると告げる。
すると気難しそうな馬車職人は破顔して、「お前さんは先日に職人街でならず者から幼い少女を庇った勇者殿ではないか」などというのである。
馬車職人は俺の事が気に入ったようで見た目は簡素だが中古の高性能の二頭立て四輪荷馬車を格安で譲ってくれた。
その二頭立て四輪荷馬車はとある共同体が発表した新素材を用いた一品で骨格に超々強軽銀製を用いており軽量で丈夫というのが売りだ。外装板も合板と断熱材を用いているし足回りも板バネの懸架装置にゴムを用いた車輪と透明度はやや低いが薄い板ガラスの窓までついている。
大きさも9人で旅をするにはそれなりに余裕のあるサイズでマイクロバスくらいある。
座席も倒せばベッドになるし最後部には流行りの便所が個室として設置されている。また外部には畳2枚ほどの荷台が突き出ていた。全長2サート+荷台あり天井は手摺が付いているので荷物を載せたり人を乗せる事も出来る。リセール価格も良いとの事で多少値が張ってもコレが良いぞと押された。
曳馬が見つかっていないと告げると専門の業者を紹介してもらった。
曳馬が見つかるまでに整備してもらう話となりその間に見繕いに行こうとなってぞろぞろと9人で街を歩くと人々が俺の事を勇者、勇者と呼び露店の店主らがこれを持って行ってくれと旅に必要な様々なものをくれるのである。
業者のところに着いた時には9人とも両手に荷物を抱えている様であった。
「あの二頭立て四輪荷馬車を使うなら輓馬2頭よりこいつの方がいいと思うぞ」
業者のおっさんがそう言って進めてきたのは巨大な亀のような生物であった。
オリヴィエが息をのむ。甲竜と呼ばれる鈍竜の亜種で非常に珍しく大人しく御し易いうえに輓馬10頭分の力を持つことで独立商人の間では欲しがる人は幾人もいるという。しかも長寿の為か一族で代々受け継いでたりするので市場に出回ることはほぼないのである。
「それってお高いんでしょ?」
「普通に買うならね。勇者殿はどこまで行くんだい?」
「十字路都市テントスまでだね。恐らくそこで売り払う予定だ」
そう告げるとおっさんは破顔した。
「実はこいつは売り物じゃないんだよ。俺としては信用できそうな人を探していてこいつを十字路都市テントスまで連れて行ってもらいたかったのさ」
渡りに船だというのである。代金もいらないから指定の人物に返却して欲しいとの事であった。
「どう思う?」
隣に居るクロニーに問うと、「これにしましょう」と鼻息荒く答えたのであった。なんか甲竜の優しげな眼と大人しい気性が気に入ってしまったようだ。
御者担当のクロニーが気に入った子ならと思ったけど、手放すとき泣いたりしないだろうか?
結局甲竜を預かる事になった。時間的に今日は出発するには遅いので明日の朝に門の前まで馬車を曳いて持っていくよと言ってくれたので本日はそのまま宿屋で休むことになった。
数日予定が遅れたけどまだ期日までには余裕があるな。
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