幕間-42 召喚された者のその後⑦
商人組合で馬車職人への紹介状を書いてもらい職人街を歩いていた時である。
「おい、この変態野郎。彼女たちを解放してやれ!」
そんな罵声が聞こえた。変態野郎? 誰の事だ。
「幼い少女を奴隷として連れ歩いて人として恥ずかしくないのか!」
幼い少女?
あれ?
もしかして俺の事か?
「おい、お前! 聞こえないのか! シカトするな!」:
妙に違和感を覚えるその声は若い男のようだ。変態ってどういう意味だ? まさか俺が彼女らを性的搾取しているとでも言いたいのだろうか?
泥にまみれて恥も外聞もなく人前で土下座してまでして金を借りて救出した娘を性的目的とかこいつは何を言っているんだと思ったが、後ろで叫んでいる男らにはこちらの事情など知る由もない。彼らの罵声によって通行人も足を止めて俺らに注目している。だが彼らは内容まで把握しているような感じではない。
面倒だなと 思って振り返ると変態たちがいた。
こちらを指さし怒鳴り散らしている青年は金メッキみたいなピカピカの黄金の全身甲冑を身に纏い深紅の生地に金糸で派手に刺繡の施された宝飾外套を身に着け密閉型兜は左手で小脇に抱えている。腰に佩いた片手半剣は派手な柄から鞘に至るまで派手な宝飾が施されていた。
「貴様! 同じ日本人として恥ずかしくないのか!」
日本語でやたらと憤ているが同じ日本人? 確かに取り巻きも含めて黒髪に黒目で黄色系の人種だが…………。
あ、でも確かに顔立ちは日本人だな。違和感の正体はそれか。俺は現地語は勉強しているがあまり会話できない。召喚の際に【通訳】の魔術が付与されている関係で大抵の言語は意味が理解できてしまうので口の動きを見るまで気が付かなかった。
「いきなり怒鳴りつけてくる君らは何者なん?」
あまり相手にしたくないなと思いつつ問いかける。しかし彼らは、
「ふっ。人に名を問うときは自分から名乗るものだろう。そんな事も知らないのか。この三下め」
そうキメ顔で宣った。あえて見ないようにしていた取り巻きの女たちが黄色い声を上げ賞賛を送る。
「あ、俺は別に君らには興味がないんで名乗りとかは結構です。知りたくもないし。単にそっちが呼び止めたから誰かと問うただけなんで」
そう言って踵を返して目的地へと歩き始める。オリヴィエもクロニーもどうしたものかと戸惑っていたけど俺が無視を決め込むと分かったので黙って追従してくる。
「貴様! この世界に請われて召喚された黄金の勇者たる漣悠真を無視するというのか! 無礼にもほどがあるぞ!」
そう叫んで激高した。取り巻きも殺っちゃえと囃し立てる。参ったなと思い振り返るとガシャガシャと全身甲冑特有の金属音を鳴らしこちらに迫ってくる。そしてオリヴィエの隣に並ぶとおもむろにオリヴィエの腕を掴み、
「君はこんな屑に従う事はない!」
そう叫んだ。当のオリヴィエは戸惑っている。取り巻き達も他の娘を庇うように立ち俺を睨みつけている。
正直思うんだ、ビキニアーマーとかレオタードっぽいコスプレ風装備があまりにも痛々しすぎて出来る事なら関わりたくなかった…………。この世界基準ではあんな肌色成分多い衣装とか普通に痴女扱いだぞ。恐らく召喚されたのだろうけど日が浅いのだろうか?
「当の本人が戸惑っているので放してやってくれないか」
オリヴィエは日本語が理解出来ないので怒鳴り散らす金ぴか男に突然腕を掴まれ対応に困っている。金ぴか男らはそれが理解できないようだ。
「やめてください!」
突然武装した男に腕を掴まれやや怯えていたがオリヴィエが勇気を振り絞ってそう叫んだ。偉い。
意味は理解出来ないだろうが激しい拒絶の言葉だとは理解できたようで金ぴか勇者は思わず手を放してしまう。
「なにを言っているんだ。俺らは君たち救おうとしているんだぞ!」
自分らの善意が伝わらない事にイラついたのか声を荒らげてしまう。そう言うのが嫌われる要因だぞ。
解放されたオリヴィエは素早く身を翻し俺の後ろに隠れる。それを見た金ぴか男は下卑た笑みを浮かべる。
「なんだ。調教済みかよ。これはNTRするしかねーな」
本性を現したのだ。
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