幕間-43 召喚された者のその後⑧
金ぴか男の取り巻きであったコスプレ風装備の女たちが囃したてる中、後ろに控えていた巨漢の男が進み出て来た。上半身は裸同然で最低限急所のみ金属製の板で守っているが何故か頭部の密閉型兜であった。得物は巨大な大鎚矛である。
近くまで来るとその圧倒的な体躯に圧を感じる。身長は0.5サートは優に超えている。金ぴか男の引き立て役か何かだろうか?
「あいつを挽肉にしちまえ」
その引き立て役の男に向かって金ぴか男が高圧的に命じた。巨漢の男は意味不明の奇声を発すると巨大な大鎚矛を担いでドスドスと走り寄ってくる。
高屋君なんかと比較するとなんか動きが稚拙だなとか思えてしまう。後ろでクロニーが「逃げてください」と叫んでいるが俺は棒立ちのままである。
誰か官憲を呼んできてくれないだろうか?
間合に入ると巨大な大鎚矛を大きく振り下ろした。付与された一流の戦士としてのスキルが最小限の動きで勝手に身体を避けさせる。振り下ろした巨大な大鎚矛は2.5サルト側をを通過し石畳を叩き割る。
それでようやく野次馬も危機感を覚えたのか悲鳴を上げて逃げはじめた。出来れば騒ぎを聞きつけ官憲が来てくれることを祈ろう。
再び挽肉化の為に巨大な大鎚矛を持ち上げる。そして次こそは潰すと言わんばかりに奇声を上げて一歩踏む込んできて大きく振りかぶった。重さと遠心力で上体がやや泳ぐ。
巨大な大鎚矛が振り下ろされる瞬間、『ここだ!』付与された技能が最適解を示す。
俺も片手半剣を抜くと僅かに早く間合いを詰め巨漢の軸足となっている左脚、それも脛を薙ぎ払うように振った。
西洋の直剣を鈍器と例える人がいるが重いので刃が潰れても鈍器としても有効というだけであって刃筋を立ててキチンとした使えば十分斬れる。
俺の一撃は巨漢の肉を断ち骨も…………安物の片手半剣では至らなかった。
だが、その一撃で軸足に体重を乗せられなくなった巨漢は巨大な大鎚矛の勢いを殺せず大きくバランスを崩して倒れこんだ。
あれ? 俺ってやっぱそこそこ強い?
巨漢の傷は結構深く痛みで奇声を上げつつジタバタと暴れ始めた。それを眺める俺の視界の端に何かが飛来してくるのが見えた。
「あっっちぃぃぃぃぃぃ」
咄嗟に回避したつもりではあったが避けられなかったようで何かが俺の硬革鎧の胸部装甲に命中し弾けた火の粉が顔に当たる。
よく見ればどうみても魔法少女コスにしか見えない女が魔法のステッキを向けていた。道中であればオリヴィエに軽弩で狙撃させるところだけど生憎と街中なので武器を携帯させていないのだ。冒険者として登録するので以後は装備を携帯させようと思うのであった。
そう考えていると魔法少女コスの女が再び魔法を発動させた。先ほど命中した【炎の矢】だろう。南方で短い間であったけど高屋君にレクチャーを受けた。魔法は微誘導するけど急激に方向転換できないので頑張れば避けられるという話を思い出した。
功を奏したのか次弾は左上腕の服を焦がすにとどまった。投射タイミングさえ掴めば何とかなりそうな気がした。
だが相手も引くに引けなくなったのかレオタード風の女とビキニアーマーの女も参戦してきたのだ。
ビキニアーマーの方は大剣でレオタード風の方は両手に手甲鉤を装備している。戦士タイプと格闘家タイプかな?
三人で連帯されるとやりにくいなと思ったものの相手は自分こそが仕留めると意気込んでおり結果として山賊や海賊の下っ端レベルまで落ちていた。
技能が勝手にビキニアーマー女の大剣の一撃を受流しをして上体のバランスを崩したところに素早く無防備すぎる柔肌に深々と切裂いた。致命傷だろうか?
仲間が倒れたショックなのか自棄なのか奇声を上げてレオタード風の女が飛び掛かってきた。段取りも無視してが回し蹴りを放ってきたのを避け足が通過して無防備な背中を晒したところへ片手半剣を振り下ろす。
しかしその一撃は手甲鉤で…………受け止めるどころか装備している腕ごと切裂いてしまった。会心の一撃である。
斬られた腕の傷口を押さえてゴロゴロと絶叫を上げ転がるレオタード女を無視して周囲を見回す。魔法少女は馬鹿の一つ覚えなのか【炎の矢】を放ったのだけど流石に三度目ともなるとタイミングを見計らって切払いをした。技能が勝手にだけど。
そこで気が付いたのだ。あれだけ目立っていた金ぴか男が居なくなっているのだ。
その瞬間。
「ご主人様!」
オリヴィエの悲鳴に似た叫びで振り返った瞬間、袈裟気味に斬りつけられていた。
「雑魚が。手間取らせやがって」
そう口にしつつ血振りをしている金ぴか男が居た。そこそこ防御力があると思っていた硬革鎧も見事に切裂かれ出血が続く。技能依存の為不意を突かれると素の能力に依存されるのだ。俺は戦闘訓練どころか武道すら嗜んでないのでなんて基本的には素人である。無防備なかたちで斬られてしまった。
出血で意識が遠くなってきた気がする。
「お前を殺して彼女らは俺が美味しく頂いてやるから安心して逝け」
金ぴか男は身体を屈め片手半剣を逆手に持つと俺の心臓に狙いを定め――――。
俺の技能は悪足掻きをした。寝転がり力が入らない身体から右手が勝手に動き必殺の刺突が金ぴか男の黄金の鎧の腹部に突き刺さっていた。
「な、なんで…………」
事態が理解できず金ぴか男が崩れるように倒れる。
「ざまぁ見やがれ」
思わずそう口にしてしまっても許されるだろう。
オリヴィエやクロニーが何やら叫んで走ってくる。
済まないがもう何も聞こえない。嗚呼…………視界も黒く――――。
「すまない」
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