496話 他の妖精族たち
ひとりになりあらためて考える。闇森霊族らの生き方としては僕らに協力するメリットがなくなれば躊躇うことなく裏切るだろう。ただし彼らにも恩を感じる心理はあるので暫くは問題ないと思う。袂を別つときは穏便に済めば良いのだけど。
そんな事を思いながら闇森霊族らの訓練場所から妖精族らの居住区へと移動する。ここは港湾領都ルードの中でも自然を残したエリアで木々と小さな湖ある。湖の面積は85000スクーナ、帝都ドーム三個分ほどで水深は2.5サートほどである。そこに[水精霊の宝珠]を沈め水の精霊界から透明度の高い水を引き込んでいる。
ここの湖底に水霊族が生活している。僕が湖畔まで近づくとそれに気が付いた一人が湖底から浮上してきて水面から顔を出す。光の屈折で歪んで見えるが彼女たちは全裸である。水の中で暮らすのに服は邪魔なので着る習慣がないのだ。
当然だが全裸あることに羞恥心がないので目のやり場に困る。一応陸に上がる際には服を着る程度には人族社会の事は理解しているのが救いだ。
「なにか御用?」
「実は水の精霊石を用立てて欲しいんだ」
この精霊石というのは特定の妖精族が自らの属性に基づいた精霊を封じた宝石だ。そして対応する精霊魔法を強化する事や魔法の工芸品の素材に利用する。
「あれは時間と労力が結構かかるのだけど沢山必要なの?」
そういう水霊族さんの表情が曇る。結社で結構酷使されてきた事もありここでも同じ目に合うのかと懸念しているのだ。こちらが頼んで来て貰ったわけではないのだけどタダ飯を食わせる気はない。
「取り合えず二個で良いんです。あとは要相談で」
「そうなの? それならいいわ。それで、いつまでに用意すればいいの?」
思ったほどきつくないと思ったのか途端に声が弾む。実のところ一個は魔法の工芸品で使うけどもう一個は自動工場で複製するための確保したいだけだったりする。ただしそれは言わない。
「そうですね…………。二週間もあれば大丈夫ですか?」
正直どれくらい大変なのか判らないのでそれなりに長めの期間を指定してみた。
「それなら問題ないわ」
そう言ってにっこりと笑みを浮かべる。あ、これは実はそんなにかからないやつだとか思ったけど夏の後月の末日までに必要なモノが揃えばいいので特に急かす気はない。
俺を言って次の目的地へと向かう。
次に来たのは同じ敷地の森の境界線あたりである。ここには風霊族と氷霊族たちが家を建てている。彼らの生活様式は森霊族に近い。彼らにも同じように精霊石の制作を依頼する。同じように二週間で二個用意して欲しいとお願いしてさっさと次の目的地へと向かう。
次の目的地は職人地区である。ここには多くの地霊族の職人たちと共に炎霊族が生活している。
炎霊族は炎の精霊との親和性が高く炉の温度を上げる事が出来るとの事で地霊族達に拉致られここで生活しているのだ。
彼らにも精霊石の制作を依頼する。
こちらは色よい返事が返ってきており一週間で四個は用意できると言って来た。それが無理なく作れる量だという。
他にもやることがあるだろうし予定通り二個ずつ用意して欲しいとお願いして次の目的地へと向かう。
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「疲れた…………」
一通り住民たちの様子を見て戻ってきたのは夕刻であった。連れて来た人らと話し合って分ったことは聖職者が数人居た事だ。ただし神官見習いばかりである。呪文使いは貴重だ。
彼らは奇跡を発現させることが可能で最低でも【軽傷治療】の使い手が数人増えたのはありがたい事であった。
夕飯後に魔導機器技師のハーンから相談がありますとの事で彼の職場である白鯨級潜航艦の艦内格納庫へと赴くと整備台に何処かで見たような騎体が固定されていた。
そいつは全身金色の重装甲で所々見栄え重視の鎖帷子を用いている重量級の騎体だ。
「こいつは――――」
「貰いものです」
僕が問うより先にハーンが貰ったと言い切った。こいつは南方の最南端王国アサディアスの魔導機器組合に置いてあった成金趣味の騎体だったはずだ。
「こっちが本命じゃないっす」
そう言ってハーンが示したのは奥の資材置き場にある布で覆われた何かだ。
「アレは何だ?」
「偉い人が置いていったお土産っす」
意味が分からなかった。
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